塩野義製薬と島津製作所、下水モニタリングをはじめとする公衆衛生上のリスク評価を目的とした合弁会社設立

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塩野義製薬と島津製作所は2月9日、下水モニタリングを始めとする公衆衛生上のリスク評価を目的とした折半出資の合弁会社、 ㈱AdvanSentinelを設立したと発表した。

今回設立したAdvanSentinel社は、塩野義製薬の強みであるサイエンスを活かした新規分析手法の開発力や島津製作所の強みである環境中の分子測定技術などに加え、両社が培ってきた下水モニタリングを通じたネットワークを持ちよることで、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)にとどまらない、次なるパンデミックや公衆衛生上のリスク把握などに向けたオールジャパン体制の構築を目指す。

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両社は2021年6月に新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)を含む感染症領域の下水モニタリングの早期社会実装を目指した業務提携に関する基本合意書を締結した。


欧米では、都市の下水中の新型コロナウイルスを定期的にモニタリングすることで、流行状況の早期検知や収束判断などを行うほか、施設の下水のモニタリングにより、クラスター感染の早期検知を行っている。両社は、PCR検査などによる下水モニタリングの早期社会実装を目指し、共同事業体の設立の協議を進めるとしていた。

(島津製作所)

島津テクノリサーチを通じて、2021年5月に下水のPCR検査によって対象集団における新型コロナウイルスの感染状況を監視し、陽性反応がある場合にはヒト検査で感染者を特定する検査システム「京都モデル」の受託検査事業を開始した。高齢者施設や学校など教育機関、宿泊施設、保育所といった個別施設に向けてサービスを提供する。

「京都モデル」については京都大学、金沢大学、富山県立大学の技術指導を受けて、京都府・京都市の協力による実証試験においてその有効性を確認した。

2021年4月中旬まで約1カ月かけて京都府・京都市の協力のもとに、中等症患者が入院する医療機関および軽症患者が滞在する療養施設で実証実験を行った。
その結果、島津テクノリサーチが独自で開発した「PoP-CoVサンプラー」をマンホールに設置し、採取した下水試料から陽性反応を捉えられた。

さらに個別施設(111名が利用するオフィスビル)の下水PCR検査から陽性反応を捕捉した追加実験では、後日実施された行政のヒト検査において利用者1名が新型コロナウイルスに感染していたことが判明した。

下水PCR検査の実施が発症日(陽性確定日の4日前)あるいはその前日であり、「建物単位での下水PCR検査が感染の早期発見に有効」であることを示せた。

下水PCR検査は、ポリエチレングリコール沈殿法で試料を濃縮したうえで、島津製作所製の「新型コロナウイルス検出試薬キット」を使用して実施した。今後、島津テクノリサーチは「変異株の検出」や「高感度・ハイスループットな前処理方法」について検討を重ねる。

(塩野義製薬)

日本においては、人口当たりの感染者数が少なく、下水中のSARS-CoV-2濃度が低いため、都市の下水からウイルスを検出するためには、感度の高い検出法が必要とされる。

北海道大学及び塩野義製薬は、これらの課題を克服し得る下水中SARS-CoV-2の高感度検出技術を共同開発するとともに、検出工程の自動化を実現した。

また、下水疫学調査の社会実装にあたっては、採取した下水をハイスループットで解析する体制の構築が急務で、このため、国産汎用ヒト型ロボットLabDroid「まほろ」によりSARS-CoV-2 RNAの検出・定量及び次世代シークエンス(NGS)解析の前処理(ライブラリ調製)を自動化する技術を持つロボティック・バイオロジー・インスティテュート、及び、大規模NGS解析によりゲノム情報(ウイルス変異状況等)の把握を可能にする㈱ iLACを加えた体制を構築した。

塩野義製薬は2021年4月からは、大阪府の協力のもと、本検出技術を活用し、下水処理場の流入下水を使用したSARS-CoV-2の定量的モニタリングに取り組み、SARS-CoV-2の定量的検出が可能であることを確認した。

2021年6月14日より、本検出技術を用いた各自治体の下水処理場への流入下水を対象としたサービス提供を開始した。

下水疫学調査の結果は、個人が特定されない形で地域のSARS-CoV-2の感染拡大や収束の傾向を把握できることから、各自治体が感染拡大予防策を講じる際の1つの客観的な指標として活用されることが期待される。



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