米最高裁、オバマケア「違憲」の訴え退ける

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米最高裁判所は6月17日、テキサス州などの医療保険制度改革法(オバマケア)無効化の訴えを退け、存続させる判断を下した。

判断は7対2で、訴えを起こした州には同法の無効化を求めて訴訟を起こす法的資格がないとされた。判断の文言はリベラル派のStephen Breyer 判事が執筆した。

最高裁判事はトランプ前大統領が任期中に保守派3人を送り込み、それまでほぼ拮抗していたのが、保守派6 対 リベラル派3 となり、判断が注目されていたが、反対は、Samuel Alito 、Neil Gorsuch の2人だけで、トランプが最後に押し込んだBarret判事を含め、保守派4名が存続を支持した。

2020年10月22日の上院司法委員会でのBarrett判事承認にあたり、民主党議員は委員会室の自らの席にオバマケアの恩恵を受けた米国人の写真を並べ、承認に反対するとのメッセージを込めた。Barrett判事は同法に否定的であるとされていた。

保守派 Swing リベラル派
以前  保守系中道 のKennedyがswing 4 ← 1 → 4
2016 Scalia 判事死去 3 ← 1 → 4
2017 Gorsuch 就任 4 ← 1 → 4
2018 Kennedy 引退、Kavanaugh指名 5 4
2020 Ginsburg 死去 5 3
2020 Barrett就任 6 3

性別 年齢 人種背景

指名した大統領

就任日 判断傾向
Clarence Thomas 男性 72歳 アフリカ系 George H. W. Bush 1991年10月23日 保守
Stephen Breyer 男性 82歳 ユダヤ系 Bill Clinton 1994年8月3日 リベラル
John Roberts  (Chief) 男性 65歳 白人系 George W. Bush 2005年9月29日 保守
Samuel Alito 男性 70歳 イタリア系 2006年1月31日 保守
Sonia Sotomayor 女性 66歳 ラテン系 Barack Obama 2009年8月8日 リベラル
Elena Kagan 女性 60歳 ユダヤ系 2010年8月7日 リベラル
Neil Gorsuch 男性 53歳 白人系 Donald Trump 2017年4月10日 保守
Brett Kavanaugh 男性 55歳 白人系 2018年10月6日 保守
Amy Coney Barrett 女性 48歳 白人系 2020年10月26日 保守

最高裁がオバマケアの存続を支持するのは2010年の同法成立以降3度目。

米連邦最高裁は2012年6月28日、医療保険改革法について、根幹部分である国民の保険加入を義務付ける条項を支持するとの判決を下した。

同法の根幹部分は、大半の米国民に2014年までの保険加入を義務付け、加入しない場合には罰金を課すというもの。全米50州のうち26の州、および中小企業を代表する団体などが違憲訴訟を起こしていた。

ロバーツ最高裁長官は「医療保険を取得しない特定の国民に対して罰金を課すことは、合理的に税金として位置づけられる可能性がある」とし、「憲法はこうした税を認めていることから、これを禁じたり、それに関する分別や公正さについて意見を述べたりすることはわれわれの役割ではない」との見解を示した。

最高裁の9人の判事のうち、ロバーツ長官を含む5人が支持、ケネディ判事ら4人が不支持だった。不支持とした4人は、医療保険改革法全体が違憲と判断した。

ただ、州政府に対してメディケイド(低所得者向け公的医療保険)の対象を著しく拡大するよう義務付けた条項については、憲法が定める権限を議会は超えたとし無効と判断した。

米連邦最高裁判所は2015年6月25日、医療保険制度改革法(オバマケア)の一部の政府補助金支給の是非について争われた裁判で、支給は合法とする判断を下した。

最高裁は6対3で合法と判断した。オバマ大統領は判決後、ホワイトハウスで声明を読み上げ「勤労者の勝利だ」と述べ、同法により「1600万人以上の保険未加入者が保険を得た」と成果を強調した。

