ゴーン事件裁判

| コメント(0)

日産自動車の元会長カルロス・ゴーン被告(67)が巨額の役員報酬を開示しなかったとされる事件で、金融商品取引法違反罪の共犯に問われた元代表取締役グレッグ・ケリー被告(64)の公判が4月11日、東京地裁で始まった。

4月22日に弁護側証人として「商法、会社法、法と経済学」を専門分野とする田中亘・東大教授が出廷し、検察側が主張する「未払い報酬」の非開示は、刑事罰が科せる「虚偽記載」ではなく、行政処分の対象となる「不記載にとどまる」と証言した。

ーーー

上場企業は有価証券報告書に役員報酬の総額と報酬が1億円以上の役員名と金額を記載する義務がある。

金融商品取引法では第24条で「有価証券報告書の提出」、「虚偽記載」等々について記載している。

第八章では「罰則」を決めており、第197条では上記の違反の場合、「十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」としている。

有価証券報告書に記載すべき役員報酬等については「企業内容等の開示に関する内閣府令」では以下の通りとなっている。

最近事業年度に係るもの及び最近事業年度において受け、又は受ける見込みの額が明らかとなったものをいう。

ーーー

検察側は、2010~17年度のゴーン元会長の報酬が計約170億円だったのに、実際に支払った計約79億円のみを有価証券報告書に記載し、退任後に後払いすることにした約91億円を記載しなかった のは虚偽記載であるとし、金融商品取引法違反としている。

これまでの公判で、検察側証人の証券取引等監視委員会の担当課長は、役員報酬の個別開示を義務づけた内閣府令の解釈について、「既払いか未払いかを問わず、記載すべきだ」と主張していた。

田中教授は日産自動車の有価証券報告書の表現に注目した。

通常、「事業年度の報酬は以下の通り」とするが、日産の場合、「支払われた報酬は以下の通り」としている。

教授は、「文言を素直に読めば、一般投資家は現に支払われた報酬が記載されていると考える」とした。
本来は未払いの分を含めて記載すべきであるが、「記載すべき事項(未払い分)を記載していなかったことにとどまり、真実に反することを書いた虚偽記載ではない」との見解を示した。

「支払われた報酬」は事実を記載しており、虚偽記載ではない。
未払い分は記載していないが、これは「不記載にとどまり」、懲役や罰金の対象ではなく、行政処分の対象であるというもの。

虚偽記載であれば「十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金」であるが、行政処分は、業務改善命令、業務停止命令、登録取消し、許可取消し、認可取消しなどである。

教授は、「投資家が開示ルールの全てを知っている前提で虚偽記載罪を解釈することはできない」とも指摘した。

なお、ゴーン会長を期中に解任した翌第120期の有価証券報告書は表現を修正し、「支払われた」という文言を消している。 従来の「記載漏れ」を修正したと見ざるを得ない。

ーーー

カルロス・ゴーン被告は2020年1月8日、レバノンで会見し、「東京大学のタナカ先生が『逮捕・起訴したことは日本として残念だ。非常に恥ずかしい』と言っている」と明らかにした。

この報道を受け田中教授は、弘中惇一郎弁護士らが2019年12月11日に研究室を訪問した際、東京地検特捜部が退任後に受け取る予定の報酬額が決まっていたにもかかわらず約91億円分を有報に記載しなかったとしてゴーン被告を起訴したことについて、「疑問を持っている」と伝えたと語った。

被疑事実のうち、少なくとも有価証券報告書の不実記載(報酬不開示)については、根拠が薄弱であるにも関わらず、検察がゴーン氏を逮捕し、130日間も拘束したことについて、日本の刑事司法システムに対する批判の意味も込めて、『今回の事件は日本にとって恥ずかしいことだと思う』と申し上げたものです。」

コメントする

月別 アーカイブ