東京大学の研究チームはこのたび、海洋生物からヒントを得て、超強力 な水中接着剤の開発に成功したと発表した。
一般的な接着剤は、被着体表面の水和水が接着剤と被着体間の相互作用を阻害するため、水中で接着強度が大幅に低下する。
東京大学大学院工学系研究科の江島広貴准教授らのグループは海洋生物の接着機構にヒントを得て、水中でも接着強度10 MPaを超える、超高強度水中接着剤の開発に成功した。
本接着剤は湿潤環境下においても高い接着強度を発揮できるため、手術用接着剤などへの応用が期待される。
4月13日に英国科学雑誌「Nature Communications」のオンライン版に掲載された。
沿岸土木工事、船舶、歯科、外科手術などの分野において多くのニーズがあるが、 上記の通り、水中接着は技術的困難が伴う。
しかし、海洋生物では、例えば、ムラサキイガイは海岸で岩に固着して生息しているが、水中接着タンパク質を長い進化の過程で獲得してきた。この接着原因タンパク質として、DOPAを多量に含むタンパク質ファミリーが同定されている。
これをヒントに、2017年に米国の研究者により、ポリスチレン骨格に2個の水酸基を導入すると優れた水中接着剤(接着強度 3 MPa)になることが報告され、2020年には3個の水酸基を導入することで4 MPaの水中接着強度を達成した。
今回、研究チームは、さらに多くのフェノール性水酸基(4個および5個)を導入した高分子を合成することに世界で初めて成功し、10 MPa(メガパスカル)以上の水中接着強度を達成した。
フェノール性水酸基数が増えるほど基材表面への吸着に有利になることが示唆された。 一方で、水中接着剤は疎水的であることが必要だが、フェノール性水酸基数が増えると高分子鎖はより親水的になる。
今回、一つのスチレンユニット上に4個および5個という多数のフェノール性水酸基をもつモノマーを新たに設計・合成し、疎水性モノマーと共重合することで、疎水性を損うことなく、これまでより多数のフェノール性水酸基を高分子鎖上に導入することに成功した。
本接着剤は手術用接着剤などへの応用が期待される。
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