オランダのDSMは2021年9月に「Health, Nutrition & Bioscience companyになる」と宣言、エンジニアリングプラスチック等のMaterials 部門については売却を含めて、どうするか検討すると述べた。
ドイツの業界紙は最近、Lanxess(2004年7月にBayerから分離独立)が投資家のAdventと組んで買収するのではないかとの記事を出した。
競合相手としてCelanese や宇部興産、SK Capital やApollo等を挙げている。事業価値としては30億ユーロ程度としている。
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DSMは1902年にオランダ政府がオランダ国営炭鉱 (Dutch State Mines) を設立したのが起源で、1919年にコークス炉ガスを利用して化学肥料の製造を開始し、その後、カプロラクタム系製品やポリエチレン等のバルクケミカル事業へ進出する一方で、1973年に炭鉱を完全閉鎖、化学会社への転換を果たした。
DSMは2007年に新しい戦略 Vision 2010 :Building on Strengths strategy を発表した。下図の緑色の部門を売却し、Life Sciences と Materials Sciences へのシフトを進めるとした。
2007/10/3 DSMの経営方針
具体的には、下記のとおり売却を進めた。
DSM Special Products 2010年に米国のEmerald Performance Materials, LLCに売却 Maleic anhydride事業 長期間、売却を狙ったが成立せず。 2014年にDSM Pharmaceutical Products とPatheon の統合に合わせ、JVのファイン事業子会社としてESIM Chemicals を設立し、Maleic anhydride事業を移した。その後、他社に売却。
DSM Elastomers 2010年に熱可塑性エラストマー事業(商標Sarlink)を米国のコンパウンド会社のTeknor Apex に売却
同年、残るEPDM事業をLanxessに売却2010/12/20 LANXESS、DSM Elastomersを買収
Melamine & Agro 2010年にエジプトのOrascom Construction Industries(OCI)に売却 DSM Energy 2009年に Abu Dhabi National Energy Company (Taqa) に売却
なお、Performance Materialsに関し、2010年5月に三菱化学との間で、事業の交換(ポリカーボネート事業の売却及びナイロン事業の買収)を実施した。
2010/3/3 三菱化学、DSMとの高機能樹脂事業における事業交換契約に合意
これにより、中核事業をLife Science(Nutrition & Pharmaceutical)とMaterial Scienceとしたが、その後、このうちのPharmaceutical事業を売却した。
2011年に抗生物質事業を中国企業・中国中化集団(Sinochem)との合弁会社DSM Sinochem Pharmaceuticalsに移管した。
2014年にDSM Pharmaceutical Products を米投資会社JLLのカナダの子会社 Patheon と統合し、Patheon (DSM 49%)とした。
なお、これに合わせ、JVのファイン事業子会社としてESIM Chemicals を設立し、DSMのmaleic anhydride事業を移した。
更に2015年7月には、ポリマー中間体事業(カプロラクタムおよびアクリロニトリル)およびコンポジットレジン事業を拠出し、英国の投資顧問会社であるCVC Capital Partners とともに新会社ChemicaInvest を設立(DSMが35%を出資)
ChemicaInvest は、Aliancys(コンポジットレジン)、AnQore(アクリロニトリル)、Fibrant(カプロラクタム)の3つの事業ユニットを持つ。
2016/3/16 DSMの変身
2019年のDSMの事業内容は下記の通りであった。( 百万ユーロ)
Sales | EBITDA | 株主帰属 利益 |
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Materials | Engieering Plastics | 1,406 | ||
Dyneema(超高分子ポリエチレン繊維) | 338 | |||
Resins & Functional Materials | 1,002 | |||
Total | 2,746 | 493 | ||
Nutrition | Animal Nutrition & Health | 2,892 | ||
Human Nutrition & Health | 2,046 | |||
Personal Care & Aroma Ingredients | 425 | |||
Others | 665 | |||
Total | 6,028 | 1,224 | ||
Innovation | 194 | 18 | ||
Cooperate | 42 | -149 | ||
Total | 9,010 | 1,586 | 764 |
DSMは2021年9月に「Health, Nutrition & Bioscience companyになる」と宣言したが、実はその前にこの方向で動き出していた。
2020年にResins & Functional Materials事業をCovestroに売却している。
2020/10/14 Covestro、Royal DSMのコーティング樹脂事業を買収
Materials部門で残るのは、ポリアミドと超高分子ポリエチレン繊維「ダイニーマ」などで、今回、これを売却する。
売却先候補に宇部興産が挙がっているのは同社が 国内外でポリアミド事業に注力しているため。
2016年時点で世界3拠点でナイロン6樹脂を生産、日本(5.3万t/年)、タイ(7.5万t/年)、スペイン(7.0万t/年)の合計19.8万t/年の生産能力を持ち、世界トップメーカーの一角を占める。
上記の通り、DSMは三菱化学(当時)のポリアミド事業を取得している。(ポリカーボネート事業と交換)
日本法人子会社のDSMジャパンエンジニアリングプラスチックスは、ナイロン樹脂の国内シェア約20%を誇る。
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