米厚生省のCenters for Medicare & Medicaid Services(CMS)は4月7日、米Biogenがエーザイと共同開発したアルツハイマー病治療薬ADUHELM(一般名:アデュカヌマブ)のMedicare(高齢者・障害者向け医療保険制度)適用対象について、特定の臨床試験に参加する患者に制限する計画を最終決定した。
これにより、アルツハイマー病患者の大半はADUHELMへのアクセスを事実上阻まれる。これの撤回を働き掛けていたBiogenにとり、今回の最終決定は打撃となった。
ただ、CMSの当局者は、将来の大規模試験で臨床的利点が明確に示され、米食品医薬品局(FDA)から完全な承認を得たアルツハイマー病治療薬については、Medicareの適用対象をより幅広くするとしている。
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米食品医薬品局(FDA)は2021年6月7日、エーザイと Biogenが共同で開発するアルツハイマー型認知症治療薬候補ADUHELM(一般名:アデュカヌマブ)について、脳内のアミロイドβプラークを減少させることにより、アルツハイマー病の病理に作用する初めてかつ唯一の治療薬として、迅速承認(accelerated approval)したと発表した。
従来の認知症薬とは異なり、認知機能の低下を長期的に抑制する機能を持つとして世界で初めて承認された。
2021/6/8 エーザイとバイオジェンのアルツハイマー新薬、米で承認
しかし、有効性への疑義などから普及が進んでいない。
米食品医薬品局(FDA)のJanet Woodcock長官代行は2021年7月9日、ADUHELMについてFDAの承認手続きに疑義が生じたとして、米保健福祉省の監査部門に調査を要請したと発表した。
2021/7/12 FDA、アルツハイマー新薬承認手続きにつき調査を要請
Centers for Medicare & Medicaid Servicesは2022年1月11日、ADUHELMや脳内の有害タンパク質、アミロイドを標的とする他のアルツハイマー病治療薬のMedicareの適用を臨床試験に参加している患者に制限する提案を公表した。この決定は暫定的なもので、今後30日間パブリックコメントを募る期間が設けられ、最終決定は4月に下される見込みとされた。
CMSは年間費用が28,200ドルに上るADUHELMを給付対象とする前に、効果に関する追加のエビデンスを求めている。
FDAは2021年6月にベネフィットを確認する追加試験の実施を条件に「迅速承認」制度の下で承認したが、CMS当局者はそのリスクバランスについて異なる見解を示唆し、ランダム化試験の参加者だけに適用を制限するという、最も厳しい基準の1つを採用した。
当局者は、アルツハイマー病患者にとって助けになり得る一方で、副作用をもたらす可能性もあることが徹底的な分析で判明したとし、副作用として考えられる症状には頭痛やめまい、転倒のほか脳出血もあり得るとした。 「われわれの最大の目標は、恩恵が分からない医療介入で生じかねない副作用からメディケア受給者を守ることだ」と述べた。
これを受け、Biogenは「この決定はFDAが承認した治療に対し、特に十分な医療を受けられない患者のアクセスを大きく制限することになる」とコメントした。
今回、CMSはこの案を最終決定した。「現時点で症状改善を示す十分な根拠がない」と理由を説明している。
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エーザイは2022年3月15日、ADUHELMについて、2023年1月以降は共同開発・販売から手を引き、販売額に応じた収入を得る契約に切り替えると発表した。
BiogenはADUHELMに関し、全世界における単独での意思決定権および商業化権を持つ。エーザイは、ADUHELMに関して、ロイヤルティの受領以外に、いかなる経済的権利・義務も有しない。
エーザイは同じく両社で共同開発する次期候補薬BAN2401に経営資源を集中させる。
2022/3/18 エーザイとBiogen、アルツハイマー病治療薬の提携契約を変更
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