米Illuminaの元子会社Grail 買収に関する欧米での独禁法問題

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米Illuminaは、遺伝子変異や遺伝子機能の大規模解析のためのライフサイエンスツールや統合システムの開発、製造、販売を手がけるリーディングカンパニーで、シーケンサー(遺伝子配列解析装置)で世界最大規模のシェアを誇る。

米Grailは早期がんの検出技術を開発する新興企業で、2016年にIlluminaから分離・独立した。Amazon創業者のJeff Bezosなど有力者が出資していることでも知られる。

Illuminaは2020年9月、Grail を再び傘下に収めることを決め、71億ドル(約7800億円)で買収すると発表した。

米連邦取引委員会(FTC)は2021年3月30日、IlluminaによるGrail 買収計画を巡り、差し止めを求める訴訟を首都ワシントンの連邦地裁に起こした。

GrailはIlluminaから解析装置を購入する関係にあり、競合はしておらず、「垂直統合」と呼ばれるM&Aである。競合しない企業同士の統合について、米当局が「もの言い」をつけるのは珍しく、バイデン米政権の競争政策を映す動きとして注目を集めた。

FTCは、今回の買収が早期がん検出サービスの技術革新を停滞させると主張した。
がん検出技術を開発する企業は、遺伝子解析装置の購入先として最大手 Illumina以外の選択肢が乏しく、IlluminaがGrailのライバル会社に対して、装置を高く売りつけ、研究開発を阻害する可能性があると指摘した。

Illuminaは「FTCによる買収差し止めの動きは、長年の反トラスト法執行実務からかけ離れている」と主張、買収計画の遂行に向けて裁判で争う姿勢を示した。

2021/4/8 米FTC、Illumina によるGRAIL買収に異議  

Illuminaは2021年8月18日、GRAILの買収を完了したと発表した。ただし、米連邦取引委員会(FTC)や欧州委員会(EC)の独禁法審査が終わっておらず、それまでは、独立した別会社のままにするとした。

米国では現在、F.T.C. administrative judge(行政法判事)が審理中だが、FTC勝利はほぼ確実である。その場合、Illuminaは連邦控訴審に控訴することになる。

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欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会は7月19日、IlluminaによるGrail 買収をめぐり、EU競争法違反の疑いがあると警告する「異議告知書」を両社に送付したと発表した。

欧州委は2021年7月から独禁法の調査を開始したが、調査終了前の2021年8月に買収を完了した。

Illuminaは、Grailは欧州での売上高がないため、欧州委員会には調査する権限はないとして訴えていたが、EUの General Courtは本年7月13日にこれを棄却した。Illuminaはこれを不満とし、控訴すると発表した。

欧州委員会は、委員会による独占禁止法の調査終了前に買収を完了し、市場競争がゆがめられたとの見解を示した。

両社には今後、異議告知書に対する反論の機会が与えられる。その上で欧州委が最終的に違反を認定すれば、両社に年間売上高の最大10%を罰金として科すことになる。


付記

F.T.C. administrative judge(行政法判事)は9月1日、買収は競争を阻害しないとし判断した。

FTCのルールでは、この決定は Federal Trade Commissionでレビュー可能で、スタッフは手続きを行った。

他方、EUは9月6日、IlluminaによるGrail 買収を禁止した。

買収は技術革新を抑制し、血液ベースの早期がん検出検査の新興市場での選択肢を減らすとし、Illuminaは、これらの懸念に対処するのに十分な救済策を提供しなかったとしている。

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