政府 原発7基 再稼働目指す、次世代の原子炉開発検討

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政府は8月24日の脱炭素社会の実現に向けた「グリーントランスフォーメーション実行会議」で、電力の需給がひっ迫する状況やエネルギー安全保障に対応するため、来年の夏以降、原発7基の再稼働を追加で目指す方針を確認した。また、安全第一での運転期間延長次世代の原子炉の開発や建設を検討することを明らかにした。

首相は、「今日の会議では、再稼働にむけた関係者の総力の結集、安全性の確保を大前提とした運転延長など原発の最大限の活用、次世代革新炉の開発建設など、今後も政治判断が必要な項目が示された。あらゆる方策について、年末に具体的な結論を出せるよう検討を加速してもらいたい」と述べ、次世代の原子炉の開発や建設などを年末までに検討するよう指示した。


次世代革新炉については、小型モジュール原子炉など革新的原子炉に注目している。建設に当たっては国が前面に立って地元理解の醸成に取り組むなど、環境整備に万全を期す考え。

2021/5/31 日揮とIHI、小型モジュール原子炉事業に参画 

2021/12/9 カナダ社、日立ニュークリア・エナジーの「BWRX-300」小型モジュール式原子炉技術を採用

参考 池田信夫 「次世代革新炉」でエネルギー問題は解決するか



この中で、これまでに再稼働した原発10基に加え、来年の夏以降、追加で7基の再稼働を目指す方針を確認した。


原発の再稼働には、「特定重大事故等対処施設」が完成すること、地方自治体の同意が得られることが必要である。

テロ対策施設は「特定重大事故等対処施設」と呼ばれ、2011年の福島第一原発事故後にできた新規制基準で設置が義務付けられた。
原子炉から離れた場所に建て、遠隔制御で原子炉を冷やす設備を備える。原子炉が航空機の衝突などによる攻撃を受けても、電源や冷却機能などを失わないようにする。

テロ対策施設の設置期限は、当初は新基準の施行から5年の2018年7月だった。
規制委は2015年、原発本体の審査が長引いていたことをふまえ、「工事計画の審査終了後 5年」に先延ばしを決めた。

原子力規制委員会は2019年4月24日の定例会合で、原発に設置が義務付けられているテロ対策施設が期限内に完成しない場合、期限の延長を認めないことを決めた。原則として原発の運転停止を命じる。

2019/4/25 テロ対策施設未完成の原発、運転停止へ 

これまでに再稼働した10基のうち、美浜3号、大飯3号、玄海3号、玄海4号が工事中である。美浜3号は放射性物質を含んだ水が漏れ、8月12日の再稼働を延期した。

現在 運転
再開
特定重大事故等対策 運転再開 2023/2までの稼働期間 次期定検 政府案
完了済 期限
停止
完了
関電 高浜 3号 定検 8月 8月~
4号 定検 10/21 10/21~
美浜 3号 特定 2021/10 7月下旬 8/12→延期
大飯 3号 8/24 12月 12月~
4号 定検 8月 (8/24) 8月 8/15
四国 伊方 3号 ~2023/2/23 2023/2/23
九州 玄海 3号 定検
特定
8/24 2023/1/20 2023/1/20~
4号 定検 8月 9/13 2023/2

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川内 1号 2月中旬まで 2023/2月中旬
2号 通期 2023/5
合計 10基 4基 9基

これ以外で認可済みだが稼働をしていない原発は下記の通り。

特定重大事故等対策 運転再開 政府方針
期限
停止
完了
 認

 可

 済
東電 柏崎
刈羽
6号 2022/7 地元の理解を得るため、国が前面に立って対応
7号
原電 東海 2号 2024/9
関電 高浜 1号 2023/5 2023/6 安全確保の工事完了待ち
2号 2023/7
東北 女川 2号 2023/11 2024/2
中国 島根 2号   今年度中
合計 7基


原子力規制委員会は7月13日、柏崎刈羽原発6、7号機のテロ対策施設「特定重大事故等対処施設」について、「新規制基準に適合している」とした審査書案を了承した。

柏崎刈羽原発と東海第二原発は、地元からの同意が得られていない。

新潟県の花角知事は原発の安全性に関する県独自の「三つの検証」が終わるまでは再稼働を「議論しない」としており、再稼働の時期は見通せない。


東海第二原発は、安全対策工事を2024年9月に終える予定だが、周辺自治体の避難計画の策定が終わっておらず、再稼働の時期が見通せない。

原子力規制を監視する市民の会は、「東海第二原発の再稼働に反対するこれだけの理由 」として以下を挙げている。

1.危険な老朽・被災原発を動かす理由がない
2.「経理的基礎」がない/東電からの資金支援は論外

2012年以降、発電量はゼロだが、各電力から毎年1,000億円以上 、総額7,350億円にものぼる(2012~2017年度)電気料金収入を得て、延命

3.「債務保証」?

