現代重工業グループの大宇造船海洋の買収が、EUの反対で最終的に白紙化された。造船業を現代重工業/大宇造船海洋、三星重工業の「ビッグ2」体制に再編し、「規模の経済」を実現するという韓国政府の構造調整計画も水の泡となった。
EU Commissionは1月13日、現代重工業(Hyundai Heavy Industries Holdings)による大宇造船海洋(Daewoo Shipbuilding & Marine Engineering)の買収を承認しないことにしたと公式発表した。
Margrethe Vestager執行委競争担当副委員長は「両社の合併は液化天然ガス(LNG)運搬船市場の独占寡占につながり、船価引き上げなどの弊害が発生する可能性がある。LNG船市場の独占寡占弊害を防止できる解決策を両社が提示しなかったため、不承認決定を下した」と述べた。
理由として下記を挙げた。
両当事者は非常に大きく、市場シェアは増加している。両当事者の合計市場シェアは非常に大きい。両当事者の合計市場シェアは少なくとも60%であり、それ自体が市場における支配的な地位の指標である。さらに、両当事者の合計市場シェアは過去10年間で増加している。
顧客にとっての選択肢はほとんどない。市場には他に1つの大きな競争相手しかいない。しかし、この競合社の能力は、合併の結果として生じる新会社に対する制約として機能するのに十分ではない。
4番目の企業は大型LNG船市場での活動が限られており、国内プロジェクトに重点を置いている。残りの造船会社は、近年大型LNG業者と契約しておらず、値上げの抑止力を持たない。委員会は詳細な需要と供給の分析を実施したが、競合他社の能力が予測される市場の需要をカバーしておらず、統合会社が市場で極めて重要な位置を占める。
参入障壁が非常に高く、購入側に力がない。大型LNG運搬船は、建造が非常に複雑な高度に洗練された差別化された船舶で、市場に参入し、市場で成功することは非常に困難。近年、いくつかの市場からの退出があり、重要な新規参入は期待できない。顧客は、可能なサプライヤーとして造船業者の選択肢が非常に限られている。
コロナウイルスのパンデミックの影響はない。
2019年3月に現代重工業グループによる大宇造船海洋の買収が決定された。
これは、韓国造船産業の構造再編に向けた「苦肉の策」だった。
韓国の造船業界は、2015年頃からの中国造船メーカー各社の安価受注攻勢や海洋プラント設計の不良による大規模な損失発生など、悪材料が重なり、相次いで倒産する危機に陥った。現代重工業グループも2016年に大々的な構造調整に乗り出し、群山造船所の稼動を中止した。大宇造船海洋は資金難から2015年に債権団の管理体制に入った。
国策銀行である産業銀行を前面に出し、事実上、政府主導の合併が決まった。現代重工業グループ、大宇造船海洋、サムスン重工業の「ビッグ3」の過当競争を解消する一方、低い人件費で武装した中国造船業者の攻勢に対抗できる唯一の解決策と評価された。
しかし、買収が最終的に終了するためには、船舶発注会社のある主要国家競争当局の同意が必要である。買収の本契約締結時に、海外の競争当局6者の承認を前提条件に掲げた。
現代重工業グループは6ヵ国に企業結合審査を申請した。中国、シンガポール、カザフスタン、EU、韓国、日本である。
中国、シンガポール、カザフスタンからは条件なしの承認を受けた。
EUは2021年に、「合併を希望する場合、両社のうち1社のLNG船事業部門を売却しなければならない」とした。一つの会社のLNG船事業部門を売却して市場シェアを50%以下に下げろというもの。
現代重工業グループとしては、50%以下に下げるためには、買収したばかりの大宇造船のLNG船事業を直ちに切り離して販売するか、現代が保有している蔚山(現代重工業)と霊岩(現代三湖重工業)の2か所の造船所のうち1か所を売却しなければならず、受け入れられない条件である。
この結果、EUが不承認とした。現代重工業グループと産銀は買収の本契約を交わす際、6か国の承認を全て受けることを条件に掲げており、EUの不承認決定で合併はなくなった。
韓国公取委は1月14日、「EUの競争当局の禁止決定により、企業結合を推進し続けることはできない状況となった。契約打ち切りが確認され次第、審査手続きを終了する」と明らかにした。
問題は大宇造船で、負債比率が297.3%に高まっており、昨年は1兆3000億ウォン台の赤字が予想されている。
韓国政府による大宇造船海洋の買い手探しは続く見通し。大宇造船は、高付加価値船舶であるLNGの技術を保有している上、防衛産業を手がけており、海外への売却可能性は排除することで意見がまとまっている。
大宇造船の買収候補としては、ハンファやポスコ、暁星などが取り上げられているが、財務構造が脆弱な大宇造船を買収する候補はいないというのが大方の見方で、分割売却や海外売却のカードが蘇りかねないという見方も出ている。
付記
ハンファグループの大宇造船海洋買収の本契約が2022年12月16日に交わされた。2008年にハンファが初めて大宇造船海洋の買収に乗り出して挫折してから14年ぶりのこと 。
契約締結後は、競争国の企業結合審査と政府の防衛産業部門の承認など、取引関連の韓国国内外の許認可の手続きが残っている。
ハンファは、新規資金2兆ウォンを投入して大宇造船の新株を買収することで、経営権の持分(49.3%)を確保する。 これまでの筆頭株主だった産業銀行は28.2%で2番目となる。
有償増資には、ハンファ・エアロスペース(1兆ウォン)、ハンファシステム(5000億ウォン)、ハンファインパクトパートナーズ(4000億ウォン)、ハンファエネルギーの子会社3社(1000億ウォン)のハンファの系列会社6社が参加する。最終買収の終わりは、来年1〜6月と予想される。
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