ライソゾーム病の一種であるムコ多糖症II型(ハンター症候群)に対して、全身症状だけでなく 、血液脳関門を通過し脳実質細胞への直接の作用を発揮する初めての医薬品で ある。
独自の血液脳関門通過技術J-Brain Cargo®を適用した世界で初めての医薬品で 、ムコ多糖症II型において、点滴静注により血液脳関門通過を可能にした治療酵素製剤としても、世界で初めての医薬品で ある。
血液と脳(そして脊髄を含む中枢神経系)の組織液との間の血液脳関門は酵素タンパクのような高分子化合物は通さない。
J-Brain Cargoを使用することで、薬剤を脳に届けることに成功した。
脳実質細胞への直接の作用により、中枢神経系症状の改善または進行の抑制が期待でき るとしている。
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ライソゾーム病は難病の一つ。
ライソゾームは細胞の中の「ごみ処理工場」のような役割をしている細胞内小器官で、細胞の内外の老廃物がこのライソゾームにある「酵素」で分解され、代謝される。
それらの酵素の一つが生まれつき欠損しているか、その働きが低下していることによって、その酵素によって分解されるべき物質が老廃物として体内に蓄積し、さまざまな症状を引き起こすのがライソゾーム病である。
ハンター症候群は、「イズロン酸-2-スルファターゼ」と呼ばれる酵素が生まれつき欠損しているか、その働きが低下していることによって発症するX染色体連鎖劣性遺伝性疾患。
成長するに伴い、さまざまな臓器や組織が次第に損なわれていく進行性の病気で、「関節拘縮」「中枢神経障害」「骨変形」「肝臓や脾臓の 肥大」「呼吸障害」「心臓弁膜症」などがあらわれる。
患者数は世界で約7800人、日本で約250人。重症型が2/3で、知的障害を伴う。
従来の酵素補充療法は、血液脳関門により酵素が脳内に移行せず、中枢神経系に作用しない。
このため、ハンター症候群の約70%に認められる精神発達遅延や神経退行症状に対する治療効果は期待できない。
中枢神経症状の改善には、医薬品の有効成分を中枢神経に届ける高度な技術開発が求められている。
JCRは、血液脳関門を通過させて脳内に薬剤を届けるために、JCR独自技術である血液脳関門通過技術 J-Brain Cargo®の開発を進めてきた。
今回、J-Brain Cargo®を適用した世界で初めての医薬品を開発した。
仕組みは次の通り。
『鉄』は生きていために不可欠な微量金属だが、単体では反応性に富み、有害である。このため、血液中では鉄の輸送タンパクであるトランスフェリンと結合し安定することで、毒性を抑えている。
全ての体細胞におけるトランスフェリン-鉄複合体の取り込みは,トランスフェリン受容体(TfR)を介して行われている。
J-Brain Cargoは、ヒトトランスフェリン受容体を特異的に認識するヒト化抗体である。
ハンター症候群は、「イズロン酸-2-スルファターゼ」が欠損しているため、ヒトイズロン酸-2-スルファターゼの遺伝子組換え融合タンパク質を補填するが、そのままでは血液脳関門を通過 しないため、これとJ-Brain Cargoを結合する。
薬剤と結合したJ-Brain Cargoはトランスフェリン受容体(TfR)を介して脳に取り込まれるため、ヒトイズロン酸-2-スルファターゼの遺伝子組換え融合タンパク質も一緒に脳に取り込まれ、不足分が補填される。
J-Brain Cargo®は、血液脳関門を通過するだけではなく、これまで薬を届けることが難しいとされていた骨格筋にも効果的に薬を届けられる特徴を持っている。
JR-141は現在、ブラジルにおいて製造販売承認を申請中で、また、米国・ブラジル・欧州(イギリス、ドイツ、フランス)におけるグローバル臨床第3相試験の開始に向けた準備を進めて いる。
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ライソゾーム病関連でのJ-Brain Cargo利用での開発状況は下記の通り。ライソゾーム病関連以外でも開発している。
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JCRファーマは日本でAstraZenecaのワクチンを製造受託している。
既存設備を利用して原液を製造しているが、3月4日に新工場を神戸市に建設すると発表した。7月に着工し、2022年10月の完成を予定している。
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