米最高裁、Bayerの除草剤問題での上訴を審議せず

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Bayerは2021年8月16日、同社の子会社Monsantoのグリホサート系除草剤「ラウンドアップ」が原因でがんになったと訴えた顧客への損害賠償を支持した米控訴裁判決(Edwin Hardeman訴訟)を不服として、米最高裁に上訴した。

米最高裁は6月13日、上訴案件のうち審議する対象案件を発表したが、本件は含まれていなかった。却下された。


これまでに多くの訴訟があり、かなりの部分が和解しているが、裁判で同社が敗訴になったのは下記の3件である。

原告   陪審員 裁判官判断
1 校庭の管理人   カリフォルニア 2018/8/10 Superior Court 2018/10/23
損害賠償 39百万ドル 39百万ドル
懲罰的損害賠償 250百万ドル 39百万ドル
2 Edwin Hardeman   カリフォルニア 2019/3/27 地裁 2019/7/16
損害賠償 527万ドル 527万ドル
懲罰的損害賠償 75百万ドル 20百万ドル
被害に対して15倍もというのは違憲
3 Pilliod 夫妻   カリフォルニア 2019/5/13 Superior Court 2019/7/25
損害賠償 55百万ドル 17 百万ドル
懲罰的賠償 20億ドル 69百万ドル 
陪審の懲罰的賠償は過大で憲法違反


2019/7/27 モンサントの除草剤 Roundup による発癌被害裁判、裁判官が陪審の懲罰的賠償を大幅減額 


Bayerが上訴したのは、このうちの
Edwin Hardemanの件である。
除草剤ラウンドアップの発癌性について、連邦法(FIFRA=Federal Insecticide, Fungicide, and Rodenticide Act )とカリフォルニア州法で意見が異なることから生じたもので、最高裁の判断を求めた。

(連邦法)米国で農薬承認を行うEPAは発癌性はないとしている。このため、ラベル(使用法等を記載)には「発癌性の危険」の表示はなく、仮に表示すれば違法となる。

(州法)カリフォルニア州はラウンドアップを発癌性製品のリストに含めており、その場合、「発癌性の危険」が表示されていないのは違法となる。

原告側弁護士は、連邦法ではなく、州法を基に訴訟を起こした。陪審員は、除草剤Roundupのラベルには発癌の危険が示されていないため違法であるとして有罪とし、一審の裁判官も、控訴裁の裁判官もこれを認めた。

米EPAと司法省は2019年12月20日、Friend of the court brief (=amicus curiae:個別事件の法律問題で第三者が裁判所に提出する情報または意見)を提出した。

このなかでEPAは、EPAはRoundupのラベルを調べ承認したこと、Roundupには発癌性はなく、このため、発癌性の危険を表示する必要性はないとした。判決は覆すべきであるとしている。

EPAは発癌性を認めず、製品ラベルには当然、発癌性の危険は表示されていない。しかし、カリフォルニア州は発癌性製品のリストに含めており、発癌性の危険が表示されていないのは違法となる。

EPAと司法省は、ラベルは法律で認めたもので、それと異なるやり方での使用は法律違反であるとし、州は農薬の販売や使用を制限することは出来るが、国が承認したラベルと異なるもの、追加したものを求めることは出来ないとしている。

2019/12/26 米EPAと司法省、除草剤Roundupの発癌被害裁判でBayer側支持の意見書 

最高裁は2021年12月13日、政権に対し、最高裁が本件を取り上げるべきかどうかについての意見を求めた。

2021/8/21 Bayer、除草剤ラウンドアップ訴訟で最高裁に上告

これに対し政権は2022年5月10日、Bayerによる上告を拒否するよう求めた。

訟務長官は、「FIFRAでのEPAラベル承認」が州法が求める「警告がなかった」ということに優先するというBayerの主張を拒否するよう求めた。「EPAが特定の疾病リスクを警告しないラベルを承認したこと自体は、州法がそのような警告をすることを求めることに優先するものではない」とした。

これまでのEPA、司法省の主張(トランプ大統領時代のもの)と真逆である。

EPAが発癌性を認めていないことは発癌性がないことを示している訳ではなく、「発癌性のおそれ」をラベルに書くことが違法であるというのは、無理があり、この回答は妥当である。

2022/5/13 バイデン政権、Bayerによる除草剤ラウンドアップ訴訟での最高裁上告に反対

今回最高裁は訟務長官の説明をそのまま受け入れたと思われる。

なお、Bayerはその後の4つの裁判で全て勝訴している。

1.2021/10 ロスアンジェルス地裁

原告 Destiny Clarkは住居の雑草処理にRoundupをスプレイしたが、息子がバーキットリンパ腫にかかったとしてMonsantoを訴えた。

陪審員は病気は除草剤が主な原因ではないとして訴えを退けた。

2.2021/12 カリフォルニア州San Bernardino County 地裁

原告Donnetta Stephens は、庭でRoundup を30年以上使用してきたが、2017年に非ホジキンリンパ腫に罹った。ラベルには発癌性の警告は書かれていない。癌は寛解期にあるが、複数回の化学療法の結果、記憶喪失に苦しんでいる。

裁判はコロナのため、ZOOMを使って行われたが、陪審員はRoundupが病気の原因でないと判断した。

3.  2022/6 ミズーリ州 Kansas City地裁

Allan Shelton が癌になったとして訴えた裁判で、Bayerが勝利

4. 2022/6/17 オレゴン州Jackson Countyの巡回裁判所

Bayerが4回連続で勝訴

ーーー

Bayerは2021年5月にグリホサート系除草剤「ラウンドアップ」の訴訟問題に関し、5つの進め方を明らかにし ている。

1) 連邦最高裁のルーリングを求める。

 8月16日に連邦最高裁に上訴した。

2) 将来の訴訟対策

 最高裁の判断が不利なものである場合のため、追加で45億ドルを引当てる。

3) 和解

 138千件のうち既に107千件を解決したが、残り31千件については最高裁が審理を決めた場合、その結果を待つ。

4) 家庭用・農園用(Lawn & Garden)農薬の新処方

 「ラウンドアップ」以外の有効成分の新処方の発売

 訴訟の大半はこの用途でのもので、処方変更で訴訟を減らす。

5) 「ラウンドアップ」の安全性を説明するWeb EPA's Review of Glyphosate Safety を新設


今回の最高裁の決定を受け、和解を進めると思われる。

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