規制委は、日本原電に対して、債務保証の枠組みを質問したが、東京電力と東北電力の2社が、債務保証のみならず「電気料金前払」という言葉を入れた。

4.事故の際の賠償は?

5. 設置変更許可申請を何度も何度も出し直し

6. 懸念だらけの安全対策

7.避難計画の実効性は誰も審査しない

原発30km圏には96万人が居住


加えて、柏崎刈羽原発は去年、テロ対策上の重大な不備が相次いで発覚し、原子力規制委員会による検査が現在も継続している。

原子力規制委員会は2021年4月14日、柏崎刈羽原発のテロ対策の不備を問題視し、原発再稼働に必要な核燃料の移動や装塡を禁じる行政処分の是正措置命令を決定した。事態が改善されたと判断されるまでは再稼働ができない状態が続くことにな る。

2021/3/29 柏崎刈羽原発の再稼働、見通しつかず


今回、政府は
地元の理解を得るため、国が前面に立って対応 するとしている。なにかあれば、国の責任となる。

他の原発でも反対が強い。

東北電力女川原発2号機の再稼働を巡り、石巻市の住民が2021年5月28日、東北電の再稼働の差し止めを求める訴えを仙台地裁に起こした。重大事故を想定した広域避難計画の実効性を問う。

原告は原発から16~25キロの緊急防護措置区域に住む男女17人。住民らは「女川地域原子力防災協議会は避難計画の実効性を調査、確認していない」と主張し、「交通渋滞で30キロ圏内を脱出できない」「病院や高齢者・障害者施設の入院患者や入所者は避難困難」と計画の問題点を列挙。計画の実行可能性や実施体制を疑問視し「住民らの生命や身体を侵害する具体的危険性がある」と訴えた。

全国で唯一、県庁所在地にある中国電力島根原発所(松江市)をめぐり、島根県の丸山達也知事は6月2日、2012年から定期検査のため運転を停止している2号機(出力82万キロワット)の再稼働に同意を表明したが、再稼働をめぐり、残された課題の一つは重大事故が発生した際の避難計画の実効性だ。

原発30キロ圏にある島根、鳥取両県の6市には計約46万人が暮らす。これは日本原子力発電東海第二の約94万人、中部電力浜岡原発の約83万人に次ぎ、全国3番目に多い。

高齢化も進み、自力で避難することが困難な「避難行動要支援者」は約5万8千人にのぼる。

東日本大震災のような大地震と原発事故が複合して起きた場合、中国山地を越える道路は通行できるのか、5万人を超える要支援者を支えきれるかなどの疑問は根強い。

政府は、「地元の理解を得るため、国が前面に立って対応する」としている。現在、避難計画は地方任せだが、政府が避難計画に責任をもつのだろうか。

付記 

使用済み核燃料の処理の問題も未解決である。特に関西電力は大変である。

関電は2015年以降、使用済み燃料を一時保管する中間貯蔵施設を県外に建設する方針を示してきた。

2017年11月、福井県知事が関電大飯原発3、4号機の再稼働に同意する際、関電は2018年に県外候補地を示すと約束した。だが選考は難航し「2020年を念頭に」と先送りしたが、まだ「関電から報告はない」。

知事は2020年12月2日、「提示が既に2年遅れ、地元と関電の信頼関係が崩れている」とし、40年超原発(高浜3、4号、美浜3号)の同意判断に当たり、年内提示が「全ての条件に先んじる」と踏み込んだ。

結局、関電は年内に県外候補地を示せなかった。

知事は、「(再稼働の)議論の入り口には入れない」とする一方、「最大限努力するということなので、それを待ちたい」とも述べた。

県幹部は「関電が『早く報告に来る』というから了とした。貯蔵プールの満杯も迫っているので、今回は期待もしていたが......」と話した。

電気事業連合会は12月18日、経済産業省の幹部とともに、むつ市役所に市長を訪ね「中間貯蔵施設」について、電力各社との共同利用に向けて検討に入りたいとする考えを伝えた。

これに対し市長は「青森県やむつ市は核のごみ捨て場ではない。中間貯蔵場所は全国で探すべきなのに、それがないまま突然『むつ市でお願いします』とはならない」と述べ、強い不快感を示した。

むつ市に拒否されると、高浜3、4号、美浜3号の再稼働の同意が得られなくなる。

福井県がこれまで関西電力に求めていた使用済み燃料の中間貯蔵施設県外候補地選定について、関西電力はたびたび延期していた回答期限を2023年に再延期し、福井県はこれを了承。40年超運転となる美浜3号、高浜1・2号の再稼働を容認した。

関電は2023年末までに確定できない場合、稼働停止を約束しているが、県外移転先が見つかる可能性はない。

2020/12/21 日本の原発の最近の諸問題

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