原子力規制委員会は3月24日、柏崎刈羽原子力発電所でテロ対策に不備があったとして、東京電力に核燃料の移動を禁止するなどの是正措置を命じる行政処分を行う方針を決めた。
正式に決定すると、事態が改善されたと判断されるまでは再稼働ができない状態が続くことにな る。
付記
原子力規制委員会は4月14日、柏崎刈羽原発のテロ対策の不備を問題視し、原発再稼働に必要な核燃料の移動や装塡を禁じる行政処分の是正措置命令を決定した。
東電に対し原因究明と再発防止策を盛り込んだ報告書を9月までに提出するよう求めている。
付記
この問題を受け、原子力規制委員会が全国の原発を調べたところ、3月に東京電力の福島第二原発でもテロ対策上の不備が相次いで確認された。
福島第二原発の1号機と4号機で、防護区域につながっている通路に管理されていない扉があることが確認され、東京電力は扉を閉鎖する措置をとった。
また福島第二原発では、防護区域の出入り口で金属探知機による点検などの手続きが十分行われていなかった。
更に中部電力浜岡原発では関連会社従業員が手続きなしで原発内に入ったほか、四国電力伊方原発では周辺防護区域に至る場所で閉鎖措置が不十分な開口部があった。
柏崎刈羽原発については昨年来、大きな問題が相次いで発生している。(詳細後記)
2020年9月に社員が中央制御室に不正に入室する問題が発生した。
東電は7号機の新規制基準に基づく安全対策工事が2021年1月12日に完了したと発表したが、その後、施行ミスや未完のものが次々と見つかり、2月26日に検査日程を「未完」と変更した。他の箇所でも問題がないか点検する。
さらに、2020年3月以降、テロリストなどの侵入を検知する複数の設備が壊れ、その後の対策も十分機能していなかったことが明らかになった。
原子力規制委員会は3月16日、柏崎刈羽原発の核物質防護設備の機能一部喪失について、安全重要度評価 を「赤」とし、3月23日に「対応区分:第4区分」として扱うことを伝えた。
安全重要度評価 (原子力施設の安全確保に対する劣化程度) |
対応区分 (検査指摘事項の重要度評価及び安全実績指標の分類に応じて) |
|||
良 |
赤 | 安全確保の機能又は性能への影響が大きい水準 | 第5 区分 |
監視領域における活動目的を満足していないため、プラントの運転が許容されない状態 |
黄 | 安全確保の機能または性能への影響があり、安全裕度の低下が大きい水準 | 第4 区分 |
各監視領域における活動目的は満足しているが、事業者が行う安全活動に長期間にわたるまたは重大な劣化がある状態 | |
白 | 安全確保の機能または性能への影響があり、安全裕度の低下は小さいものの、規制関与の下で改善を図るべき水準 | 第3 区分 |
各監視領域における活動目的は満足しているが、事業者が行う安全活動に中程度の劣化がある状態 | |
緑 | 安全確保の機能または性能への影響があるが、限定的かつ極めて小さなものであり、事業者の改善措置活動により改善が見込める水準 | 第2 区分 |
各監視領域における活動目的は満足しているが、事業者が行う安全活動に軽微な劣化がある状態 | |
第1 区分 |
各監視領域における活動目的は満足しており、事業者の自律的な改善が見込める状態 |
また、同発電所における一連の核物質防護事案について、直接原因や根本的な原因の特定、安全文化および核セキュリティ文化要素の劣化兆候(第3者により実施された評価を含む)を特定し、その内容を踏まえて、改善措置活動の計画を定め、本年9月23日迄に報告するよう指示した。
原子力規制委員会はテロ対策に大きな問題があるとして、3月24日に行政処分について検討が行われた。
更田委員長は、「テロの対象ともなる核燃料を移動させないことが現状では核物質の防護につながる」などとして原子炉に核燃料を入れたり、新しい燃料を運び込んだりといった核燃料の移動を禁止する是正命令を提案し 、委員からは「いまは応急措置が取られているだけで、万全な体制とは言えず、核燃料の移動禁止などは必要。問題の根は深い」などの意見が出され、この処分案を承認した。
規制委員会では今後、内容を詰めて東京電力に処分案を示し、意見を聞いたうえで正式に是正措置の行政処分が決まる が、改善されたと判断されるまでは柏崎刈羽原発は再稼働ができない状態が続くことにな る。
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1)不正入室問題
本件は直ちに原子力規制庁に報告したが、原子力規制庁は安全重要度評価は「白」、「対応区分:第2区分」とした。
