日本の新型コロナワクチンの最大問題はワクチンの入手問題であるが、注射器の問題も大きい。
ファイザーのワクチンは、小瓶に1.8 mlの塩化ナトリウムを加えて希釈し、注射剤2.25 mlが得られる。各患者に与える注射は0.3mlとなっている。計算上では2.25 ml ÷ 0.3ml =7.5 で、7回の投与は可能である。
日本で一般に使われている注射器は注射器の端に薬が残る構造になっている。残った分は捨てざるを得ず、1回で0.3ml 以上が必要となり、1瓶で5回分となる。
欧米ではその部分にゴムを詰め、薬が残らない Loaded 注射器が流通している。日本ではニプロがLoadedタイプ注射器をタイで製造しているが、 製造能力は月50万本である。同社では4~5カ月かけてタイの工場の設備を増強し、製造能力を 数百万本に引き上げるが、増産分は9~10月ごろに国内に届く見通し。
2021/2/16 ファイザーワクチン「5回」問題
日本の最初の接種はこのニプロの注射器を使用したが、河野大臣は3月5日、高齢者向けの ワクチン接種をめぐり、1瓶から6回接種できる特殊な注射器の調達が4月12日の接種開始に間に合わない、と発表した。当面は1回分を廃棄することになり、少なくとも3月中は廃棄が出る 。
最近、ワクチン注射器について、下記が話題になっている。
1.7回接種説
新型コロナウイルスのワクチンについて、宇治徳洲会病院は3月8日、糖尿病患者に使われるインスリン用の注射器を使うことで、1瓶あたりの接種回数を、国が通知している1瓶5回から、7回に増やせると発表した。
Source: https://www.mbs.jp/news/kansainews/20210308/GE00037322.shtml |
この注射器は、本体と針がくっついていて、ワクチンの液が残ってしまうデッドスペースがほとんどない。
問題は、この注射器は皮下注射に使われ、針の長さが、深い筋肉注射をするワクチン用の注射器の半分以下と短い。通常は4~8mmが使われている。最も長いものは13mmである。
ファイザーのワクチンの場合、筋肉注射で、25mmの針が必要とされる。
しかし、宇治徳洲会病院では、日本人は欧米人よりも皮下脂肪が薄く、インスリン用で筋肉注射が可能だとする。
職員14人の上腕部の脂肪の厚さを超音波検査(エコー)装置で測ったところ、筋肉まで最大 9.1mm、平均 6.4mmで、全員、皮下注射器でも筋肉注射できることを確認した。
ファイザーのワクチンは、計算上では2.25 ml ÷ 0.3ml =7.5 で、7回の投与は可能である。
実は、欧州や韓国ではLoaded注射器でも7回接種が可能であることが話題になっている。
但し、一人0.3mlは絶対必要であり、これを確実に実施しようとすれば、どうしても余分に吸い取りこととなり、個人差により7回分が取れないケースが多出した。7回目の分が0.3ml未満になると捨てざるを得ない。
7回をルールにすると、7人目の人が注射できないことになる。
韓国の新型コロナワクチン予防接種推進団は「7回分を取れる場合も取れない場合もあるため、ワクチン計画を7回分として計算することはできない。また、変数があまりにも多い。目で見てワクチン残量が1回分あると思って注射器に入れたものの実際には0.1mlでも不足していれば、注射器を捨てることになる」と説明した。
このため、欧州でも韓国でも7回説は消えた。韓国の専門家は「ワクチンを分ける人たちのストレスも考える必要がある。現場に余裕がなければミスが生じやすく、疲労感がまた別の事故を招く」と指摘した。
韓国の疾病管理庁は「7回分を取って使用すべきという指針」は出さず、「6回分をとっても1回分として使用できるほど十分な量が残る場合、廃棄する必要ない」と伝えた。
宇治徳洲会病院の方法については、実現すればメリットは大きいが、下記の問題があると思われる。
・欧州や韓国のLoaded注射器と同様、普通にやって常時7回分がとれるとは思えない。
・針の長さはギリギリで、個人差もあれば、注射の角度の違いで筋肉に入らない可能性がある。
田村厚生労働相は「皮下注射用で針が短いため、脂肪が少なく筋肉まで針が届く人でなければ使えない。エコー検査で調べて筋肉まで届くのであれば、医療機関でやってもらうことは否定しない」とした。
河野太郎規制改革相は、「大いにやってほしい。アイデアをどんどん出してもらい、柔軟性を持ってやる非常に良い例だ」と歓迎した。
付記
河野大臣は3月11日、一転して、「政府としては推奨はしない」と述べた。インスリン用注射器の生産や在庫量が限られ、糖尿病患者らから懸念の声が出ていることに触れ、「当初の目的に足りなくなるようなことがあってはいけない」と慎重な対応が必要との認識を示した。
加藤官房長官は「適正な接種を担保する必要があり、国としてこの方法を広く推奨する予定はない」としている。
2. テルモの改良注射器
医薬機器メーカーの「テルモ」は、ひと瓶で7回の接種が可能で日本人の身体に合わせた注射器を開発し、3月5日に厚生労働省が製造・販売を承認した。
2009年に発売した皮下注射を想定した針植え込み式注射器「FNシリンジ」を改良、針を最長の13mmから3mm 長くし、16mmとした。FNシリンジは針が注射器に植え込まれており、注射器を押し切った後も内部に薬液がほとんど残らない構造となっている
筋肉注射には一般的に長さ25mmの針が使われるが、日本人の体形を分析したところ、16mmあれば十分な効果が得られると判断した。
薬液が残る量は0.002ミリリットルで、従来の一般的なローデッド品に比べて約15分の1に減らせる。針が短くなりさらに注射器と一体化したことで内部にとどまる薬液量が減った。
社内実験では、ファイザー製のワクチンひと瓶から7回分を取ることができたという。
これも常時7回分取れるとは思えない。しかし、Loaded注射器と同様、6回なら大丈夫であろう。 針の長さも問題ないと思われる。
同社の甲府工場で今月末にも量産体制が整う見通しで、2021年度に年2千万本を生産する計画。
付記
ニプロは7回接種できる注射器を開発、年内にも大館工場の既存ラインで生産を開始する。3月13日の日本経済新聞が報じた。
針の長さは、筋肉注射で一般的な25mm で、インスリン注射用の約2倍あり、接種対象者の皮下脂肪の厚さをエコー検査で確認する必要がない。
形状を工夫し、接種後に注射器に残る薬液は0.002ミリリットルと、ニプロの6回接種用と比べ30分の1に減らす。
3. 韓国品
既報の通り、韓国では3社がLaoded注射器を大量に生産している。「LDS=Low Dead Space(最小残留型)」と呼ばれる。
Poonglim Pharmatechは、世界20カ国から2億6千万個以上の注射器購入の要請を受けたと伝えられた。日本から約8000万個の購入要請があったとされる。
2021/2/20 コロナワクチンの特殊注射器、日本が韓国に供給要請?
新亞洋行は、韓国で初めて最小残留型注射器を開発し、米国FDAの認証と欧州CE認証を取得した企業で、同社の生産能力は月500万個だが、6月以降は生産ラインを増設し、月1千万個の生産が可能になる。
朝日新聞デジタル(2021/3/6)によると、日本の業者からも2月下旬に、5千万個以上の納品を打診されたという。
日本の輸入には医薬品医療機器等法に基づき、厚労省の認可が必要だが、申請に問題がなければ、認証審査は2週間程度で終わるという。
しかし、厚労省では「注射器の確保に向けて、国内外のメーカーの製品や生産能力を調査している段階」という。
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