米国の対中技術規制

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米国は米中貿易戦争が進むなか、華為技術など個別企業に対する規制はどんどん厳しくしている。しかし、同時に発表した「新興技術」「基盤技術」の輸出規制については全く進んでいない。

産業界からの反発が大きいことが理由である。

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トランプ前大統領は膨大な対中貿易赤字が一向に減らないことを問題視し、米国の失業と結びつけ、通商法301条を活用するなどして、いろいろの対策をとった。
同時に、中国が組織的に米国の知財を盗用しているとし、対応した。

その一つとして、Entity Listがある。輸出管理法(規則 744.11(b) )に基づき安保上懸念がある企業を指定するもので、海外企業を含む企業が米国のハイテク製品や技術を同社に輸出する場合は商務省の許可が必要になり、原則却下される。

「知財戦争」に適用するものでは、2018年10月29日に中国の福建省晋華集成電路(Jinhua Integrated Circuit Company:JHICC)が初めてである。

米商務省は2019年5月15日、その2番目として華為技術(Huawei)を加えた。2019年6月21日には、スーパーコンピューター大手5社とそれぞれのグループ会社を追加、2019年10月には、監視カメラ世界首位の杭州海康威視数字技術(ハイクビジョン)などハイテク8社をEntity Listに加えた。

2020年12月18日には、半導体メーカーの中芯国際集成電路製造を含む中国企業77社をEntity Listに加えた。

2020/12/19 米国、半導体SMICなど中国企業77社をEntity Listに追加

米国の情報が盗まれるのを恐れ、中国の通信機器、セキュリティ機器を締め出す措置もとった。

2018年8月13日、2019会計年度国防権限法が発効した。華為技術中興通訊製の通信機器と、海能達通信 等3社のセキュリティ用のビデオ監視・通信機器 について、まず、指定された製品の購入禁止を国防総省以外の政府機関にも拡大、1年後には5社の製品を社内で利用している世界中の企業は、米政府機関との取引が禁止された。(米政府機関との取引継続には5社の製品を使用しないことが求められる。)

更に、
2021年6月17日、安全保障上のリスクとみなす中国企業5社の通信機器の認証を禁じる方針を決めた。

2020/7/20 米国、Huaweiなどの中国企業の通信機器等利用者からの政府調達を禁ずる規則案を発表

2021/6/22 米、Huaweiなど中国製の通信機器の認証禁止へ


一方で、特定の技術の輸出規制については、産業界からの反発が強く、停滞したままである。


現在は、規制品目リストによる輸出規制が行なわれている。

米国輸出管理規則により、規制品目リストをつくり、特定国(Country chart で規定)への輸出・再輸出・国内移転(みなし輸出・再輸出を含む)の場合には産業安全保障局の事前許可が必要としている。

しかし、研究開発で連邦政府支出の割合が減少し、民間セクター支出額の割合が増加する傾向が続いており、新しい技術が外国の企業・団体に知られ 、外国からの投資の対象にな っており、新しい重要技術が規制品目リストに載る前に、流出してしまうことになる。

このため、技術のライフサイクルのより早期の段階から建設的に関与し、新基本技術を早期に特定し、実効的な規制を行う必要性が急速に高まっている。

2019会計年度国防権限法と同時に、それに盛り込まれるかたちで米国の輸出管理改革法(ECRA)が成立した。

輸出管理改革法(ECRA)では、商務省に対して「新興技術(emerging technologies)」と「基盤的技術(foundational technologies)」を特定した上で、米国輸出管理規則の下、輸出、再輸出、国内移転に関して適切な管理体制を構築するよう求めている。

米国の安全保障への影響に加えて、(1)外国における基盤的技術の開発状況、(2)輸出管理が米国における基盤的技術の開発に与える影響、(3)基盤的技術の外国への拡散を制限する輸出管理の有効性も考慮すべきとしている。

商務省産業安全保障局は2018年11月19日、輸出規制対象とする 「新興技術(emerging technologies)」の特定方法に関するパブリックコメントの受付を開始した。