「赤」とされた検知設備の機能喪失はテロリストの入域の可能性の問題であるのに対し、こちらは実際に他人のIDカードで中央制御室に入っており、はるかに重大である。規制庁の「白」評価はおかしい。
その後、設備の健全性を確認する検査を進めていたが、1月27日に6、7号機中央制御室用の陽圧化空調機が保管されている区域のダンパーの設置工事が完了していないことを確認した。
同様のことが無いかを改めて徹底して確認したところ、火災感知器の設置工事が一部未完了であること、原子炉建屋地下1階の配管床貫通部の止水工事が一部未完了であることが判明した。
未完了と分かった4件には、設計側と工事側の連携の不十分さが共通すると説明している。(福島第一でも昨年来、地震計の故障を放置しており、先月の地震を観測できなかった。)
東電は2月26日、7号機の再稼働に必要な一連の検査の終了時期を従来の6月から「未定」とすると発表した。検査の終了時期が見通せなくなった。
3) 侵入検知装置の不備
2021年1月27日、協力企業が侵入検知装置を誤って損傷させる事案が発生し、同日、原子力規制庁に報告した。
2月12日 に本件侵入検知設備の機能の一部が復旧した状況を報告、その際、他の侵入検知設備の故障状況を問われ、12箇所の故障があり、代替措置を講じていることを説明。
その後、他の侵入検知設備3 箇所の故障を加えた15箇所について進捗状況に関する資料を原子力規制庁に提出したが、規制庁から15箇所の内10箇所で代替措置が不十分な状態で30日以上経過しているという趣旨の指摘があった。
規制庁の聞き取りに対して現場の担当者は代替措置が不十分だと認識していたと答えたというが、発電所の上司には共有されず、本社にも報告されなかった。
2月21日から3月4日まで原子力規制庁による現地検査が行われ、以下の点に関する指摘を受けた。
東電の代替措置が、2020年3月以降、複数箇所で実効性があるとはいえず、不正な侵入を検知できない可能性がある状態が、長期間にわたり改善されていない 。
社員警備員は代替措置に実効性がないことを認識していたにもかかわらず、改善していなかった 。その結果、不正な侵入を30日を超える期間で検知できない状態になっていた可能性があること
以上のような状態を、組織として十分に把握できていない状況にあること
2018年1月から2020年3月までの期間においても、侵入検知設備の機能の一部喪失が複数箇所発生し、復旧するまでに長期間を要していた 。
東電の報告を受けて規制庁が問題を認識、立ち入り調査で確認して分かった事態であり、それがなければ、今もテロリストが侵入できる状態であったことになる。
原子力規制委員会は3月16日、「柏崎刈羽原子力発電所は、組織的な管理機能が低下しており、防護措置の有効性を長期にわたり適切に把握しておらず、核物質防護上重大な事態になり得る状況にあった」として、暫定評価として「重要度評価:赤」の通知を した。
3月5日 に、故障設備の修理・補修により、全ての故障箇所が復旧していることを確認した旨、原子力規制庁へ報告 した。
当該箇所における不正侵入は確認されていない。 侵入検知設備の故障等が新たに発生した場合において、実効性がある代替措置が実施できる体制を構築済。
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原子力規制委員会は2020年9月23日、柏崎刈羽6、7号機の再稼働に向けた審査で、東電が保安規定に盛り込んだ安全に対する基本姿勢を了承した。 福島第一原発事故起こした当事者に原発を再び動かす「適格性」が担保されたと認めた。
今回の問題を受け、原子力規制委員会は1年以上かけて追加検査して原因を究明する。
原発を運転する「適格性」も審査し直す必要がある。更田委員長も「(原子炉設置変更許可取り消しの)議論が出てくるということは否定しない」と述べている。
「いま問われているのは東京電力の核物質防護そのものへの姿勢で懸念が消えておらず、少なくとも柏崎刈羽原発では、核燃料の移動をする資格がない疑いがあると思っている。原子力規制委員会の発足後、検査で見つかった事例の中でいちばん重いと言っていいと思う 。」
今後については「この事案を重大だと思っているからこそ、詳細や背景など、いま明らかにできることは明らかにする必要があり、東京電力にはしっかりした分析を望みたいし、私たちも拙速な判断は避け、しっかりした検査を加えていきたい」と述べ、東京電力による原因分析と、その後の検査に1年以上かかるとする見通しを改めて示した。
仮に原子力規制委員会が再稼働を認めたとしても、地元の了承が得られるとはとても思えない。
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