国連常任理事国の拒否権問題

| コメント(0)

ウクライナ問題でロシア軍の即時撤退を求める国連安保理事会の決議が当事者のロシアの拒否権で否決された。

国連安全保障理事会では2月25日午後、緊急の会合が開かれ、米国などが提案した決議案の採決が行われたが、ロシアが拒否権を行使した。

決議案は、ロシアの軍事侵攻に強い懸念を示した上で、ウクライナの主権と領土の一体性を改めて確認し、ロシアに対して軍の即時撤退を求めるもの。

理事国15か国のうち11か国が賛成したが、議長国で常任理事国のロシアが拒否権を行使し、決議案は否決された。

ロシアの拒否権に加え、中国、インド、UAEが棄権したのも、対ロシアでの国際的な包囲網を形成する難しさ を示している。

中国の国連大使は棄権理由について「事態を収めることが必要だ」と述べ、「不当な措置や制裁の発動は状況をより混沌とさせ、平和的な解決への道を閉ざすものになる」と語った。

インドは2021年12月、ロシアと10年間の軍事協力を締結している。ロシア産兵器を大量に調達しており、今後もミサイルなどを買い増す計画である。インドの国連大使も「当事国による対話のみが唯一の前進する道だ」と発言した。

UAEはロシアとエネルギー分野などで連携を深めており、アブダビの石油開発・生産事業にロシア企業が参画しているほか、人工知能(AI)など今後の成長が見込める分野でも連携することで合意している。

他方、ロシアはウクライナに関する人道決議案を提出した。ウクライナへの支援や民間人保護の必要性を訴えたが、人道危機を引き起こしたロシアの侵攻には触れていない。

国連安全保障理事会は3月23日にこれの採決を行った。ロシアと中国のみが賛成、残る13カ国は棄権し、否決された。

英国の国連大使は採決後、「ロシアが人道状況に関心があるなら、子どもへの砲撃を停止し、包囲攻撃もやめるはずだ。しかし、そうはなっていない」と強調した。


拒否権を持つロシアの暴走に対して国連が無力であることが改めて浮き彫りになっている。

現在、ロシアの拒否権が問題となっているが、1972年以降の拒否権発動は米国が81回、ソ連が32回で、米国が圧倒的である。(2000年8月までのデータ)

米国の拒否権は多くがイスラエルのパレスチナに対する行動に関する問題で、賛成が圧倒的な決議を拒否権で否決しているケースがほとんどである。

ーーー

国連の安全保障理事会は15カ国で構成される。

メンバーは、常任理事国5カ国(中国、フランス、ロシア連邦、イギリス、アメリカ)と非常任理事国(任期2年)10カ国の15カ国で、各理事国は1票の投票権を持つ。

議題の採択、安全保障理事会の討議への加盟国の参加招請、手続規則の採択といった手続き事項に関する決定は15理事国のうち少なくとも9理事国の賛成投票によって行われる。 「拒否権」はない。

実質事項に関する決定では、同様に9理事国の賛成投票によって行なわれるが、常任理事国は「拒否権」を持ち、発動されれば決議は否決される。

国連広報局は「国連のここが知りたい」で次のように述べている。

国連憲章の起草者たちは、中国、フランス、ソ連、英国および米国の5大国が、国際的な平和と安全の維持にも重要な役割を果たし続けるだろうと考えたのです。

平和を保障する最善の方法は、特に戦争と平和の問題について、5大国を共通な合意を通じて協力させることでした。

このため、「5大国」のいずれかが手続以外の問題で「反対票」を投じた場合、安全保障理事会は決議を採択できないということで合意がなされたのです。

実際には5大国が、自国又は自国と非常に関係の深い国の行為が問題となった時に拒否権を発動する事態が多発した。

このようなケースでは拒否権を認めないとすべきであった。

しかし、「拒否権を認めない」とのルール変更は5国の拒否権で否決されるのは確実で、今になってはどうしようもない。


2020年8月まで拒否権の行使回数は、下表の通り、ロシア・ソ連が116回、アメリカが82回、イギリスが29回、フランスが16回、中華人民共和国・中華民国が16回である。

常任理事国 1946年-
1971年
1972年-
1991年
1992年-
2020/8
合 計 備考
ソビエト連邦 → ロシア連邦 84 6 26 116 1991年12月よりロシア連邦
アメリカ合衆国 1 64 17 82
イギリス 6 23 0 29
フランス 2 14 0 16
中華民国 → 中華人民共和国 1 1 14 16 1971年10月より中華人民共和国

ソース:ウィキペディア 原典は Security Council Report   全件リスト

当初のソ連の拒否権の多くは新加盟国の承認に関するもので、「平和条約が効力を生じていない」ことを理由に、加盟に拒否権を発動した。
日本の加盟勧告決議案も1952年総会ではソ連の拒否権行使により否決された。 (1956年に調印された日ソ共同宣言には「日本の国連加盟申請をソ連が支持する」ことが記され、加盟が実現した。)

米国も1975年に当時の南北ベトナムの加盟にそれぞれ拒否権を発動している。

1972年以降でみると、拒否権発動は米国が81回、ソ連が32回で、米国が圧倒的である。 (2000年8月までのデータ)

米国の拒否権は多くがイスラエルのパレスチナに対する行動に関する問題である。 理事国のほとんどの賛成を拒否権で葬っている。

一例として、2011年2月18日には、パレスチナ地域におけるイスラエル人入植地が違法であることを再確認し、東エルサレムを含む同地域でイスラエルがすべての入植活動を停止するよう要求する安保理決議(120を超える国々が共同提案国となった)に、14の理事国が賛成したが、ライス国連大使は、「続行中のイスラエルの入植活動の合法性については強く否定する」と述べながら、拒否権を行使した。

最近でも2017年12月に、米政府がエルサレムをイスラエルの首都と一方的に宣言したことを批判するエジプト提案の決議案の採決が行われ、14理事国すべてが賛成したが、トランプ政権が拒否権を発動して廃案に追い込んだ。

中東情勢を報告した国連の中東担当特使は米国の決定は過激派組織を拡大させ、イスラエルとパレスチナの紛争が拡大する「悪循環」を助長すると警告した。

バイデン大統領がプーチンを批判する「力による現状変更」は、米国が支援するイスラエルもパレスチナに対して行なってきた。東エルサレムも含め、エルサレム全体の領有権を主張し、実効支配している。

今回のロシアの拒否権発動のみに関しては、イスラエルの武力による不法行為、残虐行為に対する決議を拒否権で葬ってきた米国は非難する権利はないと思われる。

なお、米国自身が1984年4月に反政府武装組織コントラを使い、ニカラグアに対し武力行使と内政干渉を行い、ニカラグアの主権、領土保全、政治的独立を侵害し、国際的に受け入れられた国際法の基本的原則に違反 したというニカラグアの非難決議を、自らの拒否権で葬っている。(国際司法裁は米国の違法性を認定したが、賠償のないまま、終了した。)

米国とロシアの拒否権をみると、国連が無力であることが分かる。

コメントする

月別 アーカイブ