Bayerは2021年8月16日、同社の子会社Monsantoのグリホサート系除草剤「ラウンドアップ」が原因でがんになったと訴えた顧客への損害賠償を支持した米控訴裁判決を不服として、米最高裁に上告した。
最高裁は12月13日、政権に対し、最高裁が本件を取り上げるべきかどうかについての意見を求めた。
本件は連邦法を無視した州法に基づく判決であり、政権は当然、取り上げるべきだと返事すると思われた。
しかし、政権は5月10日、Bayerによる上告を拒否するよう求めた。
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Bayerが最高裁に上訴したのは下記のEdwin Hardeman訴訟である。
原告Edwin Hardemanは1980年から2012年にかけ、カリフォルニア州北部Sonoma郡の自宅でラウンドアップを定期的に使用。その後、がんの一種である非ホジキンリンパ腫と診断された。
米カリフォルニア州地方裁判所の陪審は2019年3月19日、「Roundup」ががんを発生させた「事実上の要因」だったとの評決を下した。
問題は、除草剤ラウンドアップの発癌性について、連邦法(FIFRA=Federal Insecticide, Fungicide, and Rodenticide Act )とカリフォルニア州法で意見が異なることから生じた。
(連邦法)米国で農薬承認を行うEPAは発癌性はないとしている。このため、ラベル(使用法等を記載)には「発癌性の危険」の表示はなく、仮に表示すれば違法となる。
(州法)カリフォルニア州はラウンドアップを発癌性製品のリストに含めており、その場合、「発癌性の危険」が表示されていないのは違法となる。
原告側弁護士は、連邦法ではなく、州法を基に訴訟を起こした。
陪審員は、除草剤Roundupのラベルには発癌の危険が示されていないため違法であるとして有罪とし、一審の裁判官も、控訴裁の裁判官もこれを認めた。
サンフランシスコの地裁判事は2019年7月16日、「除草剤Roundupのラベルには発癌の危険が示されておらず欠陥である」との陪審員の判断については否定せず、有罪にした。
被害に対しては527万ドルを認めたが、裁判官は懲罰的賠償は高すぎるとして20百万ドルに大幅に減額した。被害に対して15倍もというのは憲法から認められないとした。
原告 陪審員 裁判官判断 Edwin Hardeman カリフォルニア 2019/3/27 地裁 2019/7/16 損害賠償 527万ドル 527万ドル 懲罰的損害賠償 75百万ドル 20百万ドル
被害に対して15倍もというのは違憲
Bayerは2019年12月13日に本件で「重大なエラー」があり、裁判をすべきでなかったと主張し、控訴した。問題は、「除草剤Roundupのラベルには発癌の危険が示されておらず欠陥である」との陪審員の判断である。
米EPAと司法省は2019年12月20日、Friend of the court brief (=amicus curiae:個別事件の法律問題で第三者が裁判所に提出する情報または意見)を提出した。
このなかでEPAは、EPAはRoundupのラベルを調べ承認したこと、Roundupには発癌性はなく、このため、発癌性の危険を表示する必要性はないとした。判決は覆すべきであるとしている。
EPAは発癌性を認めず、製品ラベルには当然、発癌性の危険は表示されていない。しかし、カリフォルニア州は発癌性製品のリストに含めており、発癌性の危険が表示されていないのは違法となる。
EPAと司法省は、ラベルは法律で認めたもので、それと異なるやり方での使用は法律違反であるとし、州は農薬の販売や使用を制限することは出来るが、国が承認したラベルと異なるもの、追加したものを求めることは出来ないとしている。2019/12/26 米EPAと司法省、除草剤Roundupの発癌被害裁判でBayer側支持の意見書
しかし、控訴裁の合衆国第9巡回区控訴裁判所は2021年5月14日、サンフランシスコ地裁の判断を認めた。
これを受け、Bayerは2021年8月16日に最高裁に上告した。
2021/8/21 Bayer、除草剤ラウンドアップ訴訟で最高裁に上告
Bayerは、最高裁で不利な判決が出た場合に備え、45億ドルの追加引当金を計上し、和解金や訴訟費用として引き当て済みの116億ドルに上積みした。
最高裁は政府に対し、最高裁が本件を取り上げるべきかどうかについての意見を求めたが、今回、政府を代表して訟務長官(Solicitor General Prelogar )はBayerの上告を拒否するよう最高裁に求めた。
訟務長官は、「FIFRAでのEPAラベル承認」が州法が求める「警告がなかった」ということに優先するというBayerの主張を拒否するよう求めた。「EPAが特定の疾病リスクを警告しないラベルを承認したこと自体は、州法がそのような警告をすることを求めることに優先するものではない」とした。
これは上記の2019年のEPAと司法省の意見書(Friend of the court brief)と矛盾する。
意見書では、「州は農薬の販売や使用を制限することは出来るが、国が承認したラベルと異なるもの、追加したものを求めることは出来ない」としており、Bayerが州法に基づいて「発癌性のリスク」をラベルに表示すれば違法となる。
今回は、EPAの承認ラベルに「発癌性のリスク」が書かれていなくとも、州法が求めた場合は従うべきだとしている。
政府内部でどのような議論があったか不明だが、EPAと司法省の考え方は問題を含んでいる。発癌性の有無は確定した事実でなく、EPAの見解に過ぎない。州の見解に基づき「リスクがある」と書くことまでを拒否するのは行き過ぎかも知れない。
Bayerは、最高裁がこの上告を取り上げる「強い法的根拠」があると信じていると述べた。
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