14の技術分野を示し、規制対象とすべき個別技術の特定方法に関して、意見を受け付けた。

 1. 将来的に対象技術の特定を容易にするためには、「新興技術」をどのように定義すればよいか
 2. 14の技術分野の中で規制対象とすべき個別技術の有無を判断するための基準
 3. 対象技術を特定するための情報源
 4. 米国の安全保障に重要な新興技術を特定するために目を配るべき14以外の一般的技術分野
 5. 米国や他国におけるこれら技術の開発状況
 6. 特定技術に対する規制が米国の技術的優位性に及ぼす影響

 7. 米国の安全保障にとって重要な新興技術を特定するその他の方法
  (輸出規制の際に考慮すべき新興技術の開発・成熟段階などを含む)

技術分野:

(1)バイオテクノロジー、(2)人工知能・機械学習技術、(3)測位技術(Position, Navigation, and Timing)、(4)マイクロプロセッサー技術、(5)先端コンピューティング技術、(6)データ分析技術、(7)量子情報・量子センシング技術、(8)輸送技術、(9)付加製造技術(3Dプリンターなど)、(10)ロボット工学、(11)脳コンピュータインターフェース、(12)極超音速、(13)先端材料、(14)先進監視技術。

2020年1月に(15) 地理空間画像分析用の人工知能(AI)技術を追加した。

2020年8月27日には「基盤的技術(foundational technologies)」の特定に向けてパブリックコメントを求めた。

「基盤的技術」に関しては、技術分野の列挙はないが、BISは含まれ得る技術として、軍事用途、軍事最終需要者を理由に管理している品目を挙げている。

半導体製造装置や関連ソフトウエアツール、レーザー、センサー、水中システムなど、中国、ロシア、ベネズエラにおける独自の軍事技術の開発に資する恐れのある品目が含まれる 。また、「基盤的技術」には「技術」のみならず、「物品」と「ソフトウエア」も含むとしている。

  1. 管理対象品目を特定するために、いかに基盤的技術を定義付けるべきか
  2. 管理対象品目を特定する上での情報源
  3. EARの規制品目リスト(CCL)上、反テロ(AT)規制で指定されている、もしくはCCLに掲載されていない全ての品目に分類される品目が、米国の安全保障に不可欠か否かを判断するための基準
  4. 米国および外国での基盤的技術の開発状況
  5. 特定の基盤的技術の管理が米国における当該技術の開発に与える影響
  6. 技術ベースの管理ではなく(もしくはそれに加えて)、最終使用目的か最終需要者ベースでの管理の実施事例
  7. 工作機器や試験機器、認証装置など基盤的技術に含めるべき実現技術
  8. 基盤的技術を特定する上でのその他のアプローチ

「新興技術」と「基盤的技術」とも、一般からのコメント募集を完了したものの、米政府は明確なかたちで両技術をリスト化する動きはみせていない。

パブリックコメントで、産業界から、「幅広い品目規制で他国企業が売り上げを伸ばし、その結果、米国企業の競争力が落ちる」「輸出減少で雇用が奪われる」などの批判が殺到した。

連邦議会は 輸出管理改革法で求められている「新興技術」と「基盤的技術」の早期特定 を求めたが、政府は拒否した。9月の公聴会で、「技術は常に進化していくため、個別に新たなリストを作るのではなく、既存の規制品目リストに追加していくとの方針を示した。また、多国間での管理体制が最も効果的との考えにも言及した。

米国商務省産業安全保障局は10月5日、「新興技術」のバイオ関連の一定のソフトウエアを規制品目リスト(CCL)に加えた。2021年5月に開催されたオーストラリア・グループの会合で決定された事項を反映したとしている。

「核酸の組み立て・合成用のソフトウエアで、電子的な配列データから機能的な遺伝子要素の設計・構築を可能にするもの」で、「化学・生物兵器関連拡散防止」と「対テロリズム」の対象国への輸出等に事前許可が必要となる。「化学・生物兵器関連拡散防止」で中国も対象となっている。

結局、輸出管理改革法の規定を無視し、従来のやり方を踏襲することになっている。

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