韓国でディーゼル車の運行や工場の操業に必要な尿素水が不足し、大問題となっている。
尿素水は排気ガスの浄化に使われている。韓国では、2015年以降に製造されたディーゼル車は、ディーゼルエンジンの排気中の窒素酸化物(NOx)を尿素水で浄化する尿素SCRシステムを搭載する必要がある。
韓国は他国に比べてディーゼル車の占める割合が高い。国内で運行中の車両約2600万台のうち、ディーゼル車は919万台を占め、尿素水を満たしておく必要のある排気ガス低減装置を装着した車は21%の216万台に達する。
尿素水がないと、乗用車は発進できず、トラックも最大時速20キロでしか走行できない。
排気ガス低減装置(SCR)には、尿素水を定期的に入れる必要があり、尿素水が不足すると警告灯がつき、エンジンがかからないようになるソフトウェアが使われている。
トラックの運行が止まれば、ガソリンスタンドにガソリンを供給できなくなる事態も想定される。ほぼすべての産業で物流コストが上がり、日用品の値上げにつながりかねない。
工業部門も環境汚染対策の一環で尿素の利用を義務付けられており、尿素が不足すれば、生産が止まる恐れがある。
2020年に輸入された尿素 835千トンのうち、工業用は34.7%、車両用は9.8%、残りは肥料用だった。
産業用尿素水は純度が低く不純物が多い。自動車に注入すれば、排気ガスの汚染物質が十分に取り除けない恐れがある。
なお、韓国外交部は11月10日、「中国製尿素の輸入手続きを速やかに進めるため、さまざまなルートで中国側と意思疎通した結果、わが企業の契約済みの物量1万8700トンに対する輸出手続きが進められることを確認した」と明らかにした。
尿素水の尿素濃度は約30%のため、尿素水5万6100トンを生産できる量となる。
韓国で1カ月に自動車運行に使われる尿素水は2万5000トン程度。
付記
ロッテ精密化学は11月11日、グループの辛東彬(重光昭夫)会長が自身の人脈を動員し、ベトナム(8000トン)、サウジ(2000トン)、日本(1000トン)、ロシア、インドネシアから尿素計1万1700トンを単独で確保したと明らかにした。
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中国が10月から輸出規制を始めたことで、日本(輸入の3割を中国に依存)でも品薄感が広がった。
経産省は12月に原料の尿素の増産を国内メーカー(三井化学と日産化学)に要請した。メーカーは増産に応じており、品薄感が改善に向かう見込み。
三井化学は定修開けの12月から従来より15%増のフル生産体制に入った。日産化学は8月からフル生産体制に入っている。
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アンモニアは窒素酸化物の酸素と結合する性質があり、窒素酸化物にアンモニアを吹きかけることで化学変化を起こして窒素(N2)と水(H2O)に還元される。
「SCR」は「Selective Catalytic Reduction」(選択的触媒による還元)の略で、外部から排気ガス中にアンモニアを加えることで、窒素酸化物を浄化する。
アンモニアを車両に積むのは危険な為、尿素水をタンクに入れて搭載し、これを排気中に噴射することにより高温化で加水分解させアンモニアガスを得る。
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韓国では、韓国肥料(現ロッテ精密化学)など、国内で尿素を生産するメーカーがあったが、2010年代初頭に尿素水の生産から撤退し、100%を輸入している。
輸入品の97%が中国産であるが、中国は先月、国内市場を優先するため、輸出を制限した。
中国は毎年500万トンの尿素を世界市場に供給しているが、10月11日、自国内の肥料供給への支障を理由として、尿素に対する輸出前検査を義務付けた。
尿素は農業用化学肥料の最重要原料だが、9月初めまでは1トン当たり2500元を下回っていた尿素価格が急騰し、10月末にはほぼ3500元になった。冬の小麦栽培を控えて中国海関は、特に検疫や検査なしに輸出されていた尿素などの29種の肥料品目に対して、検疫を義務付けた。
韓国政府は公的部門の尿素備蓄を放出しているほか、軍の備蓄も放出する。ベトナムや豪州などから尿素水を緊急輸入すると決め、まずベトナムから200トンの尿素を確保。最大1万トンの確保に向けて他の諸国とも交渉を進めている。
中国窒素肥料工業協会によると、現在の中国国内の尿素工場稼働率は56.9%で、中国が尿素の生産量を回復できずにいるのは、原材料である石炭不足問題が解決していないためとされる。
中国の各企業は石炭や天然ガスで作られたアンモニアから尿素を作っているが、石炭で作る尿素は76%に達する。
しかし、中国政府は2015年から毎年、中小の炭鉱数百カ所を閉鎖し、石炭採掘を規制している上、主な石炭輸入国だったオーストラリアとの間の外交摩擦まで重なり、石炭供給難がなかなか解消されないままになっており、石炭を原材料とする尿素業界も直撃を受けた。
中国政府は今年9月に発生した大規模電力難以降、10月から再び石炭の生産量を増やしているが、冬を越すための一時的な措置だとの見方が多い。インドネシアやロシアからの石炭輸入も拡大しているが、尿素生産よりも冬季の電力生産の方に優先的に投入される見通しである。
日本は昨年確保したアンモニア96万2814トンのうち、77%の74万3231トンを自社で生産した。
ディーゼル車が多く、尿素水の需要が高い欧州でも、域内には尿素生産業者が多く残っており、尿素水供給の中止や「大混乱」は起こっていない。但し、天然ガスの価格急騰により、生産中止や減産するメーカーも多く、尿素水供給が減り、欧州主要地域の尿素水価格は倍増した。ハンガリーとチェコでは尿素水の買いだめが発生している。
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