バイデン大統領は10月28日、Build Back Better Act を発表した。与党民主党内で意見が対立し、進展していない 「10年で3.5兆ドルの予算案」を修正し、早期の法案成立を目指すもの。
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バイデン大統領は3月31日、国内のインフラの整備等に8年間で2兆2500億ドルを投入する新たな計画 American Jobs Plan を発表した。
最終的にこれは、インフラ包括法案と3兆5000億ドルの予算とに分かれた。
前者は上院で可決済みで、下院の決議待ちである。
後者は、上院でのフィルバスターを避けるため、予算決議案→財政調整措置の形をとるが、予算決議案は上下両院で可決済みで、これをもとにした具体的予算案を討議中である。
2021/8/26 米下院、3.5兆ドルの予算決議案を可決
米下院歳入委員会の民主党メンバーは9月13日、 これらを賄うための一連の増税案を発表した。10年間で3.5兆ドル規模の予算の財源となる。
法人税の引き上げ、所得税の引き上げ、キャピタルゲイン税の引き上げ、多国籍企業への税率の引上げである。
2021/9/16 米民主党の増税案
しかし、肝心の民主党内で、党内の急進左派が子育て支援などの「3.5兆ドル法案」を可決するまでインフラ法案に賛成しないと主張し、逆に、財政膨張を懸念する中道派議員は3.5兆ドル法案の規模圧縮を要求し、与党内の調整がつかない状況である。
バイデン大統領は民主党議員との議論を続けてきたが、政権の支持率が低迷する中、民主党内の対立を収めるため、「3.5兆ドル法案」について大幅な譲歩案を出した。今後、議会で詰める。 大統領は、合わせてインフラ包括法案も早期に可決することを求めた。
但し、現在のところ、民主党議員が一致してこれに賛成するかどうか不明である。(上院は与野党が50:50のため、議決には全員が賛成することが必要である。)
大統領案はBuild Back Better Act の名前で、当初の「10年で3.5兆ドル」を半減し、気候変動対策や子育て支援等に1兆7500億ドルを投じるものである。
バイデン氏は大統領選挙戦中の2020年7月に、公約としてBuild back better (より良い形で立て直す)を掲げた。
国内政策としては、①新型コロナ対策、②製造業の復活、③人種平等、④クリーンエネルギーである。
今回、法案の名前にこれを使った。
法人税率などの引き上げを見送る代わり、財源として巨大企業を対象に会計上の利益に最低15%を課すことを盛った。自社株買いへの1%課税のほか、年間所得が1000万ドルを超える個人富裕層に追加税率を導入する。国際社会が合意した多国籍企業を対象に各国が15%の最低税率を定める税制改正もめざす。
内容は次の通り。 いずれも10年間
支出: 単位:億ドル
Clean Energy and Climate Investments |
5550 |
気候変動対策 :下記 |
Child Care and Preschool |
4000 | 高品質の安価な幼児ケア 3-4歳児全員にPreschool 老人、障碍者ケアも |
Child Tax & Earned Income Tax Credits | 2000 | Tax credit 1年延長 |
Home Care |
1500 | 低所得者向け住宅建設 |
Affordable Care Act Credits, Including in Uncovered States | 1300 | 医療保険控除 |
Medicare Hearing | 350 | medicareで耳の治療をカバー |
Housing | 1500 | 住宅不足解消 |
Higher Ed and Workforce | 400 | 高校より上の教育補助 |
Equity & Other Investments | 900 | |
合計 | 17500 | |
別枠 Immigration | 1000 | 移民制度の改良 |
気候変動対策の内訳: 単位:億ドル
Clean Energy Tax Credits | 3200 | 住宅関連、自動車、クリーンエネルギー生産に10年間の税額控除 |
Resilience Investments | 1050 | 山火事、干害、ハリケーン、公害、Civilian Climate Corps.への支出 |
Clean Energy推進 | 1100 | Clean Energy技術の開発、製造、サプライチェーン |
Clean Energy procurement | 200 | 次世代技術の購入インセンティブ:エネルギー長期貯蔵、小型モデュール炉、クリーン建設材料など |
合計 | 5550 |
これらを賄うための収入は下記の通り。(億ドル) 主に大企業と金持ちに応分の負担を求める。
15% Corporate Minimum Tax on Large Corporations | 3250 | 節税で税金を払わない大企業に財務上の利益に15%のMinimum tax |
Stock Buybacks Tax | 1250 | 自社株買いに1%のSurcharge |
Corporate International Reform to Stop Rewarding Companies That Ship Jobs and Profits Overseas | 3500 | OECDの新規定に合わせ15%のGlobal minimum tax ルールに従わない国にベースを置く外国企業にペナルティレートで課税 |
Adjusted Gross Income Surcharge on the Top 0.02% | 2300 | 金持ちへの新しいサーチャージ |
Close Medicare Tax Loophole for Wealthy | 2500 | 自営業者による税逃れの制度(S corporations)の廃止 |
Limit Business Losses for the Wealthy | 1700 | 金持ちに損失計上の制限 |
IRS Investments to Close the Tax Gap | 4000 | IRSによる税の抜け穴つぶし |
Prescription Drugs: Repeal Rebate Rule | 1450 | Medicare の処方箋医薬品価格関連 |
合計 | 19950 |
このうち、脱税防ぎで4000億ドルというのには、どうやってやるのか、疑問視する向きもある。
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