三菱ケミカルは9月30日、結晶質アルミナ繊維事業をApollo Global Management Inc.の関連会社が投資助言するファンドが保有する特別目的会社に譲渡すると発表した。
アルミニウム源とケイ素源を原料に、独自の製法により作られる結晶質アルミナ繊維は耐熱性に優れ、1,600℃という超高温下でも安定した機能性を発揮する上、1,300℃でも実用的な弾力性(クッション性)を維持する。
主に製鉄所などの炉内断熱材や、自動車の排ガスを浄化する触媒コンバータにおいて走行中の振動や衝撃からセラミック触媒担体を守るサポート材として、長年に亘り世界中で実績を有しており、その他さまざまな分野でも応用可能である。
近年の各国での自動車排ガス規制の強化や新興国を中心とする世界的な自動車需要の伸長を受け、需要は堅調に推移しており、今後も一定の成長が期待される。
しかし、グローバルに電気自動車への移行が進むため、本事業の持続的な成長を期する上では、新用途開発や成長分野への投資が不可欠な状況となっている。
三菱ケミカルでは、同社グループが保有する製品群や技術では十分なシナジーをもって本事業の変革・成長を図ることは難しいとの判断に至り、売却を決めた。
株式譲渡によって約540 億円の利益を見込んでおり、「財務体質の改善」「成長事業への投資」及び「株主への還元」のバランスを図りつつ、企業価値の向上をめざして活用する。
Apollo側では、化学業界と自動車業界の両方におけるグローバルな専門知識を活用して、価値提案と製品提供をさらに強化できるよう支援するとしている。
同ファンドは本年6月に昭和電工からアルミ缶およびアルミ圧延事業を買収しているが、これは日本でそれに次ぐ2件目である。
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三菱ケミカルホールディングスはこれまで、統合、買収を相次いで行い、事業が膨れ上がっている。
三菱ケミカルホールディングスでは4月1日付で社長が交代し、新社長にベルギー出身の Jean-Marc Gilsonが就任した。
1963年生まれで、1989年に米Dow Corning入社(日本に5年駐在)。2014年からに食品や医療関連素材を扱うフランスの RoquetteのCEO。
同氏はインタビューで次のように述べている。
「脱炭素」などの基準で事業の選別を始める。化学業界の事業環境が大きく変わる中で、収益構造の転換を進める。
化学産業は高付加価値化が課題だが、Well-being(健康、栄養など)、Connectivity(通信、デジタルなど)、Sustainabilityをキーワードに顧客に最高の価値を提供できる企業を目指したい。
基準とするのが、①強みがあるか②業界が伸びているか③カーボンニュートラル(温暖化ガス排出量実質ゼロ)につながるか――の3点。「全てにチェックマークをつけられなければ、将来は投資引き揚げの対象とする」。
主力の石油化学事業も「ポートフォリオ改革のレビュー対象の一つ」。
事業構造の見直しなどで「時価総額を数年以内に世界の競合並みにする」。
短期的には電気自動車(EV)やリチウムイオン電池、半導体製造工程向けの素材などの高付加価値品で構成する機能商品と、ヘルスケアに重点を置く。
今回の結晶質アルミナ繊維事業の売却は、新社長の方針による第1号と思われる。
現時点では売れているが、ガソリン自動車が電気自動車に替わっていき、長期的にじり貧になるのを見越してであろう。
石油化学やコークス事業など、同氏の上の3つの基準(すべてを満たす必要あり)から見た場合、選別の対象となる事業は数多い。
欧米では多くの企業が脱石油化学などで抜本的な改革を行い、成功している。
しかし、日本では、需要家とのつながり、従業員対策その他、問題が多過ぎ、これまでに例は少ない。
(放出する事業にとって代わる事業を見付けられない、見つけてもやっていく自信がないことも。)
Gilson社長の指導力でどのように理念を実行していくか、注目である。
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