JSRは5月11日、創業事業であるエラストマー事業をENEOSに売却することを発表した。合わせて韓国のEPDM製造販売のJVの錦湖ポリケムをJV相手のKumho Petrochemicalに譲渡すると発表した。
年初来、同事業の売却を含めた構造改革を検討していると報じられていた。ENEOSへの売却事業の事業価値を1,150億円とし、資産負債等を調整して最終売却額を決める。
同社は4月26日に、エラストマー事業全体の公正価値評価を実施して減損損失を認識、2021年3月期に772億円を 減損損失として計上したと発表している。
2021/5/13 JSR、合成ゴム事業をENEOSに売却、韓国の合成ゴムJVも相手先に売却
2021年3月期決算は4月26日に発表され、この時点では売却が決まっていなかったため、2022年3月期予想ではエラストマー事業を折り込んだものであった 。
売却が決まったため5月11日付で予想を修正した。 同事業を非継続事業とし、売上高、営業損益からは除外、最終損益を他の損益と合算した。事業売却損益も折り込んだと見られるが、事業価値に合わせた減損損失後であるため、ほぼゼロと見られる。
単位:億円 | 売上高 |
営業損益 |
税引前 損益 |
株主帰属 損益 |
配当(円) | |||
コア | 非コア | 合計 | 中間 | 期末 | ||||
2019/3 | 4,954 | 453 | 0 | 453 | 464 | 311 | 30 | 30 |
2020/3 | 4,720 | 332 | -4 | 329 | 326 | 226 | 30 | 30 |
2021/3 | 4,466 | 260 | -876 | -616 | -624 | -552 | 30 | 30 |
増減 | -254 | -73 | -872 | -945 | -951 | -778 | ||
2022/3予 | 4,680 | 530 | 0 | 530 | 515 | 320 | 30 | 30 |
見直し額 | -1,500 | -100 | -100 | -90 | -50 | |||
見直し後 | 3,180 | 430 | 0 | 430 | 425 | 270 |
2021年3月期非コア損益
エラストマー減損 -772 及びエラストマー事業構造改革費用 -60 (推定、下記参照)
他に、ディスプレイ材料の事業構造改革費用、ライフサイエンス不採算事業整理損など
営業損益
18/3 | 19/3 | 20/3 | 21/3 | 増減 | 22/3予想 | ||
見直し | |||||||
エラストマー | 149 | 74 | -18 | -114 | -97 | 100 | ー |
合成樹脂 | 56 | 92 | 62 | 44 | -18 | 60 | 60 |
デジタルソリュ―ション | 307 | 327 | 309 | 346 | 37 | 365 | 365 |
ライフサイエンス | -18 | 8 | 36 | 35 | -1 | 60 | 60 |
その他 | -22 | 1 | -3 | 11 | 14 | 10 | 10 |
全社 | -35 | -50 | -59 | -62 | -4 | -65 | -65 |
合計 | 436 | 453 | 329 | 260 | -69 | 530 | 430 |
エラストマー事業は最近では2018年3月期の149億円が最高益で、2020年3月期には赤字に転落、今期は114億円の赤字となった。
このため、創業事業ではあるが、将来性を勘案し、売却を決めた。
上記の通り、今期に減損損失 772億円のほか、エラストマー事業構造改革費用を計上している。
事業売却先のENEOSは、買収条件としてエラストマー事業の原料・物流コストの合理化等のコスト削減や販売価格の適正化をはじめとした構造改革をJSRが実施し、約60億円規模のコスト削減が完了することを求めている。
JSRは3月に、エラストマー事業に関わる国内外の社員を対象に約100人の早期退職を募集すると発表した。原料や物流費用の削減も進めている。
2022年3月期予想では、これらの構造改革を折り込み、エラストマー事業の営業損益を100億円と見ていた。売却決定で営業損益からは外し、合計損益を他の事業の損益に加えた。
売却完了は2022年4月を目途としている。売却金額1,150億円の使途はまだ決めていない。
ジョンソンCEOは「半導体材料のM&Aなどに充てることも検討するほか、適当な買収対象がなければ配当などで株主に配分する」と述べた。
エラストマー事業売却後の姿として、JSRは3月26日、4年間の中期経営計画を発表した。
半導体材料を含む「デジタルソリューション事業」と医薬品関連の「ライフサイエンス事業」を強化することが柱で、2025年3月期に営業利益を600億円超に高め、2009年3月期の過去最高益の更新を目指す。
エラストマー事業売却後の石化系事業はABS等で、JVのテクノUMGで事業を行っている。
テクノUMG:JSR 51%、UMG ABS49% (宇部興産 50/三菱ケミカル 50)
デジタルソリューション事業は、半導体材料、ディスプレイ材料、エッジコンピューティング事業(耐熱透明樹脂、機能フィルム、紫外線硬化樹脂等)
ライフサイエンス事業は、診断・研究試薬、バイオプロセス材料、同開発・製造委託等
同社は2015年2月、米のバイオ医薬品開発・製造受託企業のKBI Biopharma Inc. をシミック、産業革新機構と共同買収することで合意した。JSRが51%を持つ。
同社は2018年にがん、炎症性疾患、心血管疾患及び代謝性疾患領域向けの薬効試験サービスの提供及び 抗体医薬開発を行なう米国のCrown Bioscience Internationalを買収した。
https://www.knak.jp/ta-sangyou/pharma/JSR.htmそのCrown Bioscienceは2021年5月にオランダの開発受託会社(CRO) OcellO B.V.を買収した。
JSRは2021年3月、医学生物学研究所(MBL社) の全発行済株式の取得を完了した事を発表した。
https://www.knak.jp/ta-sangyou/pharma/pharma-19.htm#MBL
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