岸田文雄首相は1月4日、クリーンエネルギー戦略の策定をめぐり「送配電インフラのバージョンアップなどに方向性を見いだす」と表明した。再生可能エネルギーの普及のため次世代送電網を増強する。
関係省庁に指示し、6月の取りまとめを目指す。
政府は2050年までに温暖化ガス排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラル目標を掲げる。首相は「炭素中立型に経済社会全体を変革していく」と強調した。
政府が再生可能エネルギーの拡大を目指す中、九州では太陽光や風力の発電を一時的に停止する「出力制御」が頻発している。
電力は需要と供給のバランスが崩れると大規模な停電を引き起こす恐れがある。
日照に恵まれる九州は太陽光発電所が多い。2021年5月末時点で九州の太陽光発電設備の導入量は1035万キロワットで、全てがフル稼働すると仮定した場合、九州全体の電力消費量を超えることもあり得る規模である。原発4基も稼働している。このため、天候が良く電気の使用量が少ない春と秋を中心に電力が大幅に余剰となる。
余剰能力は中国九州間連系線を経由し関西に送るが、能力は280万kW しかない。
他に、九州電力は2016年3月に世界最大級の大容量蓄電システムを備えた豊前蓄電池変電所の運営を開始した。(出力:5万kW、容量:30万kWhのNAS電池)
このため、電力の発電量と使用量のバランスを保つため、発電量の超過が想定される場合、発電所の出力を一時的に抑制する「出力制御」を実施している。
国が定める順番では、電力会社はまず火力発電の抑制と揚水発電のくみ上げ運転で対応。次にバイオマス発電、太陽光と風力の順で出力を抑制する。出力の小刻みな調整が難しい原子力や水力は最後になる。
北海道も問題である。2021年4月末時点の北海道エリアの再生可能エネルギー量は、太陽光発電が201万kW、風力発電が53万kWの合計254万kWで、ゴールデンウィーク期間中の最小需要は250万kWである。
北海道本州連系線は90万kWしかない。この先の東京エリアは電力需要が大きい。
ノルウェーのエネルギー開発大手Equinor が日本海側の後志、檜山管内沖など4海域で、出力計400万キロワットの洋上風力発電所の建設を計画している。風車を海に浮かべる「浮体式」という最先端技術を採用し、沿岸漁業への影響や騒音被害などを抑えられるよう、できるだけ沖合に設ける方針。
このままでは2050年の温室効果ガス排出量の実質ゼロは達成できない。
このため 、政府は次世代送電網を整備する。都市部の大消費地に再生エネを送る大容量の送電網をつくる。
国内の電力連系線の実状と増強計画は下図の通り。
九州→中国・関西の能力を倍増、北海道→東京を大幅に増やす。北陸→関西・中部も増強する。
北海道→東京は2030年度を目標に数百キロメートルの海底送電線でつなぐ。
送電方式では欧州が採用する「直流」を検討する。現行の「交流」より遠くまで無駄なく送電できる。
なお、関西と関東では周波数が異なり、大震災の際に送電が不足し、問題となった。2021年3月に90万kWを追加したが、2027年度までに更に90万kWを追加する。
(中部電と東電は周波数がそれぞれ60ヘルツと50ヘルツで異なるため、交流電力をいったん直流に変換して約90㌔㍍の距離を送電する。)
この計画は、最短でも10年程度の事業期間や巨額の費用など課題が多い。電気事業者の関連機関の試算では投資は総額2兆円超になるとされる。
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