英政府は6月13日、2019年に欧州連合(EU)と交わしたEU離脱後の通商協定の「北アイルランド議定書」を破棄する計画を発表した。
国益を守るために「ほかに道がない」としている。今回の「北アイルランド議定書法案」は今後、英議会で審議・採決される。
これに対しEUは、協定の一方的な破棄は国際法に違反するとして、英の動きに反対している。
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英は2021年1月にEUを離脱、北アイルランドとアイルランド間の貿易に関しては、2019年に英とEU間で交わされた「北アイルランド議定書」が発効した。この議定書では、北アイルランドとEU間の通商に支障が出ないよう、税関など国境管理措置を設けないと定められているが、これにより、北アイルランドと残りの英との間にEU法にのっとった税関が必要になっていた。
現在、議定書にのっとって検査や規制が行われており、北アイルランドへ物品を輸入している企業は、追加コストや手続きの煩雑さといった問題に直面している。特に規制の厳しい食品や園芸といった分野で苦労が多いという。
一方で北アイルランドからアイルランドへの輸出では、EU市場への摩擦のないアクセスが維持されているため、食品を含む輸出業者は恩恵を受けている。
英政府は2021年7月21日、北アイルランドで起きている物流などの混乱をおさめるため、英領北アイルランドでの通商ルールについてEUに再交渉を求めると発表したが、EUは再交渉に応じなかった。
2021/7/24 英、EU離脱ルール再交渉を要求、EUは拒否
今回の英国案では、英本土から北アイルランドに入る貨物の扱いについて、次のように改定する。
北アイルランドにそのまま留まる貨物はグルーンレーンを使い、チェック無し、書類も簡単。
北アイルランドを通ってアイルランドや他のEU諸国に運ばれるものはレッドレーンを使い、北アイルランド港湾でチェックを受ける。
物品検査に関する「不必要な」事務処理をなくし、北アイルランドの企業が英の他の地域の企業と同様の税制優遇措置を受けられるようにする。
また、あらゆる貿易紛争を欧州司法裁判所(ECJ)ではなく、「独立した仲裁」によって解決する。
- green and red channels to remove unnecessary costs and paperwork for businesses trading within the UK, while ensuring full checks are done for goods entering the EU
- businesses to have the choice of placing goods on the market in Northern Ireland according to either UK or EU goods rules, to ensure that Northern Ireland consumers are not prevented from buying UK standard goods, including as UK and EU regulations diverge over time
- ensure Northern Ireland can benefit from the same tax breaks and spending policies as the rest of the UK, including VAT cuts on energy-saving materials and Covid recovery loans
- normalise governance arrangements so that disputes are resolved by independent arbitration and not by the European Court of Justice
英政府は、国際法における「必要性」という言葉は、「国家が本質的な利益を守るために、他の国際的な義務を不履行にする(あるいは破る)しかない」という状況を正当化するために使われる、とし、現状はその状況に当たるとしている。また、今回の計画は他国の利益を「深刻に損なう」ものではないとしている。
また、北アイルランド議定書の16条で、議定書の適用によって経済的・社会的・環境的に深刻な問題が生じ、その結果として貿易が制限される場合、いずれかの側が保護措置を講じることができると定めているとする。
北アイルランドの平和維持のために結ばれた「ベルファスト合意」を保護し、北アイルランドと残りの英の経済的・社会的つながりを保全することが、英の「本質的な利益」であるが、議定書の問題が、先に総選挙のあった北アイルランドでの政権樹立の「障壁になっている」としている。
5月5日投票の英領北アイルランド議会選、隣国のアイルランドとの統一を訴えるシン・フェイン党が全90議席中27議席を獲得し、史上初めて第1党となった。改選前の第1党で親英派の民主統一党(DUP)は25議席にとどまった。
議会第一党の座を失ったDUPは、議定書が修正されるまでは、シンフェイン党が率いる合同政府に参加しない意向を表明しており、政権発足の目途が立たない状況にある。
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