米国の大学が開発した新しいタイプの新型コロナウイルスワクチンがこのほど、ベトナムなど数カ国で臨床試験(治験)に入った。
既存のインフルエンザワクチンと似た製造手法で安価に大量生産でき、一般の冷蔵設備 (2~8℃)で数週間にわたり保管が可能という。
新ワクチン「NDV-HXP-S」は、University of Texas at Austin と、Icahn School of Medicine at Mount Sinai 及び National Institute of Allergy and Infectious Diseases Vaccine Research Center の研究グループが共同で開発した。
University of Texas at Austinの研究チームは、コロナウイルスを長年研究してきた実績を持つが、 新型コロナウイルスの発生で「スパイクタンパク質」に着目した。
中国の研究者によるゲノム配列の発表後、「極低温電子顕微鏡法」と呼ばれる最新鋭の技術を用いて新型コロナウイルスのスパイクタンパク質の分子構造をマップ化し 、2020年2月19日にScience誌に発表した。
スパイクタンパク質は容易に形を変えるため、 これをもとにワクチンをつくっても、そのままでは人体は認識できない。このためチームは、ワクチンが体内に入っても形を維持するよう、スパイクタンパク質のS2 subunit の2か所を変えている。チームはこれ以前に中東呼吸器症候群(MERS)のウイルスのスパイクに変更を加え成功した実績があり、そのまま使った。
Pfizer、Moderna、J&Jなどのワクチンはすべてこの改良スパイクタンパク質を利用している。
チームはその後も研究を進め、コロナ由来のスパイクタンパク質をさらに加工し、安定性を高めることに成功した。これまでのワクチンはスパイクタンパク質の S2 subunit の2カ所を変えているが、この「NDV-HXP-S」は S1 subunitの4か所を加え、6か所を改良したもので"HexaPro" と呼ばれる。(4 beneficial proline substitutions : F817P, A892P, A899P, A942P and 2 proline substitutions in the S2 subunit)
下図は改良スパイクタンパク質の模型で、赤は4つの追加のproline と呼ばれる改良点
ワクチンのベクターとして、無害化した組換えニューカッスル病ウイルス(Newcastle disease virus)を使用する。
NDV-HXP-Sの名前はNewcastle Disease Virus ー HexaPro spike から採ったものである。
新しい改良により熱や化学品に対する耐性が強まり、一般の冷蔵設備(2~8℃)で数週間にわたり保管が可能という。
ModernaやPfizer/BioNTech のワクチンは特別な施設で高価な材料を使って作成されるが、「NDV-HXP-S」はインフルエンザワクチンと同様、鶏卵を使って作成するため非常に安価である。
この点は中低所得国にとって特に重要である。
PATHを通し新興国などに幅広く無料でのライセンス供与を進め、ワクチンへのアクセス拡大を支援する 。
これまでにベトナムやタイ、ブラジル、メキシコなど多くの国がこのワクチンの国内生産・治験に向けたライセンスを取得した。
ベトナムは同国保健省傘下のワクチン・医学生物学研究所(IVAC)、タイは保健省管轄下で医薬品を製造供給するタイ国営製薬公社(GPO)の主導で治験を進める。
ブラジルでは、サンパウロ州立のButantan Institute が"ButanVac"という名前を付け、当局に治験認可を申請した。
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