ロシアのウクライナの黒海側への攻撃で、ウクライナの3つの空気分離企業のうちのCryoin Engineering がOdessaの工場、Ingas LLC がMariupolの工場の操業を停止した。
2社のほか、Iceblick がウクライナのOdessa とロシアのMoscowにプラントを持つ。同社も製造の継続は無理と思われる。
Iceblick は世界のネオンの65%、クリプトンとキセノンの15%を占める。1990年にOdessaで設立され、急速に成長した。
ウクライナはレアガス :ネオン(Neon)、クリプトン(Krypton)、キセノン(Xenon)の世界最大の供給者で、ネオンの70%、 クリプトンの40%、キセノンの30%を占める。半導体に回路を描く「露光工程」で使うレーザー光発振に用いるネオン の90%を供給している。
各社はロシアでの鉄鋼製造の副産物として出るガスをウクライナで精製している。 ロシアの侵攻で、ロシアとウクライナ両国にまたがるネオンのサプライチェーンは事実上寸断されている。
半導体の製造にはネオン、クリプトン、キセノンなどの希ガスが欠かせない。
ネオン(Ne) は、シリコンウェハーに回路を刻む露光工程で使われるエキシマレーザーガスの原材料の一つ。クリプトン(Kr) は、半導体のエッチング工程で、キセノン(Xe) もエッチング工程で使用される。
米国のセミコンダクターのサプライチェーンではネオンの90%はウクライナからの輸入品とされる。
韓国の2021年輸出入貿易統計では、ネオンの輸入はロシアからが5.2%、ウクライナからが23%で、クリプトンはロシアからが17.5%、ウクライナからが30.7%、キセノンはロシアからが31.1%、ウクライナからが17.8%である。
ロシアとウクライナからの輸入が長期間途絶えると、半導体の生産に支障が出ることになる。
これらは地上の大気中にPPM(100万分の1)レベルでしか存在せず、空気から希ガスのみを取り出すのは極めて難しい。
このため、工業的には空気分離プラントの副生品としてしか生産できない。しかも、経済性を得るためには、数10万m3/hの空気処理能力を有する空気分離プラントでしか成立しない。(下図:東京ガスケミカルのHPより)
日本ではこのような大規模なプラントが少ないため、海外からの輸入に頼らざるを得ない。また、副産品のため、レアガスだけの増産はできない。
現在、エア・ウォーターがクリプトンとキセノンを国内生産している。
韓国では、ポスコが半導体用特殊ガス専門企業であるTEMC社と協力し、最近、ネオン(Ne)の国産化に成功し、製品を出荷した。 但し、韓国需要の約16%しか供給できない。
なお、韓国では3月4日に物価問題に関する関係閣僚会議を開催、そのなかで、ネオン、クリプトン、キセノンなど、半導体の製造工程で使用する品目の需給状況の点検を行い、3月中に関税割り当ての適用を検討することを決めた。
そして3月17日に、ロシアとウクライナからの輸入依存度の高いネオンやキセノン、クリプトンに割当関税(0%)を適用することを決めた。これらの現在の関税5.5%である。
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