三菱重工業に対する賠償命令が確定した韓国人元徴用工(旧朝鮮半島出身労働者)訴訟に関連し、韓国の水原地裁安養支部は8月12日、韓国企業との取引で発生した三菱重工の物品代金債権に対する差し押さえと取り立て命令を決定した。原告代理人が8月18日に明らかにした。
今月初めに強制動員生存被害者1人と死亡した被害者3人の遺族たちが裁判所に出した債権差押および取立命令申請に従ったもの。
これまでに三菱重工業は大田地裁により、本件で2つの商標権と6つの特許権、現金換算で8億400万ウォン(約7200万円)相当が差し押さえられているが、これらと違い、競売など資産売却の手続きが不要なため、強制執行を迅速に進めることができる。
元徴用工をめぐっては既に2018年に日本企業に賠償を命じる最高裁判決が確定し、その後も同種訴訟で日本企業敗訴が相次いでいたが、韓国内から引き出せる日本企業の財産がないか、現金化できる方法がなく、実際の損害賠償は受けられずにいた。
三菱重工業が韓国企業 LS Mtronから受け取るトラクターエンジンなど部品の代金8億5319万ウォン(約8,050万円)を差し押さえるとともに、被害者が三菱重工業取引代金を韓国企業から直接受け取ることができるようにする取立命令である。この金額は2018年大法院の確定判決を受けた被害者4人の損害賠償金とそれに対する遅延損害金、執行費用などを合わせた金額である。
8月18日に裁判所の決定がLS Mtronに到達し、差押効力が発生した。LS Mtronは裁判所決定の効力により三菱重工業に商品代金を支払うことができなくなった。
代理人は「三菱重工が(賠償命令)判決の履行を拒否した場合、直接 LS Mtronから債権を取り立てる」としている。
LS Mtron はLSグループの企業で、トラクターや射出機などの生産を行っている。
LSグループは2003年11月にLGグループから分離独立したLG電線グループが2005年に改称したもので、Leading Solutionを意味するLSグループとした。
三菱重工エンジンシステムは、三菱重工業のグループ会社として、三菱重工業製のエンジン発電システム、産業用エンジン、ターボチャージャ並びに各種関連商品の販売、施工、サービスメンテナンスを提供する事業活動を行っている。同社の直接の株主は、2016年7月に三菱重工のエンジン及びターボチャージャ事業を継承した三菱重工エンジン&ターボチャージャである。
三菱重工エンジンシステムは三菱重工の孫会社になる。
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原告側は、LS Mtronの取引先を「三菱重工業」と記載して公示したLS事業報告書(2021/3/9付)やLS Mtronのトラクターカタログ、マスコミの報道などさまざまな根拠に基づいてLS Mtronの三菱重工業債権を特定したという。
三菱重工側は、命令に関する書類の受け取りを拒否し、裁判所が一定期間ホームページに掲示することで当事者に届いたとみなす「公示送達」の手続きを踏む可能性が高い。公示送達の後、三菱重工側が決定を不服として即時抗告することで手続きを遅らせることも可能 である。
同社は、「現在、裁判所の判断の内容を確認しているところだ」とコメントした。
そのうえで「仮に現金化に至ることになれば、日韓関係にとって、大変深刻な状況になってしまう。これは避けなければならず、韓国側に対し、日本側から繰り返し指摘している。韓国側が早期に日本側にとって受け入れ可能な解決策を示すよう、さらに強く求めていきたい」と述べた。
付記
第三債務者であるLS Mtron側は裁判所に「当社の取引企業は三菱重工業ではなく三菱重工業エンジンシステム」と説明して状況が変わった。
三菱重工業エンジンシステムの履歴事項全部証明書(法人番号など記載)と商品代金信用状、購入注文書(取引相手が三菱重工業エンジンシステムとして表記されている)が提出された。
また、LSグループが「購入先として三菱重工業を公示したのは誤記」と主張した。
これを調べた被害者代理人側も、LS Mtronの主張が事実に符合すると判断し、9月2日、地裁支部に差し押さえ・取り立て命令申請取下書を提出 、これにより差し押さえ・取り立て決定は効力を失って差し押さえは解除された。
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