ウクライナ問題と食料危機

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欧州委員会のUrsula von der Leyen委員長は5月24日、ロシアはエネルギー供給と同様に食料供給を「武器」として利用していると 述べ、ロシア軍による海上封鎖でウクライナから輸出できなくなっている小麦の輸送を可能にするよう、ロシアとの協議を呼びかけた。

委員長は世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)で「ロシア軍はクライナで穀物や機械を没収しているほか、黒海ではロシア軍の艦船が小麦やヒマワリの種を積載したウクライナの船舶の航行を阻んでいる」と指摘 、世界的な協力こそが「ロシアの脅迫に対する解毒剤」になると述べた。

委員長はその後のインタビューで、「黒海の封鎖解除が最重要」とし、ウクライナのサイロに滞留している2,000万トンの小麦の輸出を可能にし、間近に迫っている食料危機を回避するためにロシアとの協議が必要と指摘し、「ロシアのせいで世界の人々が飢餓で死んでいくことはロシアの国益にかなわない」とし、食料輸出の「回廊」を設定するなどの解決策を模索する必要があると述べた。

ウクライナ政府によると、ウクライナは2021年に小麦20百万トン、とうもろこし24.6百万トンを輸出したが、ほとんどすべてが海路であった。貨車やトラックでの輸出はこのような大量輸出には向かず、倉庫や輸出関連施設は全てオデッサ周辺の港にある。

ロシアについては経済制裁の影響で海外との取引がしにくくなり、輸出量が減る可能性が指摘されている。欧米からの経済制裁や黒海沿岸の保険コストの上昇で海上輸出が止まった状態にある。

ロシア政府は、制裁の一部を解除する見返りとして、食料を積んだ船がウクライナを出港するための人道回廊を提供する用意があると明らかにした。ルデンコ外務次官は「食料問題の解決にロシアの輸出や金融取引に科せられている制裁の解除を含め、包括的なアプローチが必要であることは繰り返し述べてきた」と語った。

プーチン大統領は5月28日、仏独首脳と電話会談し、ウクライナが黒海の港から穀物輸出を再開できる方法を議論する用意があると述べた。また、ロシアへの制裁が解除されればロシアは肥料や農産物の輸出を増やす用意があると伝えた。

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ウクライナは 「ヨーロッパの穀倉」といわれ、国土の約7割を農用地が占める。

西の国境付近を除き緩やかな丘陵地で、チェルノーゼムと呼ばれる肥沃な黒土が広がる。第2次大戦中、侵攻してきたナチスが土を貨車で運び出した。

国連のFAOは農業市場におけるロシアとウクライナの重要性について報告をまとめている。

The importance of Ukraine and the Russian Federation for global agricultural markets and the risks associated with the current conflict


1) ウクライナとロシアの生産


2) 輸出量(2021年) 万トン

ロシア ウクライナ
小麦 3,292 2,005
大麦 516 561
とうもろこし 414 2,468
ひまわり油 311 514


3) 価格上昇


4) ウクライナの農業カレンダー

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なお、農作物の肥料に使われるカリウムの世界的な供給ではロシアとベラルーシが合計で35%を占めている。

世界のカリウム生産量(2020年:万トン) source: USGS

カナダ 138 31%
ロシア 81 18%
ベラルーシ 74 17%
中国 60 14%
その他 87 20%
合計 440 100%

2021年に米国とEUがベラルーシに対する経済制裁を発動したため、ベラルーシ産のカリウム肥料の輸出が滞り、国際価格の上昇が始まった。
そこに追い打ちをかけたのがロシアのウクライナ侵攻である。

中国データでは、4月の時点で輸入カリウム肥料の港渡し価格は1年前の2倍に上昇している。

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