アスベスト神奈川第二陣訴訟 和解

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建設現場でのアスベスト(石綿)による健康被害をめぐる神奈川第二陣訴訟で、神奈川県の元労働者ら62人と国の和解が4月8日、最高裁第2小法廷(菅野博之裁判長)で成立した。


建設現場でのアスベスト(石綿)対策を国が怠ったため肺がんや中皮腫になったとして、県内の建設労働者と遺族64人が国と建材メーカー43社に16億9700万円余りの損害賠償を求めた「建設アスベスト神奈川第2陣訴訟」で、横浜地裁は2017年10月24日、原告39
に総額3億円を払うよう、国と建材メーカー2社(ニチアス、ノザワ)に命じる判決を言い渡した。

この控訴審で東京高裁2020年8月28日一審横浜地裁判決を変更、国と新たにエーアンドエーマテリアルを加えたメーカー3社の賠償責任を認め、原告64人に計約9億6千万円の支払いを命じた。

一審横浜地裁判決が労働関係法令で保護対象となる「労働者」に該当しないとしていた、個人事業主「一人親方」に対する国の賠償責任も新たに認定した。


本件の上告を受け、最高裁第二小法廷は2022年2月9日、メーカーに対する原告側の上告を受理しない決定をした。メーカー3社の上告(下記を除く)も却下した。
これにより、2審・東京高裁判決のうち、ニチアス、エーアンドエーマテリアル、ノザワの3社に約4億9000万円の賠償を命じた判断が確定した。

建物の解体作業に従事するなどした原告5人と、メーカー3社のうちエーアンドエーマテリアルとニチアスから意見を聞く弁論を3月28日に開くと決めた。2審では解体従事者らに対する2社の賠償責任を認めており、結論を見直す可能性がある。

この決定は、建材メーカーの責任割合を高い水準で認めた東京高裁判決を最高裁で確定したことに大きな意味がある。

国と原告間の訴訟は継続するが、最高裁が昨年5月に先行訴訟の判決で国の責任を認めたことを受け、各地で順次和解が成立しており、同様に協議が進む見通しであった。

今回、原告と国の和解が成立したもの。

弁護団によると、2021年5月の最高裁判決に基づき、国と原告側が結んだ基本合意に沿ったもので、国が総額約5億2100万円を支払うなどとするもの。

建物の解体作業に従事するなどした原告5人と、メーカーのエーアンドエーマテリアルとニチアスとの訴訟は、同小法廷で6月3日に判決が言い渡される。

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最高裁判所第1小法廷は、2021年5月17日、建設アスベスト訴訟4事件(神奈川第1陣、東京第1陣、京都第1陣、大阪第1陣)において、国及び建材メーカーらの責任を認める判決を言い渡した。

最高裁第一小法廷が担当する4件のうち、横浜分を除く3件は既に判決が出ているが、いずれも理由なしで原告または被告側の上告を却下し、一部の賠償が確定していた。
また高裁判決の一部については判断をせず、その後に弁論を開き、双方の意見を聴取した。

一人親方への責任、メーカーの責任、屋外作業者への責任で、判断が分かれていた。

今回、4件について最高裁としての判断を下したもので、裁判官5人全員一致の意見である。

(国の責任)

国は石綿の吹き付け作業を禁じた1975年10月1日には、肺がんや中皮腫の危険性を認識していたと指摘した。
建設事業者に労働者への防じんマスク着用を義務付けたり、建材に危険物と表示するようメーカーを指導したりすることを怠ったとし、国が石綿使用を原則禁止した2004年9月30日までの29年間を違法と判断した。

(メーカーの責任)

メーカーが警告表示なしに建材を販売し、元労働者らに石綿を吸わせる結果になった点も違法と認定した。

労働者は複数の現場で作業するため、 「複数の企業が個別にどの程度の影響を与えたかは不明」だが、シェアの高いメーカーの製品は現場に届いた可能性が高いなどとして各社の共同不法行為(民法719条1項後段類推適用)を認め、「各社は連帯して損害賠償責任を負う」とした。

下記のシェア上位企業10社を対象とし、メーカーごとの責任の範囲や賠償額については、高裁で審理することを命じた。

エーアンドエーマテリアル、神島化学工業、日鉄ケミカル&マテリアル、大建工業、太平洋セメント、
ニチアス、日東紡績、日本バルカー工業、ノザワ、エム・エム・ケイ

(救済対象)

労働者のほか、労働法令では労働者とみなされない個人事業主の「一人親方」についても、「労働者と同等に保護されるべきだ」として救済対象に含めた。
一人親方を救済しないことは「合理性を欠き、違法」だと結論付けた。

屋内作業者が対象となる。解体工 については国の責任は認めたが、メーカー責任は認めず。
(メーカーの場合、仮に警告表示していたとしても、解体時には警告を認識できないため、被害は回避できない。)

主に屋外で作業していた元労働者への責任は「国やメーカーが危険を認識できたとは言えない」として認めなかった。
屋外作業でのアスベスト濃度について、「規制値を下回っていたとするデータもある」などとして訴えを全面的に退けた。
 
    建材メーカー
対象職種 屋内作業者
解体工
屋外工 


2021/5/19 最高裁、建設アスベスト訴訟で 国と企業の責任認める


これを受け翌5月18日、菅首相は総理官邸で原告団・弁護団と面会して謝罪し、国と建設アスベスト訴訟原告団、建設アスベスト訴訟全国弁護団会議及び建設アスベスト訴訟全国連絡会との間で基本合意書を締結した。

最高裁判決において、労働安全衛生法に基づく規制権限行使が不十分であったことが国家賠償法の適用上違法と判断されたことを厳粛に受け止め、被害者及びその遺族の方々に深くお詫びするとし、以下を取り決めた。

ア 国は、係属中の訴訟について、
 ① 「1975年10月1日から2004年9月30日までの間に屋内作業に従事した者」又は
   「1972年10月1日から1975年9月30日までの間に吹付作業に従事した者」で
 ② 「石綿関連疾患に罹患した者又はその相続人」に対し
 ③ 民法724条所定の期間制限に抵触していない限り
  病気の軽重に応じて一人550万円から最大1300万円の和解金(喫煙等による減額あり)、和解金の10%の弁護士費用、
  長期間の訴訟対応の負担を考慮した解決金総額30億円を支払う。
イ また未提訴の被害者に対しても、国は一人550万円から最大1300万円を支払うとともに、
ウ 今後石綿被害を発生させないための対策や医療体制の確保、被害者に対する補償について、さらに継続的な協議を行うこと

https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000793515.pdf


これ以降、この基本合意書に基づく和解が順次なされている。

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