福島原発汚染処理水の海洋放出問題

| コメント(0)

前記の通り、政府は4月13日、総理大臣官邸で関係閣僚会議を開き、東電・福島第一原発で増え続けるトリチウムなど放射性物質を含む処理水の処分方法について議論し 、海へ放出する方針を決めた。

中国外交部は4月15日に日本の垂秀夫駐中国大使を呼び出し、日本政府の決定に厳正な申し入れを行った。

国際法及び国際ルール違反の疑いがあり、現代の文明国のする行為ではない。中国側はこれに強い不満と断固たる反対を表明する。

第1に、福島原発事故による汚染水の処理問題を考え直し、海洋放出という間違った決定を撤回すること。
第2に、国際機関の枠組で中国の専門家を含む合同技術作業チームを設置し、原発汚染水処理問題が厳格な国際的アセスメント、査察、監督を受けるようにすること。
第3に、利害関係国や国際機関との協議を通じた合意に至る前に、原発汚染水の海洋排出を勝手に始めてはならない。

記者会見で日本人記者が中国も放出していると述べたのに対し、報道官はこう述べた。

福島第一原発では最高レベルの原発事故が発生した。そこから生じた汚染水は正常な稼働時の原発の汚染水とは全く別物だ。そうでなければ、日本もこれまで汚染水をタンクに厳密に密封しておく必要はなかった。両者を一緒くたにして論じることはできない。

韓国の文大統領は4月14日、国際海洋法裁判所に放出の差し止めを求める暫定措置を含む提訴を検討するよう指示した。

暫定措置とは、国際海洋法裁判所が最終判断を下すまで、紛争当事者の利益を保存し、日本が汚染水を海洋放出できないようにする一種の「仮処分」を指す。

1999年の「みなみまぐろ事件」では、日本の調査漁獲に対し豪州、NZによる即時中止の暫定措置要請が認められた。(その後の仲裁裁判所はこれを無効とした。)


提訴された場合、うまく対応しないと仮処分が認められる可能性がある。


ーーー

海への放出決定の理由の一つは、トリチウムを含む水は薄めて海に流すことが国際的に認められていることである。

中国も韓国も大量のトリチウムを液体及び気体で放出している。

しかし福島では核燃料に接触した汚染水であり、ヨウ素129、セシウム135、セシウム137をはじめとする12核種が含まれる。

今回、トリチウム以外の放射性物質が規制基準を超えているものは再度ALPSで浄化し、安全に関する規制基準を確実に下回る ようにした上で、海水で大幅(100以上)に希釈する ため、トリチウム以外の告示濃度比総和は、0.01満となる。

濃度は低いが、総量としては大量の放射線物質を海に流し込むことになる。
トリチウムとは異なり、これは国際的に認められたことではない。
これが海の生物に長期的にどのような影響を与えるか不明である。

自民党の山本拓衆院議員はブログで書いている。

東京電力の発表によると、ALPS処理水タンク内の処理水を試験的に二次処理したところ、トリチウム以外にもヨウ素129、セシウム135、セシウム137をはじめとする12核種が除去できていないことが明らかになっています。

そのうち11核種は通常の原発排水には含まれない核種であり、処理水を通常の原発排水と同様に考えることはできません。

なお、二次処理後も残る核種には半減期が長いものも多く、ヨウ素129は約1570万年、セシウム135は約230万年、炭素14は約5700年の放射性物質です。

ALPS処理水の海洋放出については、トリチウムのみの安全性を議論するのは、正しくありません。

医学博士ではなく、工学博士が「人体に影響がない」と処理水の安全性を主張しても説得力がありません。

このような状況で、通常の原発排水とは全く異なるALPS処理水を海洋放出することとなれば、福島第一原発事故から10年を経て、さらなる風評被害の拡大を招くことになります。

ーーー

国内には、「どうしても海洋放出しなければならないのであれば、東京湾から始めて、全国の海岸に広げて行ったらどうだろうか。福島の海にだけは流してはいけない」との声がある。

大阪府の吉村知事は4月13日、「政府からの要請があれば大阪湾での放出も真摯に検討したい」と述べた。
放出される処理水の放射性物質の濃度は国の放出基準を下回り、「世界基準でも安全だ」と強調。「風評被害を福島だけに押しつけるのはあってはならない。電力を特に消費するエリアを含め全国で協力すべきだ」と語った。


