Sanofi の新型コロナワクチン開発
フランスのSanofiは9月28日、開発中の mRNAベースのCOVID-19ワクチン候補のPhase 1/2 治験の結果は成功で、買収したTranslate Bio社のmRNA とこれを包み込む脂質ナノ粒子 (LNP) の可能性を確認するものであり、SanofiのmRNA 戦略をサポートするものであると発表した。
しかし、Sanofiは同日、このワクチンについてPhase Ⅲ 治験に進まないことを決めたと発表した。mRNAベースの ワクチンの供給が十分であることを勘案し、従来から進めてきた遺伝子組換えワクチンの開発の最終段階に注力するとしている。
経緯は次の通り。
Sanofiと英国のGlaxoSmithKline(GSK)は2020年4月14日、両社の技術を活かし、COVID-19に対するアジュバント添加ワクチンを開発すると発表した。
Sanofiでワクチンを担当するSanofi Pasteurは、遺伝子組換えDNA技術をベースとするS-タンパク質COVID-19抗原を提供する。
遺伝子組換えDNA技術により、ウイルスの表面に検出されたタンパク質と正確に一致する遺伝子配列を作成することができる。抗原をコード化するDNA配列を、Sanofiが米国で開発に成功し承認された遺伝子組換えインフルエンザワクチンの基盤となったバキュロウイルス発現プラットフォームに組み込む。GSKは、実証済みのパンデミックアジュバント技術を提供する。
Sanofiの遺伝子組換え技術をベースとするCOVID-19ワクチン候補の開発は、米国保健福祉省(HSS)の一部門である米国生物医学先端研究開発局(BARDA)との協力の下で、同局の資金提供を受けて実施された。
SanofiとGSKのワクチンは、米政府の爆速ワクチン計画(Operation Warp Speed)の対象に選ばれている。2020年7月31日に米政府が21億ドルを支払い、5000万人分を確保した。
しかし、SanofiとGSKは2020年12月11日、試験計画を遅らせると発表した。
第1/2相臨床試験で、18~49歳の被検者においてはCOVID-19から回復した人に匹敵する免疫応答が示されたが、高齢者において十分な免疫応答が得られなかったことから、すべての年齢層において十分な免疫応答を得るために抗原の濃度を改善する必要性が示された。
2021年2月に改善された抗原を用いて第2b相臨床試験を実施する。開発計画が成功すれば、2021年第4四半期に実用化の見込みとしている。
2021/1/8 新型コロナワクチンの委託生産 広がる
COVID-19が蔓延する中、英国ではAstraZeneca、ドイツではPfizerと組むBioNTech がワクチンの供給を始めたが、フランスでは同国の代表的な医薬品企業であるSanofiがワクチンを供給できないこととなり、国内で同社に対する批判が生じた。
このため、Sanofiはまず、Pfizer/BioNTech のワクチンを2021年夏から Sanofiの独フランクフルトの工場で生産することを決めた。
Johnson & Johnson のワクチンもフランス工場で充填・包装を受託、Modernaワクチンも米ニュージャージー州の工場で充填など製剤化を行う契約を結んだ。
別途、Sanofiは米国でmRNAワクチンの開発を行うTranslate Bio社と提携していたが、この関係を深めることとした。
Translate Bio社は、独自のmRNA技術基盤「MRT」を利用した感染症のmRNAワクチン、嚢胞性線維症など肺疾患のmRNA医薬の開発を手掛け、脂質ナノ粒子(LNP)を用いた送達システムの開発も充実化させている。
Sanofiワクチン部門のSanofi PasteurとTranslate Bioは2018年に、Translate BioのmRNAワクチン創製技術を活用する最大5品目、3年間の開発協力で最初の契約を締結した。
2020年3月、期間を4年以上に延長して新型コロナウイルスに対するmRNAワクチンの開発で連携すると発表した。
2020年6月23日、感染症に対するmRNAベースのワクチンの共同開発とライセンスに関する現行の契約を拡大すると発表した。2021年3月12日 、COVID-19の原因ウイルスであるSARS-CoV-2 に対する新規mRNA ワクチン候補MRT5500 の第I/II 相臨床試験の開始を発表した。
2021年8月3日、SanofiはTranslate Bio を32億ドルで買収する契約を締結、9月14日に買収が完了し、100%子会社とした。
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今回、Translate Bioの新規mRNA ワクチン候補の第I/II 相臨床試験結果は良好であったが、Phase Ⅲ 治験に進まないこととした。
これからPhase Ⅲ 治験を始めても、承認を得た時点では既にPfizer/BioNTechとModernaのmRNA ワクチンが十分に供給され、あまり相違点のない3番手では販売面で劣るとみたと思われる。
今後、mRNA型ワクチンを季節性インフルエンザなどの疾病向けに開発する。既に2021年6月に季節性インフルエンザ向けmRNA型ワクチン候補のヒトを対象とした臨床試験を開始している。一価インフルエンザワクチン候補のLNPが異なる2つの候補で、安全性と免疫原性を評価する。
COVID-19に対しては、GSKと提携して開発している組換えタンパク質ワクチンの開発を進める。進行中のPhaseⅢの有効性、安全性の研究と並行し、ワクチン接種を終えた人の免疫力を高める「ブースター接種」の研究も含めた。本年夏に米、豪、仏、英でブースターの研究を開始した。
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