政府、福島原発処理水  薄めて海洋放出の方針決定

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政府は4月13日、総理大臣官邸で関係閣僚会議を開き、東電・福島第一原発で増え続けるトリチウムなど放射性物質を含む処理水の処分方法について議論し 、海へ放出する方針を決めた。

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東電は放射性物質を取り除く専用装置で汚染水を浄化した処理水を原発敷地内のタンクに保管している。2020年末までに137万トン分のタンクを確保したが、これでタンク建設用地は無くなる。

汚染水は2020年中に1日平均約150トンまで減らしたが、2022年夏~秋にはタンクが満杯になる。

この処理水の処理について、多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会で検討してきたが、経済産業省は2019年12月23日、とりまとめ案を公表した。
5つの処分方法を検討してきたが、薄めて海に流す「海洋放出」と蒸発させて大気中に出す「水蒸気放出」という前例のある方式に絞り込んだ。

1979年の爆発事故のThree Mile Island -2号炉では汚染水を浄化した後に残る放射性物質トリチウムを含んだ水について、近くの川への放出が検討されたが、下流域の住民が反発した。このため1991年から93年にかけて約9000トンを蒸発させ大気中に放出処分した。

トリチウムを含む水は薄めて海に流すことが国際的に認められている。海洋放出を問題視している韓国でも、月城原発が2016年に液体で17兆ベクレル、気体で119兆ベクレルを放出しており、古里原発も2016年に液体で36兆ベクレル、気体で16兆ベクレルを放出した。

2020/1/1 福島第一原発処理水の処分、海洋・大気放出に絞る

報告書は水蒸気放出について大気中での拡散の仕方の予測が難しく、放出濃度の監視に難があると指摘する一方、原発などで実績のある海洋放出を「確実に実施できる」と記しており、政府は海洋放出に絞った。

なお、報告を出した小委員会の委員からは、「現在あるタンク容量と同程度のタンクを土捨て場となっている敷地の北側に設置できるのではないか」「敷地が足りないのであれば、福島第一原発の敷地を拡張すればよいのではないか」などといった意見が出されたという。敷地の北側の土捨て場に大型タンクを設置することができれば、約48年分の水をためることができると試算されている。

2020年8月7日付の"Science"誌に米ウッズホール海洋研究所のKen O. Buesseler博士が投稿した。

トリチウムの半減期は12.3年であり、60年経てば97%のトリチウムは無くなる。半減期の短い他の放射性物質も同様だ。この間に現在の4倍の処理水が溜まる。タンク漏れのリスクはある。
現在放出の理由とされる土地問題は、現在の敷地外にタンクをつくれば解決する。

汚染水の放出は回復中の地域の漁業にマイナスの影響を及ぼしかねないため、大衆の心配を無視してはいけない。放出する場合、海水と海洋生物、海底堆積物のモニタリングに地域の漁民と独立的な専門家が参加しなければいけない。

2020/8/12 福島原発汚染水問題で、60年保管説

付記

東京電力は放出に備え、タンクを23基建設する。能力140万トンとなり、計算上は2023年春までもつ。
多核種除去設備(ALPS) 近くにある35基を処理水の放出準備にあてる。放射性物質の濃度を測ったり、放出前に海水で薄める設備に送ったりする 。

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政府は水蒸気放出には関心を示さず(東京方面に流れるのを懸念したとされる)、海洋放出を決定する方針を固め、2020年10月末にも決定するとされていたが、強い反対を受け、「さらに検討を深め、適切なタイミングで結論を出していきたい」とした。

しかし、最近になり、菅首相が動いた。

菅首相は4月7日、全国漁業協同組合連合会の岸宏会長と官邸で面会し、放出決定への理解を求めた。岸氏は改めて反対を伝達したが、首相は会談後、「近日中に判断したい」と述べた。

政府は4月13日、総理大臣官邸で関係閣僚会議を開き、東電・福島第一原発で増え続けるトリチウムなど放射性物質を含む処理水の処分方法について議論し 、海へ放出する方針を決めた。

菅首相は、「福島第1原発の廃炉を進めるに当たって避けては通れない課題」と指摘。その上で、「基準をはるかに上回る安全性を確保し、政府を挙げて風評対策を徹底することを前提に海洋放出が現実的と判断し、基本方針を取りまとめた」と語った。

経産省は「福島第一原発における多核種除去設備等処理水の処分に関する基本方針」を発表した。概要は次の通り。

トリチウム及びトリチウム以外の放射性物質についてICRPの勧告に沿って従来から定められている安全性に関する原子炉等規制法に基づく規制基準厳格に遵守

海洋放出に当たっては、安全に係る法令等の遵守に加え風評影響を最大限抑制するための放出方法客観性・透明性の担保されモニタリングを含むを徹底

海洋放出について同処理水を大幅に希釈した上で実施

第三者の関与を得つつ、ALPS処理水トリチウム濃度確認するとともに、トリチウム以外の放射性物質が安全に関する規制基準を確実に下回るまで浄化れていることについて確認し、これを公表する

