現在、欧米で承認されているPfizer/BioNTech と ModernaのワクチンはともにmRNAワクチンである。
Developer/manufacturer | Platform | Type | doses | Timing days |
Route | Phase | 承認 |
Pfizer / BioNTech + Fosun Pharma |
RNA | BNT162 (3 LNP-mRNAs ) | 2 | 0, 28 | IM | Ⅲ |
UK 2020/12/2 |
Moderna / NIAID | RNA | mRNA -1273 | 2 | 0, 28 | IM | Ⅲ |
FDA 2020/12/17 |
mRNAワクチンは、Katalin KarikoとDrew Weissmanの研究が基になっている。
発表当時、ほとんど無視されていた論文に注目した2人のうちの1人がModernaの創業者 Derrick Rossiである。(もう一人はBioNTechのUğur Şahin社長で、Katalin Karikoは現在、同社のSenior Vice President である。)
Derrick Rossiは カナダのトロントで生まれた。トロント大学で分子遺伝学を学び、 ヘルシンキ大学で博士号をとり、2003年から2007年までスタンフォード大でポスドクを勤めた。
2006年に山中伸弥博士がマウスのiPS細胞作製成功を発表した。
Rossiによると、「山中伸弥教授によるiPS細胞の素晴らしい発見がアイデアの発端になっています。2006年にiPS細胞の論文が発表されたときにすぐに目を通して、ほかのすべての科学者と同様に、感銘を受けました 。ただ、山中氏は当時『山中4因子』をレトロウイルスで運ぶことでiPS細胞を作製していました。実際の治療などに用いられるには、このウイルスを取り除かなければならなかった。 」
当初、iPS細胞は 繊維芽細胞に4因子(Oct3/4、Sox2、Klf4、c-Myc)を、それぞれレトロウイルスやレンチウイルスなどのウイルスベクターで導入することで樹立された。
しかし、再生医療への応用に際して、ゲノムへのウイルスベクター挿入に起因する腫瘍形成が危惧されていた。またウイルスベクターは実験のたびに厳密に管理された実験室で作成する必要があり、iPS細胞技術の普及の障害となった。
Rossiは2007年にHarvard Medical School の助教授に就任、自分のラボを持ったが、iPS細胞を、ウイルスを使わずにmRNAを使って作成することを考えた。4因子をウイルスに運ばせるのではなく、4因子の設計図であるmRNAを導入し、細胞内で4因子を作成するものである。
しかし、mRNAを入れた細胞は死に、うまくいかなかった。免疫系が異物と認識し、炎症反応を引き起こすためで、Katalin Kariko とDrew Weissmanが苦労した点である。
mRNAは、「アデニンA」「ウラシルU」「シトシンC」「グアニンG」という4種類の塩基からなる。
Katalin KarikoとDrew Weissmanは、その一つをわずかに細工すること(RNA修飾)で免疫系をすり抜け、炎症を回避し、細胞にたんぱく質を作らせる手法を考えた。ウラシルから誘導されるヌクレオシドはウリジンであるが、ウリジンをシュードウリジン(Ψ)などに置き換えると、mRNAの二次構造が変化し、効果的な翻訳を可能にしながら、自然免疫系による認識を低下させる。
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Rossiはさまざまな方法を探る中でKarikoたちの論文に行き着き、実際にKarikoらが発表した方法に基づいて修飾したmRNAを使 い、2009年にmRNAによるiPS細胞の作成に成功した。
山中教授のグループはRossiの成功前の2008年10月10日に、ウイルスを使わずiPS細胞樹立に成功したと発表している。
マウス胎仔線維芽細胞に、3因子(Oct3/4、Klf4、Sox2)をこの順で搭載したプラスミドと、c-Mycのみを搭載したプラスミドを同時に導入し、iPS細胞を樹立した。
Rossiは同僚のTimothy Springerに連絡、SpringerはMIT最高位のInstitute Professorの一人のRobert Langerにコンタクトした。
2人から説明を聞いたRobert Langerは大発明だと考えた。RNAの設計を変えれば、細胞内で多種多様なタンパク質を作り出せる、これを利用すれば新しい医薬品、新しいワクチンが作れると伝えた。
RossiはFlagship VenturesのNoubar Afeyanに説明、数カ月後にRossi、Springer、Langer、Afeyan等が新会社Moderna を設立した。
社名のModerna は発明の基であるmodified mRNAから採った。
RossiのModernaは、iPSをつくるためにウイルスを除去する構想から生まれ、コロナウイルスのワクチンを生んだ。Rossiは当時を振り返り、「今と同じように『ウイルス』がキーワードだった」と述べている。
山中教授は述べている。
モデルナは2010年に、デリック・ロッシという幹細胞研究者が持つ技術を医療に役立てるために誕生したベンチャー企業です。その技術は、メッセンジャーRNAを使ってiPS細胞を樹立するというもので、私たちが10年前から取り組んでいた研究と同種のものでした。
モデルナの研究者は、研究開発をiPS細胞のステージから大きく広げました。だからこそ迅速なワクチンの開発に成功したわけです。
アメリカでは、このように大学から企業へ橋渡しする役割をベンチャーが担う形で、医療応用が次々と実現しています。
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Karikoは、Derrick Rossi が山中教授のiPS発明からmRNA利用を思いつき、Karikoらの論文を見付けて成功したことに触れ、「もし山中教授がいなければ、もしiPS細胞の発見がなければ、私たちの論文が 『発見』されることはなかったかもしれません」と述べている。
Karikoの発明がなければ、mRNAワクチンはなかったかも知れない。
Derrick Rossiは、彼ら(Katalin KarikoとDrew Weissman)の論文は「根底をくつがえす」もので、ノーベル化学賞に匹敵すると述べている。
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