LG Chemは2019年9月、特許権侵害でSK Innovation をITCに提訴したが、ITCは3月31日、SK側の主張を認める仮決定を下した。
また、SKがLGをITCに提訴した特許権侵害訴訟に関してはLGがこの訴訟を却下することを求めていたが、ITCは4月2日、LG側の要請を棄却した。この訴訟は継続する。
さきのITCによるSKへの米国への輸入禁止命令についての大統領の拒否権行使期限が4月11日に迫っており、この問題は混とんとしてきた。
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韓国のLG Chemが同業のSK Innovationを車載電池の営業秘密の侵害で訴えていた係争で、米国際貿易委員会(ITC)は2月10日、SK Innovationに米国への輸入禁止命令を下した。
LG Chemは2019年4月30日、SK InnovationがLG技術者を採用することにより、リチウムイオン電池技術を盗用したとし、LGの米国子会社と共同で米国ITCとDelawareの連邦地裁に提訴したと発表した。
SK InnovationがLGのリチウムイオン電池部門の77人の高度の技術と経験を持つ従業員を雇用し、LGの企業秘密を取得したと主張した。
ITCはSK InnovationがLG Chemの営業秘密を侵害したと判断し、関税法第337条の違反を適用し、営業秘密を侵害したバッテリーと部品に対する「アメリカ国内への輸入禁止10年」を命じた。
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実際には、ITCの命令はSKに今後の生産を禁止するものではなく、事実上の猶予期間を設定し、LG Chemとの和解を促するものである。
但しLGの提示する賠償金は非常に大きく、SKは受入を拒否している。
SKは1兆ウォン(約980億円)前後の和解金をLG側に提示しているのに対し、LGは少なくとも3兆ウォンを求めている。
SK側は「LGの要求はバッテリー事業をやめろというに等しい」と主張している。
SKは逆に、撤退を脅しに米国側に圧力をかけている。大統領はITCの決定について公益上の理由で4月11日(決定から60日以内)までに拒否権を行使することができる。
Georgia州選出の民主党上院議員は議会で、ITCの決定はジョージア州の労働者とバイデン大統領の電気自動車推進策への "a severe punch in the gut" であると批判した。これを受け、米運輸省はSKとLGの対立がバイデン大統領の方針に与える影響を分析すると発表した。
また、SK Innovationの工場があるジョージア州の知事はバイデン大統領に対し、SK Innovationに関する決定を覆してほしいと要請した。
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なお、LGはジョージア州知事に対し、SKが撤退の場合、工場を他社と共同で購入する考えがあると伝えた。SKは売る気はないと反論した。
SKは3月30日、Biden大統領が60日間のレビュー期間内 (4月11日まで)にITCの判断を覆さない場合、米国から撤退し、欧州か中国に移転すると発表した。記事
SKは最悪のシナリオを想定し、建設中のバッテリー工場を(他社への売却でなく)欧州に移転する作業に着手した。これまでに投入された約1兆5000億ウォンのうち生産設備など1兆ウォン程度は回収が可能だと判断している。
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上記は特許侵害ではなく、特許侵害の元になった企業秘密の盗用に関するものであるが、今回、両社の特許そのものについての判断が出た。
経緯:
1) LGは2019年4月にSK InnovationがLG技術者を採用することにより、リチウムイオン電池技術を盗用したとし、LGの米国子会社と共同で米国ITCとDelawareの連邦地裁に提訴した。(上記訴訟)
2) LGは2019年9月、リチウムイオン電池向け分離膜のコーティング技術や正極材など特許4件の侵害でSKをITCに提訴した。
3) SKはLGの提訴に対抗するため、2019年9月にLGを相手取り、「パウチ型バッテリーのセル構造」に関する特許を侵害されたと提訴した。
バッテリーセル、モジュール、関連部品、製造工程などで、LGがGMとアウディ、ジャガーの電気自動車に納品したバッテリーに関して特許を侵害したと特定し、禁止命令と救済措置、損害賠償を要求した。
4) LGは同月、SKを相手取り、二次電池の重要素材である分離膜、電極材料に関連する特許侵害で逆提訴した。
2) のLGによる提訴については、韓国内でも訴訟が行われた。
SKは、LGとSKは2014年に『分離膜特許に対して国内外でこれ以上争訟しない』ことで合意しており、LGがこれに違反してITCに提訴したとして、ソウル中央地裁に対し、ITCへの提訴取り消しと合意破棄に対する損害賠償を求め提訴した。
ソウル中央地裁は2020年8月、「特許の独立と属地主義原則により米国で起こした訴訟と韓国での訴訟対象は別」というLGの主張を受け入れ、却下した。
ITCは今回(3月31日)、2)についてSK側の主張を認める仮決定を下した。
分離膜コーティングと関連した技術に関するLGの特許の有効性は認めたが、「SKは特許を侵害しなかった」と判断した。残りの3件については、「LG側に特許の有効性がないため、SKの特許侵害も認められない」とした。
最終決定は8月2日に下される。
これについて、SKは「長年独自に蓄積してきたバッテリー技術力を認められたものだ。数年の歳月をかけてリチウムイオン電池の技術を開発した」とコメントした。「今回訴訟の対象となった特許4件のうち3件は10年前に韓国国内でも訴訟になり、SKが勝訴している」としている。
そして、「今回の決定でSKが特許権などの知的財産権を侵害していないと認定されたことで、米大統領がさきのITC決定に拒否権を行使できる名分が生じた」と述べた。またLGとの賠償金額交渉でも優位になるとしている。
LGは「今回のITCによる決定は残念だが尊重する。仮決定で分離膜のコーティングに関する重要特許は有効性が認められており、最終決定でSKによる侵害を立証したい。残りの3件でも、特許の有効性を認められるよう準備する」とコメントした。
今回の決定は、1) には直接影響を与えないが、SKによる独自の技術力がある程度認められたことになり、両社による和解金交渉や「世論戦」でSKに有利な要因になり得ると見られる。
3)のSKがLGを提訴した特許権侵害訴訟に関し、LGは2020年8月にITCに対しこの訴訟を却下することを求めていた。SKが営業秘密侵害に関連した「文書削除」をしたことを理由にしている。
しかし、ITCは4月2日、LG側の要請を棄却した。LGの要請事項は一方的な主張にすぎず、特許の件に関してはSK側の文書がよく保全されているなどの理由を挙げた。
このため、SK側が提起した特許訴訟も予定通りITCの調査を受けることになった。
ITCはSKが提起した特許訴訟の予備判決を7月30日に出す予定で、LGの特許侵害が認められる場合、LGバッテリー製品に対して米国内輸入禁止措置が取られる可能性がある。
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