原告7人は、水俣病が公式確認された1956年前後に生まれた。2002~05年に、幼いころから手足のしびれやふるえ、こむら返りなどに苦しんできたとして、公害健康被害補償法に基づき水俣病患者に認定するよう熊本、鹿児島両県に申請したが、棄却され、2015年10月に提訴した。
訴訟では、原告側は、水俣病患者が多く認定された地域に生まれ「幼少期に魚介類を多食していた」として高濃度の水銀暴露があったと主張、手足のしびれなどの感覚障害は水俣病によるものだと訴えた。
これに対し、両県は、水俣病の公式確認以降に水俣湾の魚介類の危険性は知られ、食べることは控えられていたと反論。原告らの症状は糖尿病やアルコール性の神経障害などが原因で、水俣病によるものではないとしていた。
裁判長は、一部の原告を除いて高濃度の水銀摂取自体を否定した。そのうえで、水俣病の潜伏期間は水銀摂取を停止してから数カ月から数年と指摘、原告らは 幼いころから手足のしびれやふるえ、こむら返りなどに苦しんできたと訴えたが、判決は「医師から感覚障害の所見を得たのは、水銀摂取の停止から20~30年経過後であり、水俣病の発生の仕組みに合致しない」として、原告の主張を退けた。(下記の福岡高裁と同様)
原告側は控訴する方針。
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原告の7人を含む計8人は2007年に国と熊本県、チッソに損害賠償を求める訴訟を起こしている。
一審熊本地裁は2014年3月の判決で、8人中3人を患者と認め、障害の重さに応じて1人当たり220万~1億500万円の支払いを命じた。5人については同居親族に認定患者がいないことなどから請求を棄却した。
しかし福岡高裁は2020年3月の控訴審判決で、一審の原告勝訴部分を取り消し、8人全員の訴えを退けた。「メチル水銀にさらされてから発症までの潜伏期間は、数カ月から4年程度だ」として、長期間経過後の「遅発性水俣病」を否定した。
一審で勝訴した3人中2人が訴えためまいやしびれなどの症状について、更年期障害や腰椎椎間板ヘルニアなど、他の疾患が原因の可能性があると指摘した。
生まれつき脳性まひがある男性に関しては、出身地域の認定患者は極めてまれで、高濃度のメチル水銀にさらされたか疑問があるとし、出産時に脳への酸素供給を絶たれたことが原因の可能性があると判断した。
他の5人も水俣病とは認められないと結論付けた。
最高裁は本年3月8日付で上告を退ける決定をし、原告敗訴が確定した。5人の裁判官全員一致の結論で、詳しい理由は示されなかった。
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