米上院、 対ロシア制裁法案の審議遅れ

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米上院で、下院で可決した対ロシア制裁法案審議が遅れている。対中競争法案はようやく可決し、下院との一本化の協議に入る。


G7は3月11日、ウクライナへの侵攻を続けるロシアに新たな経済制裁を科すと表明した。

ロシアの最恵国の地位を取消し、ロシアからの輸入品に大幅に高い関税を課すほか、高級品の対ロ輸出も禁じる。

2022/3/14 G7、ロシアに新たな経済制裁 

米議会下院は3月17日、ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアの製品に高い関税を課す制裁法案 (Suspending Normal Trade Relations with Russia and Belarus Act)を賛成多数で可決した。

ロシアと、侵攻に協力したベラルーシに対し、世界貿易機関(WTO)ルールに基づく「最恵国待遇(MFN)」を取り消す。これまでは平均3%の関税をかけてきたが、法案成立の翌日から北朝鮮とキューバにのみ課してきた30%超の関税を適用する。 他に世銀問題やビザ停止があるが、後述の人権問題も含んでいる。

Summary:

This bill suspends normal trade relations with Russia and Belarus. It also permanently authorizes the President to impose visa- and property-blocking sanctions based on violations of human rights, and it revises the President's authority to impose these sanctions.

Specifically, the bill authorizes the President to proclaim increases in the rates of duty applicable to products of Russia or Belarus. This authority terminates on January 1, 2024.

The President may restore normal trade relations with Russia and Belarus, subject to congressional disapproval.

The bill directs the U.S. Trade Representative to take certain actions, including to consider steps to suspend Russia's participation in the World Trade Organization and seek to halt the accession process of Belarus.

Additionally, the bill statutorily authorizes broader coverage of current visa- and property-blocking sanctions for human rights violations to cover persons involved in serious human rights abuses. (Current law imposes these sanctions on persons responsible for gross violations of human rights, a higher standard.)

The bill authorizes the President to impose sanctions on any foreign person who (1) is responsible for serious human rights abuse, (2) is a current or former government official who is responsible for or complicit in corruption, (3) is or has been a leader or official of an entity that has engaged in any of these activities, (4) has provided support for any of these activities, or (5) is owned or controlled by a person subject to these sanctions.

下院の票は下記の通り。

  共和党 民主党 合計 欠員
賛成 202 222 424
反対 8 8
棄権 1 1
合計 211 222 433 2

1/1に共和党員が辞職(6/7に補選)2/17に共和党議員死亡(8/9補選)
上記投票の翌日、3/18に共和党員死亡(補選未定) 現在は欠員3

法案は上院に送られ、上院では民主党のシューマー院内総務は、ウクライナ政府を支援するため、全会一致での早期可決を呼び掛けた。 大統領の訪欧中の3月25日までの議決を目指した。

但し、この法案にはGlobal Human Rights Act の人権条項が折り込まれているのが問題となった。人権侵害の外国人(any foreign person)への制裁で、ロシアとベラルーシ以外の外国人も全て対象となる。

これは通称 Global Magnitsky Act と呼ばれ、ロシアのMagnitsky弁護士がロシアの国営企業の不正を暴露して投獄され、暴力を受け続けて2009年に獄中死したことから、「弁護士の死とロシアにおける人権侵害に関わった全ての者に制裁を科す」として2012年に成立した。

2016年以降、世界全体を適用範囲とし、米国政府が人権侵害者とみなした者を制裁し、その資産を凍結し、米国への入国を禁止する権限を与えている。

下院では民主党と共和党がことごとく鋭く対立するなかで、 上記の通り、両党が賛成したが、共和党議員8人が反対した。

反対した共和党議員8人も、正常貿易関係の断絶には同意するが、法案に含まれた人権関連制裁条項が、大統領に過度な権限を与えるとして反対票を投じた。

Andy Biggs 議員は、大統領がこの条項を「中絶の権利の反対者」を罰することに利用することを懸念すると述べた。

上院でも、人権を巡る条項について、範囲が広すぎるとの懸念が一部の共和党議員の間で浮上した。

共和党のRand Paul議員は、人権を巡る条項が大統領に過度な権限を付与する可能性があると懸念を表明、3月24日に法案の採決を拒否した。Rand Paul議員は"human rights abuse"の定義を入れることを求めている。 このままでは、大統領は制裁したいと思う人を誰でも制裁できることになるとしている。

結局、この法案の審議は3月28日の週にずれ込んだ。

(なお、日本は今国会に提出する準備を進めている段階である。日本ではこれまで、特恵関税を外す事態を想定していなかった。)


問題は、もう一つの重要法案の審議がこの週にずれ込んでいることである。「対中競争法案」である。このため制裁法案の審議が暫くできない。

米議会下院は2月4日、中国に対抗するため先端技術の競争力向上をめざす包括法案 The America COMPETES Act of 2022 を賛成多数で可決した。

上院は2021年6月8日に同様の法案 United States Innovation and Competition Act を異例の超党派で可決した。しかし、下院が異なるアプローチで審議したため、これは宙ぶらりんになった。

2021/6/11 米上院、対中包括法案を可決

下院法案は、国内の半導体生産支援に約520億ドルを充てる。半導体製造・組み立て・試験・先端パッケージ・研究開発のための施設・装置の建設・拡充などを財政支援する。

加えて、米国のサプライチェーン強化に重点を置き、米国の経済・安全保障にとって重要な製品の供給不足を防ぎ、それら重要製品の国内生産を促すための補助金やローンに450億ドルを拠出する。

また、エネルギーやバイオテクノロジーなど先端技術のR&Dを支援、5年間で133億ドルを投じる。

2022/2/7 米下院、「対中競争法案」可決

下院案が上院に送られたが、上院での審議で民主党系無所属のBernie Sanders 議員がこれに注文をつけ、下記2件の取り消しを求めた。

1) Amazon創設者のJeff Bezosの宇宙開発企業Blue Origin とNASAの100億ドル契約

大金持ちのBezosが月に行きたいなら、自分の金でいけばよい、税金を使う必要はないとしている。

2) 半導体業界への530億ドルの支援 

 この産業は必要だが、見返りの義務なしに支援するのは金持ちの株主を利するだけで、税金から支援する必要はないとする。 


米議会上院は28日にようやく、中国に対抗し産業の競争力強化を目指す「米国競争法案」を賛成多数で可決した。

Sanders議員の反対する半導体の生産体制強化への520億ドルが入っている。

同法案には台湾を支持する内容が複数盛り込まれた。インド太平洋戦略における重要な一部だと位置付け、米国の国内法「台湾関係法」などが保証する台湾への関与の強化や、台湾への定期的な武器の売却、台湾の国際機関への有意義な参加の促進などを支持する内容が含まれた。

半導体への支援等に反対した民主系無所属のSanders議員は反対したが、共和党から19名が賛成、可決した。

  共和党 民主党 民主系
無所属
合計
賛成 19 48 1 68
反対 27 1 28
棄権 4 4
合計 50 48 2 100


今後、法案の一本化に向け、両院が協議する。


なお、ロシア産原油の輸入禁止法案についても下院は3月10日に可決しているが、上院はまだ可決していない。

しかし、バイデン大統領は3月8日に、追加経済制裁としてロシア産の原油やLNG、石炭などの輸入を禁止する大統領令に署名し、即日発効している ため、支障はない。

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