アルジェリアの天然ガスをドイツに送る新パイプライン計画

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ロシア国営 Gazprom は6月14日、天然ガスパイプラインNordstream 1 の供給量を40%減らすと発表、翌15日、さらに33%削減すると発表した。従来の日量最大1億6700万立方メートルから60%カットし、最大6700万立方メートルになる。


ドイツ重電大手Siemens Energyなどによると、パイプライン内のガス圧力を高めるために使われるガスタービン 1基をカナダで修理したが、カナダ政府の制裁措置によってGazpromに提供できなくなったという。Siemens Energyではドイツとカナダ政府に事態を連絡し、解決策を協議していると発表した。

カナダ政府は7月9日、修理したタービンをドイツに返却すると発表した。

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その後、Gazpromは7月27日から供給量を日量3300万立方メートルに落とした。従来の供給量の2割程度である。
タービンについては、5月の時点でシーメンスから修理済みのエンジンを受け取る予定だったが、7月末時点でエンジンを受け取っていないとした。

Gazprom は8月19日、定期メンテナンスのためNordstream 1を8月31日から3日間停止すると発表した。点検終了後に故障などがなければ、日量3300万立方メートルの供給を再開する計画としている。

供給停止の発表後、ヨーロッパのガス価格は7%跳ね上がった。

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この状況を受け、ドイツと南欧を結ぶ新たな天然ガスのパイプライン敷設計画が浮上している。2019年に一度中断したが、ロシアからのガス供給が削減されるなか、 スペイン政府が再提起した。

アルジェリアは天然ガスと石油を多く産し、天然ガスは地中海の海底パイプライン4本でイタリア、スペインに送られており、欧州の経済を支えている。

他に、ナイジェリアのガスをこれらのパイプラインで欧州に輸出するために、ナイジェリアとアルジェリアを結ぶパイプラン建設の計画がある。


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今回の計画は、アルジェリアからスペインに海底トンネルで送られる天然ガスを、ピレネー山脈を貫くパイプライン約200キロメートルを新設して既存のフランス・ドイツ間のパイプライン経由でドイツに送るもの。

同区間がつながれば、スペインが海底パイプラインで輸入するアルジェリア産ガスをドイツなどへ送れる。さらにスペインとポルトガルが米国などから輸入している液化天然ガス(LNG)の大量供給も可能になる。


ピレネー山脈を貫く建設費の試算は4億4000万ユーロ(約600億円)で、環境保護団体の反発もあり、2019年に計画は頓挫していたが、 スペイン政府が提案した。ショルツ独首相は8月11日、関係する3カ国、欧州連合(EU)の首脳と協議したうえで「現在の厳しい供給状況を大幅に改善できる」と計画推進の考えを示した。

スペインのリベラ環境保護相は「協力を得られれば8~9カ月で稼働可能」としており、EUも資金支援に前向きとみられる。

ガス依存度が低いフランスはこれまで計画に否定的だったが、現在は水不足や定期修繕の影響で全体の半分の原発が稼働を制限されている。ドイツから大量の電力供給を受けており、方針を変える可能性がある。

なお、下記の通り、アルジェリアとモロッコの国交断絶によりパイプライン2本のうち、モロッコ経由の1本が使えなくなり、十分な量が追加で送れるかどうかが問題となる。

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アルジェリアからスペインには2本のパイプラインが通っている。

Maghreb Burrop Gas Pipeline (MEG)はアルジェリアからモロッコを経由し、スペインと結ぶ。

2011年完成のMedgaz Pipelineは、アルジェリアのBeni-SafからスペインのAlmeriaまで地中海の深さ2160mの海底200kmを結ぶ。

アルジェリアは2021年8月24日、モロッコ政府との国交断絶を発表した。モロッコが同国に対して敵対的な行動を続けているとして、パレスチナ人の権利支援や西サハラ問題解決への努力などをうたった両国間の国交正常化の下での1988年5月の共同コミュニケにモロッコが違反していると説明した。
  • モロッコがイスラエルとの国交正常化を積極的に進める中、イスラエルのヤイル・ラピッド外相が2021年8月11日にモロッコを訪問した際に、アルジェリアに対して敵対的な発言をした。
  • モロッコ政府がアルジェリア北東部カビール地方の独立派テログループを支援し、8月上旬に同地域で多数の死者を出した大規模な山火事の発生に関与した。
  • モロッコ政府が、イスラエル企業が開発したスパイウェア「ペガサス」をアルジェリアの当局者および国民に対して広く使用した。
  • モロッコ政府が西サハラ問題の解決への取り組みを拒否している。

アルジェリアのエネルギー鉱業相はスペイン向けガス輸出について、モロッコ領内を経由する「マグリブ・ヨーロッパ・ガスパイプライン」を2021年10月末で停止し、全てのガス輸出はスペイン・アルジェリア間を直接結ぶ「メドガス・ガスパイプライン」を介して行う方針を発表した。

また、炭化水素公社「Sonatrach」によると、北西部ベニー・サーフでの新たなガス圧縮機の運転に伴い、メドガス・ガスパイプラインの年間輸送量が現在の80億立方メートルから105億立方メートルまで増加する見通しを発表した。

アルジェリアのガス供給網の変更により、モロッコはアルジェリアからガス供給を受けられなくなり、ガスパイプラインの通過料収入も失う 。

モロッコ政府は、当面はスペインの受け入れ基地を通じてLNGを輸入して再ガス化した上で、同パイプライン経由でスペインからモロッコに逆送するかたちで供給を受ける。

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