オバマケアは医療保険に未加入だった低所得者に安価な保険を提供するため、民間の医療保険購入者に政府が補助金を支給する。条文では州政府のウェブサイトを通じた保険購入者が支給対象だが、オバマケアに反対する野党・共和党知事の州など30州以上がサイトを開設しなかったため、連邦政府サイトを通じた購入者にも補助した。この補助が合法かどうかが争点となった。

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ObamaCareのなかに国民の保険加入義務(Individual Mandate)がある。

Obama Careは、アメリカ人と合法的に滞在する外国人に対して、Obama Careの基準を満たす健康保険を取得し維持することを義務と定めた。そして、その健康保険を持っていなければ、タックス・ペナルティ(罰金)を払う必要がある。

そのほか、持病を理由に保険会社が加入を拒否するのを禁じる項目や、26歳まで親の保険に留まることが出来る規定などがあり、何百万もの低所得の米国人が保険に加入できている。

トランプはこの制度がコストが掛かり過ぎるとし、これに置き換わるものをつくるとした。

2017年12月に大型減税法案(Tax Cuts and Jobs Act)が提出された。このなかにObamacare の個人加入義務の廃止がある。非加入の場合のタックス・ペナルティ を廃止する規定である。

下院案は「加入義務の維持」、上院案は「廃止」をうたっていたが、米共和党指導部は12月15日、大型減税法案を最終決定、保険加入義務は廃止とした。

当時は上院、下院とも共和党が握っており、両院とも可決、トランプ大統領は2017年12月22日、大型減税法案(Tax Cuts and Jobs Act)に署名し、法案が成立した。

この結果、2019年1月1日からObama Careは強制加入("individual mandate")ではなくなり、無保険であることに対するペナルティはフェデラル・レベルでは ゼロになった。州によっては元通りにしている州もある。

米司法省は2020年6月25日、公的補助を通じて国民に保険加入を義務付ける医療保険制度「Obama Care」の無効を連邦最高裁に要請した。

司法省はペナルティの廃止で制度全体が無効になると主張した。

2020/7/1 トランプ政権米最高裁にObama Care廃止を要請


本件について、トランプ政権の司法省の支持を受けたテキサス州など共和党知事の州(red states) 18州のコンソーシアムが、保険加入義務違反への罰則がゼロになったため、加入義務を定めたオバマケアの合憲性がなくなったとして訴えた。

2020年11月10日に連邦最高裁で本件審理が始まり、保守派のロバーツ長官とカバノー判事の2人が義務づけを違憲とする一方、オバマケア自体の存続を支持する見解を示した。トランプ大統領が前月に指名したバレット判事もオバマケア自体は否定しなかったという。米主要メディアは「オバマケア存続の見込み」などと報じていた。

今回最高裁は、連邦議会が保険を購入しない場合の罰金をゼロに引き下げたため、損害が生じないと指摘、原告側にはオバマケアや罰則撤廃に起因する損害が認められないとした。
また「加入せよといいながら罰則がない」と主張しているだけで、違憲と攻撃する根拠を示せなかったと述べ、原告として不適格だと結論づけた。

"A plaintiff has standing only if he can 'allege personal injury fairly traceable to the defendant's allegedly unlawful conduct and likely to be redressed by the requested relief."

"Their problem lies in the fact that the statutory provision, while it tells them to obtain that coverage, has no means of enforcement."

オバマケア自体が合憲か違憲かの判断には踏み込まなかった。

最終的にバレット判事を含め、保守派4人、リベラル派3人の合計7人が訴えの棄却に賛成した。

この訴訟に反対していたバイデン大統領は「きょうの最高裁の判断は、この画期的で人生を変えるような法律の恩恵を受けている全国民にとって大きな勝利だ」と指摘し、 オバマケアが3つの主要な訴訟を切り抜けたことで「この画期的な法律に基づいて前進する時が来た」と述べた。また、より多くの国民がオバマケアを活用して保険に加入するよう呼び掛けた。

今回の訴訟を主導したテキサス州のパクストン司法長官(共和党)は、今後もオバマケアに対して異議を唱えていく方針を表明した。

オバマケアを実現させたオバマ元大統領は「この判断はわれわれが長い間、真実だと知っていたことを再確認するもので、それはオバマケアが存続するということだ」と述べた。

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