米国系私募ファンドのローンスターが韓国政府を相手取って起こした投資家・国家国際紛争解決制度(ISDS)事件で、韓国政府に2億1650万ドル(約300億円)の賠償責任が認定された。ICSIDの仲裁判定部が8月31日に韓国政府に判定結果を伝えた。
2012年11月にローンスターが国際投資紛争解決センター(ICSID)に訴訟を起こしてから10年たっている。
米ワシントンの国際投資紛争解決センター(ICSID)で2015年5月15日、米国系ファンドのLone Star と韓国政府間の国際仲裁が始まった。
Lone Star は当初43億ドルだった請求金額を「為替相場変動による損害」などを理由に46億7950万ドルに増額した。
争点は①売却遅延損害と②課税問題による損害の2点である。
①売却遅延損害 約32億ドル
Lone Starは2003年10月、経営危機に陥った韓国外換銀行に1兆3,830億ウォンを投資して51%を取得し、その後、同銀行の経営を立て直し、収益性を大幅に向上させた。
Lone Starは2007年9月に香港上海銀行との間で、韓国外換銀行を5兆9,376億ウォンで売却する内容の売買契約を締結した。
しかし、韓国の金融監督院は、売却の承認を1年近く先送りした。Lone Star は2008年4月まで香港上海銀行との契約を延長して承認を期待したが、最終的に金融監督院の承認は得られず、香港上海銀行は世界金融危機の余波もあり、2009年9月に契約を諦めた。
その後2012年にLone Star は韓国外換銀行株をハナ銀行に3兆9,157億ウォンで売却した。(この金額での売却でも大きな売却益を得ている。)
Lone Star は韓国政府の承認の先送りによって、売却額の差額の約2兆ウォンの損失が発生しただけでなく、その間の諸費用を考慮すると、その損害賠償額は3兆3,800億ウォンに上ると主張した。
これに対し韓国政府は、Lone Starが韓国外換銀行の買収費用を抑えるために虚偽の減資説を流布したことと、また株価操作の疑いもあって、Lone Star が捜査を受けていたため売却の承認ができなかっただけで、故意に承認を延ばしたわけではないと主張している。
韓国の株価操作の裁判では、一審でLone Starが敗訴、二審で逆転勝訴した。
②課税問題 約15億ドル
2003年10月に外換銀行を買収したのは、Lone Star のベルギー法人であるLSF-KEB Holdings である。
Lone Star は、LSF-KEB Holdings は韓国とベルギーの投資保障協定の適用対象であるとして、韓国外換銀行株をハナ銀行に売却した際に国税庁が徴収した10%のSales Tax 分 3915億ウォンなど、各種税金合計8500億ウォンと、利子、為替差損などの返還を求めている。
韓国政府は、LSF-KEB Holdings はペーパーカンパニーだとしている。
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今回、仲裁機関はローンスターが2012年に外換銀行売却に関連して請求した全体46億7950万ドルのうち2億1650万ドルだけを認めた。
①売却遅延損害 請求額 約32億ドル
仲裁機関は、香港上海銀行への売却の白紙に関しては「2011年の韓国・ベルギー・ルクセンブルク投資保障協定発効以前に発生した行為で、管轄権がない」としてローンスターの請求を棄却した。
金融委がハナ銀行の買収承認を遅延して売却価格が落ちたことに限り、「公正・公平待遇義務に違反する」としてローンスター側の主張を一部認めた。韓国政府の売却承認の遅延行為に対しては、ローンスター側の主張を受け入れ、投資保障協定の公正・公平待遇義務違反に該当すると判断した。
ただ「当時ローンスターが外換カード株価操縦で有罪判決を受け、このために外換銀行の株価が下落した」とし、ローンスターに50%の過失相殺責任を問うて、価格下落額 4億3300万ドルの半分の2億1650万ドルだけを認めた。
外換カード株価操縦事件は、2006年に最高検察庁中央捜査部が国際決済銀行(BIS)自己資本比率操作による外換銀行安価買収疑惑事件(無罪確定)と共に捜査したローンスター関連の2大疑惑事件で、ローンスターが外換銀行買収直後に外換カードを安く合併しようと虚偽の減資説を広めて株価を落としたというもの。
株価操縦事件は2011年に当時の最高裁判事が主審を務め、無罪とした原審を有罪の趣旨で破棄した。翌年2月に同社の代表は懲役3年刑、ローンスターは罰金250億ウォンが確定した。
②課税問題 約15億ドル
仲裁機関は、税金15億ドルは「韓国政府の課税処分は国際基準に合う」として受け入れなかった。
③利息
仲裁判定部は、外換銀行の売却金額が確定された2011年12月3日から賠償金の完納時まで、利息(1カ月満期の米国国債の収益率基準)も支払うよう求めた。
法務部が計算した遅延利子は185億ウォン(約19億円)程度である。
韓国のハン・ドンフン法務部長官は会見で、「政府はローンスターの外換銀行売却承認審査過程で国内の法規と条約に基づき差別なく公正、公平に待遇したという一貫した立場である」と主張、「請求額に比べ大幅に減額されたが、仲裁判定部の判定は受け入れがたい。政府は判定取消申立てなど後続措置を積極的に検討する」と述べた。
国際投資紛争解決(ISDS)仲裁手続きは一度の判定で終わる一審制が原則だが、例外的に控訴の性格の取り消しおよび執行停止の申し立てを認めている。
仲裁機関の構成員が適切か、越権の有無、手続き上の欠陥など5つの事由で判定後120日以内に判定取り消しを申し立てることができ、その場合、別途の取り消し委員会を設けて再び判断することになる。
期間は1年以上かかり、過去10年間で約10%の事件に限り既存の判定が取り消しになったという。
韓国政府は仲裁機関の3人のうち1人が韓国側の意見に全面的に同意したという点に期待をかけている。
法務部によると、判定文400ページのうち40ページはこの1人が作成した少数意見という。少数意見は「ローンスターが主張する損害は株価操縦で自ら招いたものであるため、韓国政府の責任は全く認められない」とし、韓国政府の賠償額を0ウォンと判断した。
多数決により利子を含む約3000億ウォンの賠償額が決定したが、意見は正反対に分かれ、少数意見がかなり多く記述された点は異例である。
参考 2015/9/25 韓国にイラン企業から3番目のISD提起
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