神戸大学大学院理学研究科の研究グループは2月9日、AGCと協力して、光で酸化したクロロホルムを使って、ポリウレタンやその原料となるイソシアネート、および尿素誘導体の合成に成功したと発表した。


イソシアネートは、毒性が高く危険なホスゲン(COCl2)を用いて製造されているが、本合成法では、必要な時、必要な量だけ、溶媒のクロロホルム中に光でホスゲンを任意に発生させて、それを溶液から出さずにそのまま次の合成に用いることができるため、安全性が高い。

  • 高価で特殊な装置や薬品が不要であり、安全で簡単にオン・サイト、オン・デマンド合成が可能となった。
  • 汎用のポリウレタンに加え、ポリマー主鎖にフッ素原子を組み込んだ機能性フッ素化ポリウレタンの合成に成功した。これらは撥水性、耐候性、耐摩耗性、摩擦特性、摺動性、非粘着性、非誘電特性などの高い材料としての利用、更なる性能・機能の向上が期待される。

クロロホルムは高い化学的安定性、揮発性を持ち、多くの有機化合物を溶解させることができる汎用の有機溶媒で、世界中で大量に生産・消費されている。

クロロホルム:CHCL3

製法:
 CH4 + Cl2 → CH3Cl + HCl
 CH3Cl + Cl2 → CH2Cl2 + HCl
 CH2Cl2 + Cl2CHCl3 + HCl

分解すると、その分解物には人体に極めて有害なホスゲン、一酸化炭素、塩素、塩化水素などが含まれていることが知られている。クロロホルムを効率良く分解する方法は確立されておらず、含まれるこれらを実用的な有機合成に利用した例はこれまでなかった。

研究グループは、フッ素化学品およびその原料としてのクロロホルムの製造企業であるAGCとの産学共同研究に取り組み、クロロホルムを原料として、ポリウレタンやその原料となるイソシアネート、および尿素誘導体の合成に成功した。

(1) 尿素誘導体

アミンと触媒を溶解させたクロロホルム溶液に紫外光を照射するだけで、それらが化学反応を引き起こし、簡単かつ高収率で尿素誘導体を合成できることを発見した。

アミンと有機塩基を含むクロロホルム溶液に、酸素バブリングしながら、20〜40℃の反応温度で低圧水銀ランプから紫外光を照射して尿素誘導体を合成した。

(2) イソシアネート

あらかじめクロロホルム溶媒のみを低温で光酸化して、クロロホルムのホスゲン溶液を調製し、そこにアミンと触媒を添加すると、イソシアネートが高収率で合成できることを確認した。

クロロホルム溶媒に、酸素バブリングしながら、0 ℃で低圧水銀から紫外光を照射してクロロホルムを光酸化して、その溶液にアミンと有機塩基を順次注入する 2 段階のプロセスを経て、イソシアネートを高収率で合成できた。

具体的には、下記のイソシアネートの合成に適用できることを確認した。

ヘキシルイソシアネート、フェニルイソシアネート、3-(トリアルキルシリル)プロピルイソシアネート、トルエンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ナフタレンジイソシアネート(NDI)、パラフェニレンジイソシアネート(PPDI)、ヘキサメチレンジイソシアナート(HDI)、ペンタメチレンジイソシアナート(PDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ノルボルネンジイソシアネート(NBDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、水添キシリレンジイソシアネート(H6XDI)など

さらに、それらにアルコールを添加することによってワンポットで(容器を変えずに)相当するポリウレタンを合成できることを確認した。

さらに、この新たな方法を応用して、フッ素化ポリウレタンの合成に成功した。
フッ素原子を主鎖に組み込んだ機能性ポリウレタンは、高い撥水性、耐候性、防汚性、および低誘電性などの性質を持つ機能性プラスチック材料などとしての利用が期待されている。