岸田首相は7月14日の官邸での記者会見で、原子力発電所を今冬に最大で9基稼働すると表明した。国内消費電力のおよそ1割に相当する電力を確保する。
火力発電の供給能力も10基増やす。電気代負担を実質的に軽減する新枠組みも打ち出し、電力不足解消へ政策総動員で臨む。
エネルギー対策と物価高対策
この冬で言えば、最大9基の原発稼働を進め、日本全体の電力消費量の約1割に相当する分を確保するとともに、ピーク時に余裕を持って安定供給を実現できる水準を目指し、火力発電の供給能力を追加的に10基を目指して確保するよう指示した。過去3年間と比べ、最大の供給力確保を実現できる。
岸田首相は原発だけでなく、経産相に「火力発電の供給能力を追加的に10基確保するよう指示した」とも述べた。
報道各社から質問を受け、経産省担当者は「10基ではなく、10基分の供給力の確保。6月末に方針を決めた」と述べた。
火力発電の供給力は、2016年度以降、設備の休廃止により大きく減少、2022年度は1.1億kW余りと最も低くなっている。
経産省は6月30日、冬を見据えて有識者が話し合う総合資源エネルギー調査会電力・ガス基本政策小委員会で、火力発電のたき増しや老朽化で停止した発電所の再稼働を求める方針を決定、7月末にも発電所を持つ会社に、東日本で170万㌗、西日本で190万㌗分の供給力を募る。
東京電力と中部電力が出資する火力発電会社「JERA」は7~8月、懸念される電力不足に対応するため、老朽化して休止中だった姉崎火力5号機(出力60万キロワット)と、知多火力5号機(同70万キロワット)2基を臨時で再稼働する。電力需給は一定の余裕が生まれるが、政府は状況はなお厳しいとして節電を呼びかけている。
日本の原発の状況は下記の通り。
再稼働が認められたのは10基ある。
但し、「特定重大事故等対処施設」問題がある。
原子力規制委員会は2019年4月24日の定例会合で、原発に設置が義務付けられているテロ対策施設が期限内に完成しない場合、期限の延長を認めないことを決めた。原則として原発の運転停止を命じる。
テロ対策施設は「特定重大事故等対処施設」と呼ばれ、2011年の福島第一原発事故後にできた新規制基準で設置が義務付けられた。
原子炉から離れた場所に建て、遠隔制御で原子炉を冷やす設備を備える。原子炉が航空機の衝突などによる攻撃を受けても、電源や冷却機能などを失わないようにする。2019/4/25 テロ対策施設未完成の原発、運転停止へ
このため、工事が期限までに完了しない原発については、工事完了まで停止することとなる.
現在、美浜3号はこの工事のため2021年10月から停止している。(7月下旬に完成、8/12に稼働)
大飯3号は稼働中だが、8月24日に期限が来るため停止、12月に運転再開。
大飯4号は定検で停止中で、8月24日に期限が来るが、その前に工事が完了、8月中旬に運転再開。玄海3号は定検で停止中で、8月24日に期限が来て停止継続、2023年1月20日に運転再開予定。
玄海4号は定検停止していたが、7月10日に再開、8月上旬に通常運転する。しかし、9月13日に期限が来て停止、2023年2月中旬に運転再開予定。今冬には間に合わないとして首相構想から唯一除外。
このほかに定期検査のための休止がある。
高浜3号、4号は定検休止中で、8月と12月に運転再開する。
大飯4号は定検休止中。特定重大事故等対策の期限が8月24日だが、恐らく直前に同工事と定検が終了し、8月中旬から運転再開。
以上により、年末~年初に10基のうち9基が稼働する。
岸田首相の「最大9基」はすでに原子力規制委員会の審査に合格して再稼働済みの西日本の10基のうち、検査のため運転を停止する九州電力玄海4号機を除く9基である。
原発9基態勢となるのは今のところ、23年1月下旬~2月中旬の1カ月程度に過ぎず、それ以外の期間は7~8基の稼働にとどまる。
2023年2月には残る玄海4号が運転再開するが、同月には伊方4号、川内1号が定検に入る。
現在 | 運転 再開 |
特定重大事故等対策 | 運転再開 | 2023/2までの稼働期間 | 次期定検 | 政府案 | |||||
完了済 | 期限 停止 |
完了 | |||||||||
関電 | 高浜 | 3号 | 定検 | 8月 | v | 8月~ | 〇 | ||||
4号 | 定検 | 10/21 | v | 10/21~ | 〇 | ||||||
美浜 | 3号 | 特定 | 2021/10 | 7月下旬 | 10/20→8/12 繰り上げ |
8/12~ | 〇 | ||||
大飯 | 3号 | 〇 | 8/24 | 12月 | 12月~ | 〇 | |||||
4号 | 定検 | 8月 | (8/24) | 8月 | 8月中旬 | 8月中旬~ | 〇 | ||||
四国 | 伊方 | 3号 | 〇 | v | ~2023/2/23 | 2023/2/23 | 〇 | ||||
九州 | 玄海 | 3号 | 定検 特定 |
8/24 | 2023/1/20 | 2023/1/20~ | 〇 | ||||
4号 | 定検 | 8月 | 9/13 | 2023/2 |
---- |
x | |||||
川内 | 1号 | 〇 | v | 2月中旬まで | 2023/2月中旬 | 〇 | |||||
2号 | 〇 | v | 通期 | 2023/5 | 〇 | ||||||
合計 | 10基 | 4基 | 9基 |
注 5基稼働中との報道があるが、定検からの立ち上げ中で通常運転前の玄海4号を含めたもの。
ーーー
稼働が認められた上記10基のほか、新規制基準への適合性を認めた原子炉設置変更許可を受けたものが7基ある。
(従来の安全基準を強化して新たな規制基準が施行されたが、原子力施設等が新規制基準に係る適合性の審査に合格したもの)
東北電力女川2号(BWR:沸騰水型)
東電柏崎 6号、7号
日本原子力東海2号
関電高浜 1号、2号
中国電力島根2号(BWR)
設置変更許可は再稼働に向けた節目の一つだが、再稼働するには後段規制の設工認や保安規定変更認可、使用前確認もクリアしなければならない。安全対策工事の完了や地元同意も必要となる。
原子力規制委員会は2021年4月14日、柏崎刈羽原発のテロ対策の不備を問題視し、原発再稼働に必要な核燃料の移動や装塡を禁じる行政処分の是正措置命令を決定した。事態が改善されたと判断されるまでは再稼働ができない状態が続くことにな る。
2021/3/29 柏崎刈羽原発の再稼働、見通しつかず
コメントする