G7は3月11日、ウクライナへの侵攻を続けるロシアに新たな経済制裁を科すと表明した。
ロシアの最恵国の地位を取消し、ロシアからの輸入品に大幅に高い関税を課すほか、高級品の対ロ輸出も禁じる。
国際通貨基金(IMF)や世界銀行、欧州復興開発銀行(EBRD)によるロシアへの融資を阻止することでも協力する。
プーチン大統領の側近や関係が近い大富豪への制裁を強化するほか、重要製品や技術、高級品が渡らないよう貿易を規制する。暗号資産(仮想通貨)などを使って制裁を回避しないよう監視を強める。
声明内容は下記の通り。
1)各国の手続と整合的な形で、重要製品に関するロシアの最恵国の地位を否定する行動をとるよう努める。
これにより、WTO加盟国としての重要な利益が打ち消され、ロシア企業の製品が最恵国 待遇を受けないことが確保される。
2)国際通貨基金(IMF)、世界銀行、欧州復興開発銀行を含む主要な多国間金融機関からロシアが融資を受けることを防ぐよう共同で取り組んでいる。
国際法に著しく違反しておきながら、国際経済秩序の一部であることの恩恵を受けることを期待することはできない。
3)プーチン大統領やその他の戦争の立案者に近いロシアのエリート層、代理勢力、オリガルヒ及び彼らの家族やその支援者に対して圧力をかける。
制裁を受けた個人及び団体が所有する動産及び不動産を特定し凍結する。
4) 制限的措置の有効性を維持し、回避を取り締まり、抜け穴を塞ぐ。
国際的な制裁の影響を回避あるいは相殺するための手段としてデジタル資産を活用することができないことを確保
5) ロシアの体制による偽情報拡散の試みと戦う。ロシア国民の自由かつ偏見のない情報への権利を確認し支持する。
6) ロシア連邦に対する重要物品及び技術の輸出入に対し、更なる制限を課す。
7) ロシアが国際的に資金を調達する能力を更に制限する措置を開発及び実施するために、引き続き共に取り組む。
バイデン米大統領は3月11日、プーチン大統領は「侵略者であり、代償を払うことになる」と言明、G7 と協調し、WTOルールに基づくロシアの「最恵国待遇」を撤回すると表明した。
ペロシ下院議長は、14日の週にロシアとの貿易関係を見直し最恵国待遇を取り消すための法案を採決すると表明した。野党・共和党でも賛同の声が上がっている。
バイデン政権はロシアとベラルーシへの自動車や宝石、衣類、たばこ、アンティーク品など高級品の輸出も禁じた。
ロシアからのウォッカやキャビアなどの魚介類、ダイヤモンドの輸入を禁止する措置も示した。
制裁対象とするロシアの新興財閥(オリガルヒ)を拡大する。
米国では、最恵国待遇から外れているのは北朝鮮とキューバだけで、ロシアを両国並みの扱いにする。(2001年末まではアフガニスタンとベトナムも外れていた。)
米国がロシアから輸入する商品や原材料には現在、協定税率で平均で3%程度の関税がかかっているが、これが平均で30%超に跳ね上がるとされる。但し、米国の対ロ輸入は2021年で297億ドル程度で全体の1%にすぎない。
EUの欧州委員会も3月11日、ロシアへの最恵国待遇を取り消すと発表した。有名ブランドなどの高級品をロシアに輸出することを禁じるほか、ロシアの主力輸出品である鉄鋼製品の輸入をやめる。 EU主脳会議は、2027年までにロシア産ガスや石油からの依存を脱する方針を確認した。
EUはロシアの最大の貿易相手で、2920年はロシアのモノ輸出の37%を占めた。
カナダ政府は3月3日、各国の先頭を切り、最恵国関税撤廃令を出し、ロシアとベラルーシが関税法のもとで最恵国待遇を受けている資格を撤廃し、2国を原産地とする輸入品のほぼ全てに一般税率である35%の関税率を適用することを発表した。同税率の適用は、ロシアとベラルーシ以外では、北朝鮮のみとなっている。
岸田首相は「日本も連携という観点からどうあるべきなのかしっかり考える」と述べた。(いつも、この発言)
最恵国待遇の剥奪は「日本は過去に実行したことがない」(政府関係者) 法律の改正が必要である。
2021年の日本のロシアからの輸入額は1兆5488億円で、例えばカニの関税は4%から6%になる。輸入の過半を占める原油やLNGなどは基本税率がゼロのため、変わらない。
付記
貿易上の優遇措置などを保障する「最恵国待遇」の撤回などを盛り込んだ法律の改正案は、4月12日に衆院で審議入りし、14日の衆議院本会議で可決され、参議院に送られた。
このうち、関税暫定措置法の改正案では、ロシアに対する「最恵国待遇」を撤回するために必要な内容が盛り込まれ、外国為替法の改正案では、ロシアが制裁の抜け穴として暗号資産を悪用できないよう、制裁の対象者が第三者に暗号資産を移転するのを規制することなどが盛り込まれている。
なお、下記の通り、最恵国待遇原則はWTO協定の基本原則である。
しかし、GATT21条は「安全保障のための例外」を定めており、以下の場合は例外を認めている。ロシアを除外するのは、この c) に基づく。
(a)締約国に対し、発表すれば自国の安全保障上の重大な利益に反するとその締約国が認める情報の提供を要求すること。
(b)締約国が自国の安全保障上の重大な利益の保護のために必要であると認める次のいずれかの措置を執ることを妨げること。
(i)核分裂性物質又はその生産原料である物質に関する措置
(ii)武器、弾薬及び軍需品の取引並びに軍事施設に供給するため直接又は間接に行なわれるその他の貨物及び原料の取引に関する措置
(iii)戦時その他の国際関係の緊急時に執る措置
(c)締約国が国際の平和及び安全の維持のため国際連合憲章に基く義務に従う措置を執ることを妨げること。
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最恵国(Most Favored Nation)除外について:
いずれかの国に与える最も有利な待遇を他のすべてのWTO加盟国に対して与えなければならないという最恵国待遇原則(Most-Favoured-NationTreatment = MFN 原則)は、WTO 協定の基本原則の 1 つである。
関税については、日本では「関税定率法」と「関税暫定措置法」という2つの法律によって「国定税率」が定められている。
「関税定率法」では、基本税率としては7,254種目の税率が設定されている。
一方、「関税暫定措置法」には、一時的に基本税率によりがたい事情がある場合に、一定期適用される433種目の暫定税率が定められている。
WTO加盟国には、最恵国待遇原則が適用される。WTO協定において、WTO加盟国・地域全てに対して一定率以上の関税を課さないことを約束している。
この税率が「協定税率(WTO譲許税率)」である。
仮にある国にこれ以下の税率を適用すれば、その税率は他の全てのWTO加盟国に適用しなければならないことになる。
その例外が投資・サービス分野などを含む自由貿易協定(FTA)を締結した相手国からの産品のみを対象とした税率で、これは他の加盟国には適用されない。
まとめると、関税率は下記の通りとなる。
国定税率>協定税率(WTO譲許税率)>FTA税率
今回、G7は「重要製品に関するロシアの最恵国の地位を否定する行動をとるよう努める 」とした。
ロシアはWTO加盟国ではあるが、最恵国待遇から外し、協定税率を適用しない(=国定税率を適用する)ということになる。これには各国の国内手続きが必要である。
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