LG Chemの電池子会社LG Energy Solution は3月12日、2025年までの5年間で米国に45億ドル以上を投資すると発表した。少なくとも2工場を建設、米国での電気自動車の成長に対応し、能力を70GWh増やす。
2020/9/19 LG Chem、電池部門を分社 (2020年12月1日発足)
LGはGMとのJVのUltium Cells LLCで、オハイオ州 Lordstown の近辺に23億ドルを投資して生産能力30GWh+α の次世代グローバルEVバッテリーシステムの生産工場の建設中で、2022年の稼働を目指している。両社は急速なEV普及に対応するために 能力35GWhの第2工場の建設を協議中だが、今回の発表はこれとは別である。
2020/1/3 GMとLG Chem、世界最大級のEV用電池工場建設計画を発表
第2工場についてはLG側は「上半期中に投資規模や建設場所を確定する」と述べた。能力は35GWhとしている。
候補地としてテネシー州Spring HillのGMの組み立て工場が挙がっており、州当局との話し合いを行っている。
GMはこの工場で20億ドルを投資し、電気自動車(Cadillac Lyriq など)工場を建設すると発表している。付記 GMとLGは4月16日、第二工場のテネシー州Spring Hillでの建設を発表した。記事
LG単独ではミシガン州Hollandに5GWhの工場を持ち、GM、Ford Motor、Chrysler などに供給しているが、2工場が完成すると、米国では単独で75GWh、GMとのJVで65GWhの能力となる。
ミシガン工場はオバマ米大統領が2010年7月の起工式に参列するなど注目されたが、いろいろな問題が発生した。
2013/9/10 LG化学のミシガン州のリチウムイオン電池工場、生産開始2か月で停止
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LGは「Green New Deal(大規模エコ投資)」政策により急成長が予想される米国の電気自動車バッテリー市場で先手を打つ。
GMは次の5年間で電気自動車と自動運転車に270億ドルを投資すると発表しており、電池需要が増大する。同社は1月に、2035年までにガソリン車、ディーゼル車の販売を全廃すると明らかにしている。
新たに建設する設備では、自動車用のパウチ型とエネルギー貯蔵システム(ESS)向けパウチ型に加え、ピックアップトラック専門のEVメーカ ーのLordstown Motorsや、EVバスメーカーのProterraなど、電気自動車のスタートアップを中心に需要の大きい円筒型バッテリーも生産する。
電池には角型、パウチ型(ラミネート型)、円筒型がある。
民生用は円筒型が一般的だが、自動車用では円筒型の場合、セルとセルの隙間が無駄になるため、余り使われない。その中でTeslaは円筒型を採用している。円筒形セルの代表的なサプライヤーはパナソニック、LG化学とBYD等 の中国企業である。
他の企業が角型に集中する中、LGはパウチ型に注力する。「設計、価格、工程と寿命、熱性能の面で競争力を持つ」としている。ロイターによると、LGはTeslaのニューモデル向けに4680型(直径46㎜、高さ80㎜)円筒型のサンプルを作ったとされる。(現行は直径21㎜、高さ70㎜)
LG は上半期に工場候補地を選定する計画で、新しく建設する工場は、100%再生可能エネルギーのみで運営する。
今回の投資で、LG Energy Solution は、急成長が予想される米国の電気自動車、ESS市場でトップの座を強固にすると予測されている。
LG Chemは韓国と米国のほか、ポーランドと中国にも電池工場を持ち、各地で増産計画を進める。調査会社テクノ・システム・リサーチによると、2020年の世界シェアは23%で中国寧徳時代新能源科技(CATL)の26%に次ぐ2位につける。
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一方で、この時点での発表には裏があるのではとの見方もある。
LG Chemが同業のSK Innovationを車載電池の営業秘密の侵害で訴えていた係争で、米国際貿易委員会(ITC)は2月10日、SK Innovationに米国への輸入禁止命令を下した。
SK Innovationは米ジョージア州で建設中の車載電池工場で部品調達ができず生産停止を迫られる。(実際は両社の和解を求めたものである。)
2021/2/12 米ITC、SK Innovationに輸入禁止命令
SKの生産が停止となれば、電気自動車促進(Green Transportation Goal)を公約に掲げるバイデン大統領のグリーンエネルギー 政策に悪影響を与えるという見方がある。
Georgia州選出の民主党上院議員は議会で、ITCの決定はジョージア州の労働者とバイデン大統領の電気自動車推進策への "a severe punch in the gut" であると批判した。これを受け、 米運輸省はSKとLGの対立がバイデン大統領の方針に与える影響を分析すると発表した。
今回の発表はこれに対する牽制であるとの見方もある。 自社の投資拡大を通じて米国でのバッテリー需要に十分対応が可能だと主張するものという。
また、SK Innovationの工場があるジョージア州の知事はバイデン大統領に対し、SK Innovationに関する決定を覆してほしいと要請した。
これを受け、LG側は新しく建設する工場を同州に決めたいとの申し入れを行った。また、SK Innovationの工場を買いたいとする向きがあれば、LGもこれに加わって運営を引き受けたいとのレターを同州の議員に送ったとされる。
実際には、ITCの命令はSKに今後の生産を禁止するものではなく、事実上の猶予期間を設定し、LG Chemとの和解を促するものである。
金額の問題だけであり、SKがLGの提案をのめば、大統領のグリーンエネルギー 政策に悪影響を与えることにはならない。
企業間の紛争に政治が関与するのはおかしい。
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