米食品医薬品局(FDA)のJanet Woodcock長官代行は7月9日、米製薬企業Biogenと日本のエーザイが共同開発したアルツハイマー病新薬ADUHELM(一般名:アデュカヌマブ)について、FDAの承認手続きに疑義が生じたとして、米保健福祉省の監査部門に調査を要請したと発表した。
「現状の疑問を考慮し、承認過程の検証を求めた」と説明した。
米メディアの一部はエーザイ/バイオジェンとFDAがFDAの規範を超えて不適切に接触した恐れを報じている。両社とFDA担当者の間での承認前のやりとりや、承認への影響の有無を評価してもらう狙い。
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Biogenとエーザイは11月17日、欧州医薬品庁(EMA)の欧州医薬品委員会(CHMP)からアデュカヌマブの注射100 mg / mL溶液の販売承認申請に関する否定的なTrend Voteの結果を受領したと発表した。
正式な勧告は12月13〜16日に開催される12月度のCHMPミーティングで採択される予定。Biogenは引き続きEMAおよびCHMPと協議する。
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欧州医薬品庁(EMA)の医薬品委員会は12月17日、「アデュカヌマブ」について、薬の効果と臨床的改善との関連性が「確立されていない」として販売を承認しない勧告を発表した。
日本では厚生労働省の専門部会が12月22日に承認の可否を審議するが、EU当局の判断が日本の審査に影響を与える可能性もある。
Biogenは再審議の請求をすると発表した。申請者は勧告を受けてから15日以内に再審議を請求でき、請求後60日以内に根拠を示す詳細な資料を提出する。その後、EMAは60日以内に見解を再検討する。
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厚生労働省の専門部会は12月22日、今後実施される臨床試験(治験)の結果をもとに再度審議する必要があるとし、審議を継続する方針を示した。
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米 Biogen は12月20日、ADUHELM(一般名:アデュカヌマブ)について、米国での価格を来年1月に半額に引き下げると発表した。 体重が74キロの患者の場合、従来の年5万6千ドル(約630万円)から年2万8200ドル(約320万円)に値下げする。
米当局が承認済みだが、価格の高さや効果に疑問の声があることなどから使用は広がっておらず、2021年7~9月期の売上高は30万ドルにとどまった。値下げして普及につなげる。
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2020年11月7日、アルツハイマー病治療薬候補であるアデュカヌマブについて、米国食品医薬品局(FDA)の末梢・中枢神経系薬物諮問委員会が開催された。
投票の結果、有効性に対して否定的な見解を公表した。
アデュカヌマブが承認を得られたのは、あくまでアルツハイマー病の原因である可能性が大きいとみなされる脳内の有害タンパク質「アミロイドベータ」を減らすことができるという証拠に基づいた対応であり、アルツハイマー病の進行自体を本当に遅らせる効果があると、はっきり証明されたわけではない。
諮問委員会は、バイオジェンが臨床上の有効性を十分に示せなかったと結論づけている。
賛成 | 反対 | 保留 | |
アルツハイマー病治療としての有効性に関する説得力のあるエビデンスを示しているか | 1 | 8 | 2 |
試験がアデュカヌマブの有効性の裏付けとなるエビデンスを示しているか | 0 | 7 | 4 |
アデュカヌマブの薬力学的効果に関して説得力のあるエビデンスを示しているか | 5 | 0 | 6 |
302試験をアデュカヌマブのアルツハイマー病に対する有効性に関する主要なエビデンスとみなすことができるか | 0 | 10 | 1 |
FDA諮問委員会の提言は、FDAによる審査において考慮されるが、拘束力はない。
2019/10/24 Biogenとエーザイ、一旦治験中止したアルツハイマー薬の承認申請へ
FDAは当初、2021年3月に判断するとしていたが、追加データを求め、3か月延長した。
米食品医薬品局(FDA)は6月7日、エーザイと米バイオジェンが共同で開発するアルツハイマー型認知症治療薬候補ADUHELM(一般名:アデュカヌマブ)について、脳内のアミロイドβプラークを減少させることにより、アルツハイマー病の病理に作用する初めてかつ唯一の治療薬として、迅速承認(accelerated approval)したと発表した。
諮問委員会の提言は拘束力はないが、提言に反する承認は異例。
今回の迅速承認は、アミロイドβプラークの減少に対するADUHELMの効果を実証した臨床試験のデータに基づくもので、迅速承認の要件として、今後検証試験による臨床的有用性の確認が必要となる。
2021/6/8 エーザイとバイオジェンのアルツハイマー新薬、米で承認
なお、バイオジェンとエーザイはアルツハイマー病の初期段階の患者に重点を絞って臨床試験を実施したが、FDAは迅速承認にあたり、アルツハイマー病の初期段階だけでなく、患者全般を対象にアデュヘルムを承認していた。
バイオジェンとエーザイは7月8日、軽度の認知機能障害または軽度認知症の段階にある患者に使用を限定した。(FDAが変更を承認)
ADUHELMによる治療は、臨床試験において治療開始の対象としたアルツハイマー病による軽度認知障害または軽度アルツハイマー病の患者様において開始する必要があります。これらの病期よりも早期または後期段階での治療開始に関する安全性と有効性に関するデータはありません。
6月7日の承認を受け、諮問委員会で承認に反対票を投じたワシントン大学の神経学者、Joel Perlmutter がFDAが諮問委と追加の協議をせずに承認を決めたことを理由に6月8日に辞任した。
Mayo Clinicの神経学者 David Knopmanは同治療薬の臨床試験に治験責任医師として参加していたため、11月の諮問委の会合および採決への参加を見送っていたが、「FDAによる諮問委の意見の扱い方に非常に失望した」と述べて6月9日に辞任した。
更に、ハーバード大医科大学院の著名な教授Aaron Kesselheimが6月10日付のFDA長官代行に宛てた書簡で、諮問委員を辞任する意向を表明。アデュカヌマブ承認は「恐らく米国では近年最悪の医薬品承認となろう」と批判した。
諮問委員の辞任はこれで3人となった。
米民主党のマンチン上院議員はバイデン大統領に宛てた6月17日付の書簡で、FDAが条件付きで承認した経緯を巡り、ウッドコックFDA長官代行の指導力に疑問があるとして、別の人物を長官として正式に任命すべきだとの考えを伝えた。議員は、諮問委の多数の見解に反して承認したことに関しFDAが少なくとも説明すべきだとの考えを表明。「承認について患者や医師の質問に答え、公衆衛生に対するFDAのコミットメントを一般の人々に納得させる責任を負う正式なトップの存在が必要不可欠であり、長官代行はFDAを率いる適切な人物ではない」と指摘した。
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バイオジェンとエーザイは2020年12月10日、アデュカヌマブについて、厚生労働省に新薬承認を申請したと発表している。
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