バイデン米大統領は7月25日、経済安全保障の観点から半導体の国内生産を補助金で後押しする超党派の法案について、「議会は一刻も早く通過させなければならない」と述べた。大統領は半導体供給に関するオンライン会合を開き、「米国は半導体で世界をリードする必要がある」と強調、巨額補助金をつぎ込んで国産半導体の育成を加速させる中国に対抗する構えを見せた。
今週にも上院で法案を通し、下院でも同じ法案を通して成立する可能性がある。
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米議会下院は1月25日、中国に対抗するため先端技術の競争力向上をめざす包括法案The America COMPETES Act of 2022 を公表した。
上院は2021年6月8日に同様の法案 United States Innovation and Competition Act を異例の超党派で可決している。しかし、この法案は「中国対抗法案」との位置づけで、新興技術の研究開発や台湾の支援強化など様々な条項を盛り込んだため、下院との法案すり合わせに時間がかかっ ていた。
米政府は半導体業界へ計520億ドルの補助金を拠出する方針で、Samsung は補助金支給条件などを確認した上で、新工場建設を決定したという。Intelも補助金を前提にしている。
今回、与党・民主党の議会指導部が公表したAmerica COMPETES Act では、2022会計年度(21年10月~22年9月)から5年間で上院と同じ計520億ドルの補助金を出す。うち390億ドルは新設設備に直接供与される。
台湾積体電路製造(TSMC)のアリゾナ州の120億ドルの設備、Intel のオハイオ州の200億ドルの設備など、これの対象となる新設備はこれを前提に既に着工されている。
法案には、サプライチェーン(供給網)を強化するために450億ドルをあてる条項も盛った。ハイテク製品や医療品などの生産の国内回帰を促すほか、備蓄を増やす。先端技術の研究開発で政府の支援を増やす。
途上国向けの温暖化対策基金や、太陽光関連に投じる資金が盛り込まれた。
2022/2/1 米下院、半導体補助金法案を公表
下院は2月4日、America COMPETES Act を賛成222、反対210で通した。ほぼ党派通りで、民主党から1人だけ反対、共和党から1人だけ賛成した。
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今回下院で通った法案と昨年の上院の法案とは、半導体業界への520億ドルの補助金は同じだが、異なる点が多い。
バイデン政権は11月の中間選挙を控え、インフレ対策で成果を急いでいる。半導体不足で生産が止まった自動車が値上がりした。政府高官は、 夏季休暇入りの前に補助金を実現させるよう与野党の議会指導部に促してきた。
米インテルは6月、補助金の支給が遅れていることを理由に、中西部オハイオ州で7月に予定していた新工場の起工式を延期すると表明した。法案の成立がこれ以上遅れれば「世界の投資合戦で米国が後れを取る。台湾に調達を依存するリスクが続く」との危機感がバイデン政権や与野党で高まった。当初案から縮小された内容でも国家安全保障の観点から可決を急ぐ必要があるとした。
これを受け、共和党の上院上層部は、これまでの法案から米半導体業界に520億ドル強の補助金・奨励金を交付する件に限った法案(通称 半導体法:Chips Act)の審議入りを決めた。
上院(定数100)は7月19日、64対34の賛成多数で半導体法案の採決に進む方針を決めた。与党・民主党に加えて、野党・共和党から16人が賛成に回った。 民主系無所属のSanders議員は反対した。
共和党 民主党 民主系 合計 無所属 賛成 16 47 1 64
反対 33 1 34
棄権 1 1 2
合計 50 48 2 100
7月25日の週に上院で可決し、それを受けて下院も同法案を可決する見通し。上院の法案可決には60票が必要になる。
法案の細部はなお与野党で検討中で、草案には、米国内に製造施設を建設する半導体企業への520億ドルの資金支援や半導体・半導体製造装置メーカーへの4年間 25%の投資税額控除などが盛り込まれている。
補助金の支給条件をどう定めるかが焦点で、議会は、補助金を受け取った企業の対中投資を禁じる方向で議論しているが、企業側は経営の自由度を縛られるため反対している。
高速通信機器の開発や科学研究を政府が支援する条項も加えられる可能性がある。
逆に、米国の半導体企業の中には、このままのCHIPS法ではIntelなどのメーカーにしか支援が行き届かないとして反対しているところもある。
半導体メーカーはCHIPS法で補助金、FABS法(Facilitating American-Built Semiconductors Act)で製造装置購入のための投資税額控除の両方の恩恵を受けるが、AMD、NVIDIA、QualcommなどIntelと競合するファブレス半導体メーカーは、半導体を製造していないため補助金の対象にはならない。
法案成立は簡単ではない。
当初の中心であった 対中法案は成立のメドが立たなくなっていた。民主党が下院の法案に気候変動や格差是正など中国とは直接関係ない条項を取り入れ、共和党が反発した。対中投資規制や貿易の条項でも与野党で意見が分かれた。
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