バイデン米政権は11月23日、日本や中国、インド、韓国、英国と協調して、今後数カ月かけて戦略石油備蓄(Strategic Petroleum Reserve)を5000万バレル放出すると発表した。
大統領は、他国と協調して備蓄を放出することで供給不足に対処し、値下がりにつながるとし、原油価格を抑える効果を訴えた。
放出量の5000万バレルは6億バレルの備蓄の約8%に相当し、国内需要の約3日分にあたる。
このうち、1800万バレルは議会が承認済みで、速やかに売却する。3200万バレルについては、将来備蓄に戻すのを 条件に今後数カ月間かけて石油会社に貸し出す。
原油価格は最近、7年ぶりの水準に急騰し、ガソリン小売価格は過去1年間で60%余り上昇している。
ここ数日の原油相場は備蓄放出の観測で下げていたが、世界需給への影響は限定的との見方が強く、買いなおす動きが出ている。WTIの24日の終値は78.39ドルとなった。
米政権は「OPECプラス」に対し、十分な原油供給量を維持するよう繰り返し求めてきた。しかし、OPECプラスは12月の原油の追加増産を見送った。
「OPECプラス」は7月18日の閣僚協議で、協調減産を8月から毎月日量40万バレルずつ縮小すると決めている。このままでいけば、2022年9月末に協調減産がほほ終了することになる。
今回の米国他の動きについて、「OPECプラス」の当局者らは、世界の石油消費国が計画する戦略備蓄の放出に対応する可能性が高いと警告した。
現在の市場の環境では備蓄放出は正当化されないとし、来週の会合で現行の生産引き上げ計画を再検討する必要があるかもしれないと述べた。
世界のエネルギー市場の主導権を巡って対立することになる恐れがある。
日本政府はバイデン政権の要請を受けて石油の国家備蓄の一部を放出する方針を決めた。
岸田首相は11月24日午前、石油の国家備蓄を初めて放出すると表明した。「米国と歩調を合わせ、現行の石油備蓄法に反しない形で国家備蓄石油の一部売却を決定した」と語った。原油価格の高騰を受けて上がるガソリンの価格を抑える狙いがある。 「原油価格の安定は経済回復を実現する上で大変重要な課題だ」とした。
萩生田経済産業相は、原油価格の高騰を抑えるために国家備蓄から放出する石油の量は、数十万キロリットルになると明らかにした。時期は精査中とした。必要なら追加も検討する。
その後、420万バレル(67万kl)と報じられた。
2日分の放出のため、国内の需給に与える影響は小さく、価格上昇を抑える効果があるとは思えない。
石油の備蓄放出としては、2011年6月にリビア情勢の悪化を受けて民間備蓄から出したのが最後で、国家備蓄からの放出は初めてとなる。
付記 過去の民間備蓄放出
1979年 第二次オイルショック
1991 湾岸戦争
2005 米国ハリケーン
2011 東日本震災、リビア情勢
石油の放出は、法律でガソリンなどの供給不足や地震など緊急時に限定されており、価格上昇の対応策としての放出は想定していない。
一方、国内の石油需要は年々減少しており、現在の備蓄量は法律で決められた量をかなり上回っている。
日本の石油備蓄は、国家備蓄、民間備蓄、産油国共同備蓄により実施している。(後記)
石油備蓄法では、国家備蓄は産油国共同備蓄の1/2と合わせ輸入量の90日分程度(IEA基準)、民間備蓄は消費量の70日分以上などと定めている。
2021年9月末現在の備蓄は、国家備蓄は1EA基準で133日分、産油国共同備蓄は6日分で、「産油国共同備蓄の1/2と合わせ輸入量の90日分程度」をはるかに超えている。
なお、民間備蓄はIEA基準で85日分となっている。
このため、政府としては余剰分であれば法律の枠組みの中で放出が可能だと判断し、余剰分を出すという異例の対応により各国と協調して取り組む。
直接の「備蓄の放出」ではなく、タンク内の古い石油を新しいものに入れ替える際に入れ替える量を減らす形をとる。入れ替える量を減らした石油は2022年3月までに入札で売り出す。
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韓国産業通商資源省の高官は11月18日、米国から石油備蓄を放出するよう要請があったことを確認したが、この時点では、「米国の要請について慎重に検討しているが、価格が上昇したからといって石油備蓄を放出することはない」と語った。韓国の現在の石油備蓄量は9700万バレルで106日分に相当すると明らかにした。
その後、放出を発表、量や時期は他国と相談するとした。量については前回のようなレベルになろうとしている。2011年のリビア危機の際には備蓄の4%、約350万バレルを放出した。
インドは500万バレルを放出する。
英国政府は、企業が自発的に150万バレルまでを放出するのを認めると発表した。 (1バレル=0.158987 kl)
中国の国家食料物資備蓄局はCNNに対し、中国政府が備蓄原油放出の作業をしていると述べた。
中国は、2017に9つの大きな備蓄基地があり、能力が3770万トンであることを明らかにしている。
付記
11月29日夜のBSフジ・プライムニュースがこれを取り上げた。
この問題はバイデン政権の矛盾の解決のため、日本などを巻き込んだものという。
米国消費者にとり、ガソリン値上がりは最大の問題で、政権としては放置できない。
産油国は、脱炭素で将来需要が減るのは必至で、儲かるときに儲ける必要があり、増産に応じない。
本来、産油国である米国が増産すればよいことである。トランプは生産者サイドに立ち、石油増産、パイプライン設置に動いたが、バイデンは脱炭素の立場で、石油・ガスの開発を規制し、パイプライン「キーストーンXL」の建設認可を取り消した。この結果、ガソリン価格上昇につながった。バイデン政策の矛盾が表面化した。
2021/1/29 Biden大統領、温暖化対策の大統領令、石油・ガスの開発規制
結論として、今後、石油増産の投資はなくなるため、需要が大幅に減らない限り、原油価格アップは必至である。
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日本の2021年9月末の石油備蓄は以下の通り。IEA基準はLPガス分を含む。
目標 |
備蓄日数 | 同 IEA基準 | 製品換算 | 保有量 | ||
原油 | 製品 | |||||
国家備蓄 | 90日* | 145日 | 133日 | 4,461万kl | 4,545万kl | 143万kl |
産油国共同 | 6日 | 6日 | 191万kl | ー | 201万kl | |
民間備蓄 | 70日 | 90日 | 85日 | 2,773万kl | 1,142万kl | 1,688万kl |
* (国家備蓄 + 産油国共同 x 0.5 )でIEAベースで90日
国家備蓄は、国家石油備蓄基地(10基地:合計能力4000万kl)と民間タンク借り上げにより行なわれている、
産油国共同備蓄は、産油国に東アジア向け基地として貸すもので、緊急時には日本に優先的供給をする約束をしている。
現在、下記の2カ所。
沖縄石油基地 SaudiAramco 130万kl
JX喜入基地 ADNOC 100万kl
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