バイデン米大統領は8月16日にインフレ対策法案:Inflation Reduction Act of 2022 に署名し、成立した。大統領は「気候変動に関するこれまでで最大の前進だ」と強調した。
エネルギーコスト引き下げ、クリーンな生産、2030年までにカーボン排出の40%削減を狙い、3,690億ドルを投じる。
新法では、
低・中所得者がエコカーなどの新車を購入する際に1台当たり最大7500ドルの税控除を受けられる。
既存のEV減税は適用対象を自動車メーカーごとに20万台と定めていたが、台数の上限を撤廃する。
ただ、EV減税の対象となる新車について、北米地域での最終組み立てを義務付けた。さらにEV用電池の原材料である重要鉱物の調達先を、米国か、米国と自由貿易協定(FTA)を結んでいる国に事実上制限する。世界シェアの高い中国製品をサプライチェーン(供給網)から排除する狙い。
米国政府は法律が成立した8月16日から北米での組み立てでない電気自動車へのエコカー補助を中断した。
米自動車イノベーション協会は声明を出し、新法の成立により、米市場で販売されているEV72モデルの約7割が、直ちに減税の対象外になると警告した。
EUや韓国は、米産品を優遇するEV減税について、内外無差別をうたったWTOルールに反すると主張している。
エネルギー省は法案成立に伴い、北米での組み立て電気自動車のリストを発表した。Manufacturer sales cap metと注意書きがあるのは「累計20万台まで」との現在の制限にかかるもの。2023年からは制限が外れるとされる。
BMW・アウディ・ベンツや日産、ボルボは電気自動車とPHEVのうち1-2車種が補助金の対象となるが、米国で自動車を組み立てていない韓国の現代自動車は、電気自動車5車種のほかプラグイン・ハイブリッド(PHEV)の5車種もエコカー補助金の支給対象から外される。
現代自動車グループが米国で販売中のトゥサン、サンタフェ、スポーティジ、ソレント、ニロのPHEVは全て16日からエコカー補助金支給対象から外れた。米国の消費者が現代自のPHEVを購入する際に受け取っていた6587ドル(約90万5000円)を上限とする補助金が全てなくなった。今回補助金の支給対象から外れた現代自グループのエコカー10車種は今年上半期の米国での販売台数が5万台近くに達していた。
日産はNissan Leafが対象となる。トヨタは含まれていない。
逆にテスラやGMは、「1ブランド当たりの補助金支給は累計20万台まで」という従来の規制が2023年からなくなり、米国市場でさらに有利な立場に置かれるようになった。
テスラは2019年、GMは2020年に電気自動車とPHEVの補助金支給台数が累計で20万台を上回ったため、ここ2-3年は米国で両社の電気自動車を購入しても補助金は受けられなかった。
GMなど米国の自動車メーカー各社はインフレ削減法が成立する直前まで「補助金対象上限20万台」の規制撤廃に向けロビー活動に力を入れていたが、これを最後まで貫徹した形だ。
一方で、中国製バッテリーと中国産のレアメタルを使用した電気自動車は税控除の対象外になるということで、米国で生産設備を増やしてきたLGエネルギーソリューションとSKオン、サムスンSDIなど韓国のバッテリー企業は、補助金の支給による市場拡大と、中国へのけん制による反射的利益を得ることになる。
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なお、現代自動車は5月21日、米ジョージア州に電気自動車(EV)の専用工場を新設すると発表した。
投資額は55億ドルで、2025年の稼働を目指す。生産能力は年産30万台規模で、車載電池工場も併設する。
2022/5/24 現代自動車、米にEV工場
米ジョージア州経済開発省長官は8月18日、現代自動車の同州におけるEV工場が目標時期を前倒しし、2年以内に稼働できるよう全力を尽くしていると述べた。「今年10月25日に着工し、2024年10月に稼働することが目標だ」と表明した。
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