トリチウム濃度は、規制基準を厳格に守するだけでなく、在実施している福島第一原発のサブドレン等の排水濃度の運用目1,500ベクレル/リットル7未満)と同水準とする

この水準を実現するためにはALPS処理水を海水で大幅(100以上)に希釈する必要があるなお、この希釈に伴い、トリチウム以外の放射性物質についても、同様に大幅に希釈されることとなるALPS処理水を100倍以上に希釈することで、希釈後のトリチウム以外の告示濃度比総和は、0.01満となる。

放出するトリチウム年間の総量は、事故前の福島第一原発の放出管理値(年間22兆ベクレル内外の他の原発から放出されている量の実績値の幅の範囲内下回る水準になるよう放出を実施し定期的に見直す

風評影響に対応するため、福島県及びその隣県の水産業始めとした産業に対しては、地及び海外を含めた主要消費地において販路拡大・開拓等の支援を講じる

東京電力には、風評被害が生じた場合には、セーフティネットとして機能する賠償により、機動的に対応するよう求める

東京電力には今後、2年程度後にALPS処理水の海洋放出を開始することを目途に具体的な放出設備の設置等の準備を進めることを求める。


今後たまり続ける分も含めて、流し終えるまでに30~40年かかる見通し。

原子力規制委員会の更田委員長は、タンクの耐用年数は約20年のため、「海洋放出が長期間にわたるなら当然、タンクの置き換えは考えないといけない」と述べた。

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2020年12月11日に、約137万㎥のタンクの設置を完了


2020年12月31日現在 貯蔵量 116万m3

 うち 告示濃度比総和 1未満 (そのまま薄めて放出可能) 32.4万m3

 告示濃度比総和 1~5   37.4万m3
        5~10    20.8万m3
        10~100  16.2万m3
        100以上  6.2万m3
        合計   80.6万m3

    他に再利用タンクに 3万m3


東電は当初、第一原発の汚染水を処理した後の水にトリチウム以外の複数の放射性物質が残留していることは公表せず、2018年8月に新聞が報道して初めて明らかになった。

2018/8/29 福島原発のトリチウムを含む低濃度汚染水を巡る問題 

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福島の漁業関係者は、「約束違反」としてこの決定に猛烈に反発している。

2015年にサブドレン計画が出された。

第一原発の山側からは地下水が建屋側へ流れ込み、これが内部の溶融燃料に触れて汚染水が増える要因となっている。

「 サブドレン計画」は、建屋内に流れ込む地下水を減らし高濃度汚染水の増加を抑えることなどが目的で、原子炉建屋を囲む41本の井戸から地下水をくみ上げ、浄化装置で処理し、放射性物質の濃度を基準以下にして海に放出する。地下水を150トンに半減できると試算し た。

これについていろいろあったが、最終的に福島県漁連は2015年8月11日、条件付きで計画を容認する文書を国と東電に提出した。

東電は2015年8月25日付で廣瀬直己社長名で回答している。

東京電力(株)福島第一原子力発電所のサブドレン水等の排水に対する要望書に対する回答について

4. 建屋内の水は多核種除去設備等で処理した後も、発電所内のタンクにて責任を持って厳重に保管管理を行い、漁業者、国民の理解を得られない海洋放出は絶対に行わない事

(回答)
 ・ 建屋内の汚染水を多核種除去設備で処理した後に残るトリチウムを含む水については、現在、国(汚染水処理対策委員会トリチウム水タスクフォース)において、その取扱いに係る様々な技術的な選択肢、及び効果等が検証されております。また、 トリチウム分離技術の実証試験も実施中です。
 ・ 検証等の結果については、漁業者をはじめ、関係者への丁寧な説明等必要な取組を行うこととしており、 こうしたプロセスや関係者の理解なしには、いかなる処分も行わず、多核種除去設備で処理した水は発電所敷地内のタンクに貯留いたします。

     https://www.tepco.co.jp/news/2015/images/150825a.pdf

東京電力は9月14日、「サブドレン」からくみ上げて浄化した汚染地下水の海洋放出を始めた。 合わせて海側遮水壁の残る部分の工事を開始した。

2015/8/4 福島の漁協、サブドレン地下水の海洋放出容認


今回の決定はこの約束に反するものであるとし、「国も東電も信用できない」としている。

これに対し、経産省幹部は、(今回は放出を決定しただけであり)「関係者の理解なしには、決定をおこなわない」とは約束していないとし、実際の放出までに理解を得るとしている。

2年後に実施する時点で、関係者の理解が得られない場合は(その時点ではタンクは満杯)、どうするのだろうか。

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