第一三共の抗がん剤 に米連邦地裁で陪審が「特許侵害」の評決

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第一三共は4月9日、テキサス州東部地区連邦地方裁判所 の陪審が、同社の抗がん剤 ENHERTU ®(トラスツズマブ デルクステカン) Seagen Inc.の米国特許No.10,808,039'039 を侵害しているとの評決を下したと発表した。

本剤は、新規の薬物トポイソメラーゼI 阻害剤を、独自のリンカーを介して、HER2発現がん(乳がん、胃がん、非小細胞肺がん及び大腸がんなど)を対象とする抗HER2抗体に結合させた抗体薬物複合体ADCである。

がん細胞に発現している標的因子に結合する抗体を介して薬物をがん細胞へ直接届けることで、薬物の全身曝露を抑えつつがん細胞への攻撃力を高める。

トポイソメラーゼI 阻害剤は、癌細胞のDNAの2重らせん構造のうち1本を切断し、異常な細胞増殖を抑えることでがん細胞を殺す。


第一三共は2019年に抗がん剤でAstraZenecaと戦略的提携すると発表し た。

両社は日本を除く全世界において、本剤の単剤療法及び併用療法を共同で開発し、商業化する。第一三共は本剤の製造及び供給に責任を持つ。

日本を除く全世界での開発・販売等の費用と利益は両社で折半する。

売上計上は、日本、米国、及び第一三共が拠点を有する欧州及びその他地域の複数国では第一三共が、中国、豪州、カナダ、ロシア及びその他地域ではAstraZenecaが行う。

AstraZenekaは第一三共に下記の対価を支払う。

契約一時金 13.5億米ドル
開発マイルストン達成等で  最大 38億米ドル
販売マイルストン達成で  最大 17.5億米ドル
支払総額 最大 69億米ドル

両社は2019年12月23日、ENHERTU®(トラスツズマブ デルクステカン)について、米国食品医薬品局より「転移性の乳がんに対する治療として2つ以上の抗HER2療法を受けたHER2陽性の手術不能又は転移性乳がん」を適応として販売承認を取得したと発表した。

2019/4/1  第一三共、抗がん剤でAstraZenecaと戦略的提携、最大で69億ドル受領  

両社は本年1月28日、米国食品医薬品局より「トラスツズマブを含む前治療を受けたHER2陽性の局所進行または転移性の胃腺がんまたは胃食道接合部腺がん」を適応として販売承認を取得したと発表した。米国で2つ目の承認となる。


第一三共はこのADCについて、抗HER2抗体とリンカー、ペイロード(トポイソメラーゼI 阻害剤)のすべてを自社技術で構築した。

しかし、米国のSeagen Inc(旧称 Seattle Genetics, Inc.)が第一三共のADC技術が、同社の保有する米国'039 許」に抵触するとして、2020年10月にテキサス州東部地区連邦地方裁判所に提訴した。

第一三共は、2008年7月からSeattle Genetics, Inc.抗体薬物複合体(「ADC」)の共同研究を実施したが、新薬開発の成果がでないとして2015年6月に関係を解消していた。

2019年にSeattle Geneticsから第一三共のADC品に関する特定の知的財産権の帰属を主張して異議の通知をうけた。しかし、ADCの共同研究は現在の第一三共のADC品とは全く異なるため、同社の主張は根拠がないと考えており、デラウェア州連邦地方裁判所に同社を被告として確認訴訟を提起した経緯がある。

これを受け、第一三共は2020年12月に'039特許 そのものが無効であるとして米国特許商標庁に特許付与後レビュー(Post Grant Review:PGR)の開始を請求 、米国特許商標庁は'039 特許の有効性を審査するため、本年4月7日にPGRの開始を決定した。

今回、陪審員は'039特許の故意侵害があったと認定、陪審審理に至るまでの期間のSeagen社の損害額が41,820千ドルであると判断した。

Seagen社は2024年の'039特許の期間満了までの売上に対するロイヤリティ支払い命令を出すよう、裁判所に求めている。

裁判所は現在のところ、懲罰賠償やロイヤリティ支払いについて判断していない。

第一三共では、今回の陪審評決に承服できないとして、PGRの手続きに加え、陪審評決について陪審審理後の申し立てや控訴を含むあらゆる選択肢を検討するとしている。

Seagen側は別途、第一三共に対し、第一三共が使用する技術の所有権に関し、調停に持ち込んでいるとしている。第一三共の製品のリンカーや他のADC技術がSeagen社のADC技術の改良であり、2008年の両社の提携契約で所有権は自動的にSeagenに帰属するとしている。

但し、第一三共は調停については触れていない。

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