東京湾や大阪湾に放出するにはタンカーで輸送する必要があるが、タンカーで運んだ汚染水を現地で放出することはロンドン条約及びロンドン議定書で禁止されている。

ロンドン条約、同議定書は「海洋において廃棄物を船舶その他から故意に処分すること」を禁止している。陸上からの処分はこれからは対象外となる。

この条約、議定書では、福島での海洋放出は禁止対象ではなく、汚染水をタンカーで運び、そこから放出するのが禁止対象となる。(福島での海洋放出はしてもよいということではなく、この条約での判断の対象外ということ)

ーーー

「廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約」(通称:ロンドン条約)は、1972年12月にロンドンで採択され、1975年8月に発効し、我が国は1980年10月に同条約を締結した。

第1条 
締約国は、海洋環境を汚染するすべての原因を効果的に規制することを単独で及び共同して促進するものとし、また、特に、人の健康に危険をもたらし、生物資源及び海洋生物に害を与え、海洋の快適性を損ない又は他の適法な海洋の利用を妨げるおそれがある廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染を防止するために実行可能なあらゆる措置をとることを誓約する。

「投棄」の定義
 海洋において廃棄物その他の物を船舶、航空機又はプラットフォームその他の人工海洋構築物から故意に処分すること
 海洋において船舶、航空機又はプラットフォームその他の人工海洋構築物を故意に処分すること

同条約は、有害廃棄物を限定的に列挙し、これらの海洋投棄のみを禁止していた。

その後の世界的な海洋環境保護の必要性への認識の高まりを受けて、更に強化するため、「1972年の廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約の1996年の議定書」(通称:ロンドン議定書)が1996年11月にロンドンで採択され、2006年3月に発効し、我が国は2007年10月に締結した。

同議定書は、廃棄物等の海洋投棄及び洋上焼却を原則禁止した上で、例外的にしゅんせつ物、下水汚泥など、海洋投棄を検討できる品目を列挙するとともに、これらの品目を海洋投棄できる場合であっても、厳格な条件の下でのみ許可することとした。

ロンドン議定書は3度にわたって改正された。
このうち二酸化炭素の海底下地層への処分(貯留)を可能とするものは発効済みであるが、海底下地層への処分(貯留)目的の二酸化炭素の輸出を可能とするものは未発効である。

ロンドン条約(1975/8 発効) ロンドン議定書(2006/3 発効)
目的 人の健康に危険をもたらし、生物資源及び海洋生物に害を与え、海洋の快適性を損ない又は他の適法な海洋の利用を妨げるおそれのある廃棄物その他の物の船舶等からの投棄による海洋汚染の防止 ロンドン条約による海洋汚染の防止措置を一層強化

船舶等からの廃棄物等の海洋投棄を原則として禁止し、
例外的に投棄が認められる場合においても厳格な条件の下で許可

禁止 下記の「廃棄物その他の物」の投棄を禁止

有機ハロゲン化合物、水銀及び水銀化合物、産業廃棄物、放射性廃棄物等を含む

・下記を除く「廃棄物その他の物」の投棄を禁止。
・「廃棄物その他の物」の海洋における焼却を禁止。


例外:しゅんせつ物、下水汚泥、魚類残さ、船舶・プラットフォーム、不活性な地質学的無機物質、天然起源の有機物質等
(但し、投棄には許可を必要とする)

例外追加 
 二酸化炭素の海底下地層への貯留
  上記のための二酸化炭素の輸出を可能とするもの(未発効)

事前特別許可による投棄 砒素、ベリウム等を相当量含む廃棄物、コンテナ、金属くず等の巨大廃棄物等で漁労や船舶航行の重大な障害になるもの等
事前の一般許可 他の全ての廃棄物その他の物
いずれの許可も、全ての事項(物の特性及び組成、投棄場所の特性及び投棄の方法等)について慎重な考慮が払われた後


以前は昭和電工、日本軽金属、住友化学などは、ボーキサイトを輸入し、国内でアルミナを生産していた。
この際に膨大な量の赤泥ができる。当初はこれを海岸の埋め立てに使用し、工場用地を拡大していたが、その余地がなくなり、海洋投棄を行った。

1972年のロンドン条約付属書では赤泥は「汚染されていない不活性な地質学的物質であって、その化学的構成物質が海洋環境に放出されるおそれのないもの」に該当し、産業廃棄物には当たらず、海洋投棄は認められていたが、各社はグリーンピース等からの批判を受け、自主的に海洋投棄停止→アルミナ国内生産停止に踏み切った。(2006年のロンドン議定書では禁止となる。)

2008/3/8  アルミナメーカー、ボーキサイトの国内精製から撤退へ

コメントする

月別 アーカイブ