米投票権法案が頓挫

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米国の連邦議会上院は1月19日、下院で可決済みの投票権法案の採決を行ったが、与党民主党議員が2名反対票を投じ、否決された。

1.75兆ドルの Build Back Better Actも通っておらず、バイデン大統領にとって大きな痛手である。

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米国では大統領選挙投票日は平日(11月の第1月曜日のあとの火曜日)である。また、広大な土地のため投票にはかなり遠くまで行く必要がある。

前回の大統領選挙では、郵便投票等により、これまで棄権していた多くの有権者(主に民主党支持者)が投票を行なった結果、バイデン氏が僅差で勝利した。

2020/12/10 米最高裁、ペンシルベニア州の大統領選挙郵便投票無効を認めず 

これを受け、共和党が知事である多くの州で投票の規定を厳密化する法律を設定した。バイデン大統領は1月11日、2021年だけで19州が投票権を侵害する法律を34本制定したと指摘した。

これに対し、民主党は連邦法で投票権の保護法案を提出した。

今回、下院で議決した投票権法案を上院に付議した。これは、「投票の自由法案」と「ジョン・ルイス投票権促進法案」を一本化した もの。

前者は、選挙日を連邦の祝日にするほか、全有権者が郵便投票用紙を請求できるよう定める。
後者は、各州が投票方法に関する変更を行う場合、司法省からの事前承認を求めるもので、共和党が知事・州議会を押さえている州で、投票方法を制限する法律が成立している動きに対抗する。

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問題は上院は与野党が50:50であり、かつ上院独特のFilibuster Ruleにより、野党のFilibuster を止めて議決するには(現在の規定では)60票が必要である。

なお、下記の例外がある。

1)「財政調整措置(リコンシリエーション)」手続き  Congressional Budget Act of 1974 により過半数で議決

予算決議案

予算決議案の審議時間が50時間に限られているためフィリバスターを回避できる。

予算決議案が成立すれば、財政調整法を審議する。

審議時間が
20時間に限られているため、上院でのフィリバスター財政調整法には適用されない。


2021年のの
5500億ドル規模のインフラ包括法案は通常の方法で69票の賛成で可決したが、
3兆5000億ドル規模の予算については、予算決議で50対49の賛成多数で可決
(その後、予算規模を半減した。本来、50対50で上院議長である副大統領の票で通るところが Joe Manchin議員の反乱で通っていない。)

2021/8/26 米下院、3.5兆ドルの予算決議案を可決
2022/1/4 米国民主党の混乱 

2) 「核オプション」

上院のルールでは、各議案の審議でフィリバスターが可能で、これを打ち切るためには60票が必要である。
(実際には、フィリバスターは行なわず、60票以上の賛成で法案を議決しており、Silent filibuster と呼ばれる)

但し、ルールそのものの変更議案については過半数で決めることが可能となっている。フィリバスターの権利を否定するもので、「核オプション」と呼ばれる。

2003年(George W.Bush大統領時代)に共和党が上院で51議席で上院の多数を占めていたが、民主党がフィルバスターで人事を次々に否決した。このため、共和党内で「核オプション」が議論された。

2013年(Barack Obama大統領時代)に、民主党が多数を占めたが、逆に共和党がフィルバスターを使った。

このため、民主党が「核オプション」採用に踏み切り、最高裁判事を除き、連邦判事や各省の長官の承認は多数決とした。

2017年4月にトランプ大統領指名のNeil Gorsuch 連邦控訴裁判事を最高裁判事に承認するに際し、米上院は共和党提案の審議打ち切りの動議を賛成多数で可決した。最高裁判事の承認に関してのみ単純過半数の賛成で打ち切りを可能にする規則変更で、民主党員も3名が賛成した。

2017/4/8 米上院、異例の手続きで最高裁判事を承認 

今回、上院民主党は「核オプション」そのものではなく、これより弱い(穏健な) Talking Filibuster による決議を考案した。問答無用の過半数議決ではない。

上述のとおり、現在はSilent filibusterであり、実際にはfilibuster (長時間の発言継続による議事妨害)は行なわない。
今回の案は、実際にfilibusterを行なわせ、その発言が終了した時点で過半数で議決するというものである。
(会期が終わるまで発言を続けない限り、最終的に過半数で議決できる。)

しかし、この民主党の案も失敗に終わった。

1月19日、まず投票権法案の議決のため、討論終結の議決を行った。これは60票が必要なため、当然否決された。

賛成 49、反対 51 (共和党50に加え、民主党院内総務のChuck Schumerが反対票を投じた。)

Chuck Schumerの反対は手続き的なもの。どちらにせよ60票にはならない。
一旦否決された法案に賛成しておれば、同一法案を別手続き(Talking Filibuster )で審議する法案を出せない。

次いで、Chuck Schumerが同法案をTalking Filibuster により審議する法案を提出した。

決議のルールを変更する法案であり、過半数で議決できる。与野党50:50のため、上院議長である副大統領の票で議決できる予定であった。

しかし、想定外のことが起こった。民主党のJoe Manchin議員と Kyrsten Sinema議員は反対票を投じ、48対52で否決された。(実際は通常ルールによるという法案が賛成多数で通った。)

両議員は当初の投票権法案には賛成しており、「ルール変更ではなく超党派の合意をめざすべきだ」として反対した。

Joe Manchin議員は、1.75兆ドルの Build Back Better Actと今回の投票権法案のバイデン大統領の目玉法案を2つも潰したことになる。

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