北海道大学、ダイセル 、北海道情報大学のチームはこのたび、 コンニャク芋由来グルコシルセラミドが、アルツハイマー型認知症の原因とされる脳内アミロイドßペプチド(Aß)蓄積を軽減させることを発見したと発表した。
内容については、7月3日~4日に開催された日本栄養・食糧学会大会で発表している。
*後記の通り、コンニャク芋は生では食べられない。グルコシルセラミドはコンニャク製造中に除外され、製品のコンニャクには含まれていないため、食べても効果はない。
アルツハイマー病の「Aβ(アミロイドβ)仮説」は、「脳の神経細胞外にAβが蓄積→タウ蛋白のリン酸化→神経原線維変化→細胞毒性が生じ、神経細胞が死滅→認知症を発症 」というもので、これに基づき、抗Aβ抗体(Aβを除去)、抗タウ抗体(タウを除去したり、タウの凝集を阻害)などが新薬として開発されている。
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最近の研究によって Aß 蓄積は アルツハイマー発症の 15 年以上前から始まることが明らかになっており、Aß 蓄積を抑制することは アルツハイマー予防を目的とした薬剤や機能性食品の開発戦略の一つとなっている。
北海道大学の研究チームは2012年2月、神経細胞から放出される二重膜で構成されたナノ顆粒"エクソソーム"が Aß を除去する能力をもつことを培養細胞を用いた実験で明らかにした。2014年8月にはアルツハイマー病モデルマウス脳に投与されたエクソソームに内因性Aßが結合し,エクソソーム結合性 Aß の大部分はミクログリアに取り込まれることを明らかにした。
エクソソームは、様々な種類の細胞から分泌される直径 50〜150nm 程度の細胞外小胞。特定の分子を包含し,細胞間で受け渡すキャリアーの役割を担う。神経細胞由来エクソソームは表面膜の糖脂質でAß を捕捉しグリア細胞に運搬することでAß 分解を促進させる。
ダイセルは健康食品素材(乾燥肌の改善)として、 コンニャクセラミドを販売している。
ダイセルは2016年4月、北海道大学大学院と北海道科学技術総合振興センターとの共同研究により、 コンニャクセラミドの活性成分であるグルコシルセラミドが皮膚のかゆみ神経の過敏症の改善に有効であるというメカニズムを解明したと発表した。グルコシルセラミドが体内で代謝されて出来る遊離セラミドがそのメカニズムに関与していることを明らかにした。
同社は、北海道大学に新たに発足する「次世代物質生命科学研究センター」内に、同大学との共同で産業創出講座を設置し、 コンニャクセラミドを用いた皮膚機能改善等の共同研究を推進した。
北海道大学とダイセルのチームは、エクソソーム分泌を促進させる分子の探索を行い,2019年12月、 コンニャク芋から精製した植物由来グルコシルセラミドをアルツハイマー病モデルマウスに経口投与することで 、アミロイドβ除去効果をもつ神経細胞由来エクソソームが増加し、脳内アミロイドβ蓄積が減少することを 見つけたと発表した。
アルツハイマー病モデルマウスに植物セラミドを経口投与すると,大脳皮質や海馬領域で Aß 濃度の低下とアミロイド斑(老人斑様の Aß 沈着)が減少していた。
また,海馬領域ではシナプス障害の抑制も観察され,行動実験では短期記憶の改善が認められた。
さらに,同じ脳標本中のエクソソームを解析したところ,神経細胞由来のマーカータンパク質の増加がみられた。
チームは2020年11月、コンニャクセラミドの主要成分である植物性セラミドをマウスに血中投与した際、血液脳関門(Blood-brain barrier) を透過して脳内へ移行、蓄積することを実証した。
脳組織への血液中からの物質の移行は,厳密に制限されている。水溶性物質は血液脳関門に存在する輸送担体によって輸送される。薬剤などを血液中に投与しても、基本的には脳組織へは移行しない。輸送担体の存在するアミノ酸やグルコースなどの物質のみが脳組織へ移行できる。
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今回は、ヒトにおける植物セラミドの効果を検証するため、高齢健常者を対象に介入試験を実施し、脳内Aß 蓄積と相関する血中バイオマーカー値を測定したところ 、グルコシルセラミド摂取群において摂取前との比較で摂取後に有意な低値を示した。
植物セラミドはアルツハイマー病の予防・治療への活用が期待される。
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今回使用したのは、コンニャク芋から精製した植物由来グルコシルセラミドであ る。
グルコシルセラミド(Glucosylceramide)は、グルコースにセラミドが結合したスフィンゴ糖脂質の一種で、植物性グルコシルセラミドは保湿効果や抗アトピー効果のある素材として注目されるだけでなく 、最近では抗腫瘍効果が報告され、その機能性が期待されている。
グルコシルセラミドは、多くの植物に含まれており、コンニャク由来のほか、コメ由来や舞茸・たもぎ茸由来なども販売されているが、コンニャク芋の飛び粉抽出物はセラミド含有量が高いことがわかっている。
(他の植物由来グルコシルセラミドにこの効果があるかどうかは明らかにされていない。)
グルコシルセラミドは、板コンニャクの製造時に 除かれる「飛び粉」から抽出製造される。
製品のコンニャクにはグルコシルセラミドは含まれていないため、コンニャクそのものを食べてもアルツハイマーの予防、治療には役立たたない。
生のコンニャク芋はシュウ酸カルシウムを含み、強烈な刺激とえぐみがあり、生で食べることはできない。加工して初めて、食品として利用できる。
コンニャク芋は火力乾燥し、ローラーで細かくすると「荒粉」になる。
「荒粉」の60%は「清粉(セイコ)」と呼ばれる多糖質精製物コンニャクグルコマンナンで、このゲル化作用を利用してコンニャクをつくる。
「荒粉」の40%は「飛粉」と呼ばれ、グルコシルセラミドが含まれる。グルコマンナンを含まないため、ゲル化せず、コンニャクにならない。
このため、「荒粉」を搗きながら、臼のなかで「あおり板」であおり、「飛粉」を吹き飛ばして取り除き、「清粉」だけにし、コンニャクをつくる。
取り除いた 「飛粉」は魚の餌や家畜の飼料にするが、産業廃棄物として処理されることが多い。
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