富山大学は6月16日、同大学の共同研究グループが、1つの抗体で新型コロナウイルスの野生株だけでなく、多種の変異株を防御できる高力価なヒト型・モノクローナル中和抗体(開発番号:28K)を 新たに取得し、人工的な抗体作出に成功したと発表した。
新型コロナウイルスは、主にウイルス表面にあるスパイク蛋白質がヒトの受容体に結合することで感染する。
スーパー中和抗体は、スパイク蛋白質に 直接結合し、各種変異株の特異的エピトープに被ることなくACE2との結合を阻害する結果、新型コロナウイルスの多種の変異株の感染を防御することが期待できる。
この中和抗体(28K)は 「1つの抗体で多種の変異株の感染を阻害できる」現時点で最も理想的な抗体であるため、「スーパー中和抗体」と命名した。
下記の変異株で効果があることを確認した。
IC50(ng/ml)は抗体の中和活性濃度で、ウイルスが細胞に感染することによる細胞死の誘導を50%阻害するのに必要な抗体濃度
IC50(ng/ml) 野生株 武漢で最初に発見 30.3 Alpha 英国 N501Y変異 45.4 Beta 南アフリカ K417N/E484K/N501Y変異 15.2 Kappa インド L452R/E484Q変異 20.3 Delta インド L452R/T478K変異 12.1 Episilon カリフォルニア L452R変異 Gamma(ブラジル)もBeta(南アフリカ)と同じ変異部位にK417T/E484K/N501Y変異を有するため、スーパー中和抗体が同様に感染防御できると思われるが、実験による確認(中和活性測定)は未実施
スーパー中和抗体は今後人工的に作製できるため、新型コロナウイルス感染症の治療薬として役立つことが期待される。
利用法として、軽症・中等症から急激にウイルスが増殖し重症化に移行する段階で迅速に投与すると、重症化を強力に抑制できる(=救命率向上に貢献できる)とみている。 また、28Kは既存の変異部位を避け、「SARS-CoV-2の感染にとって重要な部分と結合する」と推定されるため、新たな変異株に対しても防御できる可能性があり、新規変異株流行を早期に制圧できる可能性を秘めている。
(人工的に作り出した抗体を投与する新型コロナウイルスの薬は、「抗体医薬」と呼ばれ、海外では緊急使用されたものもあるが、変異ウイルスで効果が下がることが課題になっている。)
富山大学の強みは「世界最速レベルで抗体を作製し性能評価できる技術」であり、14の国内外特許を取得している。
「高力価中和抗体を持つ患者を迅速に選定できる技術」から始まり、「中和抗体を産生する細胞1個をチップ上で補足しその遺伝子を取り出す技術」、「得られた遺伝子より大量の抗体を作り出す技術」、そして 「人工疑似ウイルスを用いた感染実験から抗体を迅速に評価する技術」など。
これらを組み合わせると従来2か月以上かかる行程が1~2週間で、目的とする抗体を作製することができる。
研究グループでは先ず、新型コロナウイルス感染症の回復患者の血清中の中和活性を測定し、高力価の中和抗体を持つ患者を選定した。次にその患者の末梢血B細胞の中から、スパイクタンパク質に強く結合する抗体を作っているB細胞を選び出し、そのB細胞から抗体遺伝子を取り出して、遺伝子組換え抗体を作った。
この抗体の中から中和活性の特に高い(=感染を防御する能力に優れた)抗体を特定し、最終的に多種の変異株の感染を防御するスーパー中和抗体28Kを取得することに成功した。
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