興和、イベルメクチンのコロナ治療薬としての効果確認できず

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興和は9月26日、新型コロナウイルス感染症患者を対象としたイベルメクチン第III相臨床試験結果を発表した。

軽症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者1,030例を対象として実施した国際共同、多施設共同、プラセボ対照、無作為化、二重盲検、並行群間比較試験である。

昨年11月から本年8月に、日本とタイの軽症患者1030人を対象に実施した。患者を無作為に分け、イベルメクチンと偽薬(プラセボ)を「二重盲検方式」で投与した。

投与開始から7日間の経過をみたところ、4日前後で、37.5℃以上の発熱▽のどの痛み▽筋肉痛などの症状は軽くなったが、統計的に有意差は認められず、「より早く症状がおさまることの有効性を見いだすことができなかった」。死亡例はなく、重症化例もほとんど認められず、安全性は確認された。

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2020年4月29日付のSSRNに、大村智博士がノーベル医学・生理学賞を受けた抗寄生虫薬の「イベルメクチン」がCOVID-19に効果があるとする報告が出た。

イベルメクチン(ivermectin)は腸管糞線虫症の経口駆虫薬、疥癬、毛包虫症の治療薬である。

Merck & Co., Inc.(米国とカナダ以外では独のMerck と区分するため MSDの社名を使用)のDr. William Campbell 治療薬の開発を進めていたが、大村智・北里大特別栄誉教授が静岡県伊東市内のゴルフ場近くで採取した土壌から見付けた新種の放線菌「ストレプトマイセス・アベルメクチニウス」(Streptomyces avermitilis)が生産する物質を元にイベルメクチンをつくった。

イベルメクチンは、河川盲目症(オンコセルカ症)に加え、象皮病にもなるリンパ系フィラリア症、世界で数千万人が感染しているとされる糞線虫症(糞線虫が消化器官に寄生する寄生虫感染症)などにも効果があるということが分かった。

大村智特別栄誉教授とDr. William Campbell は2015年にノーベル医学・生理学賞を共同受賞した。

日本ではMSDが、腸管糞線虫症および疥癬用に商品名ストロメクトールで製造、マルホが販売する。

2020/4/27 「イベルメクチン」新型コロナに効果か

イベルメクチンの新型コロナウイルス感染症に効くとの声が高まり、インドネシア、マレーシア、フィリピン、インドなどで適応外使用が進んでいる。

尼崎市の長尾クリニックの長尾和弘医師は、
 1) インフルエンザ並みの5類に変更せよ、
 2) 治療薬イベルメクチンを「スガノメクチン(菅のメクチン)」「スガルメクチン(メクチンに縋る)」として国民全員に配布せよと主張した。

2021/8/16 新型コロナウイルスに関する長尾医師の提言

大村智博士は、「イベルメクチンが多くの種類のウイルスに対して抗ウイルス性を示すことは既に知られており、・・・ 新型コロナウイルス感染症が重症化する原因となるサイトカインストームと呼ばれる患者の免疫反応の異常な亢進を抑制する作用も協調的に発揮されていることが確認されつつあります」と述べている。(同氏編著「イベルメクチン 新型コロナ治療の救世主になり得るのか」)

米国でもFDAはコロナ治療で利用を承認していないが、個人の選択において適応外使用が行われている。但し、慎重な声もある。
WHO、FDA、米感染症学会のいずれもが、現段階では治験を除き、イベルメクチンをコロナに適用しないよう勧告している。

Merck & Co., Inc.は国内で子会社MSDがイベルメクチンを製造するが、適応拡大に向けて動いていない。同社は2021年2月4日、イベルメクチンを新型コロナウイルス感染症治療に使う可能性について、データを検証したところ、安全性と効果は示されなかったと発表、寄生虫病の治療以外の用途で使用すべきでないと警告した。

Merckは2021年11月10日、新型コロナウイルスの飲み薬「モルヌピラビル」供給について日本政府と合意したと発表した。160万回分を約120億ドル(1300億円)で供給する。(1回分 約8万円)

2021/10/29  米Merck、途上国向け販売のためCOVID-19飲み薬「モルヌピラビル」をライセンス

こんな高価な薬を持つ企業が、1回分数百円のイベルメクチンでコロナ用の承認を得る筈がない。

日本において企業が主体となった臨床試験は行われていなかった。

そのなかで興和は、北里大学大村智記念研究所の大村智特別栄誉教授より直接、興和での本臨床試験実施に関する依頼を受け、本臨床試験実施を決断した。北里大学・大村智特別栄誉教授、花木秀明教授、愛知医科大学・三鴨廣繁教授ならびに東京都医師会の協力の下、イベルメクチンの新型コロナウイルスに対する臨床効果を早急に確認し、早期に治療薬の実用化を目指した。

2021/7/10 興和、新型コロナウイルス感染症患者を対象としたイベルメクチンの臨床試験を開始 

興和は本年1月31日、新型コロナウイルス感染症治療に対する第臨床試験で使用している治験薬「イベルメクチン」について、北里大学との共同研究(非臨床試験)から、既存の変異株(アルファ・ベータ・ガンマ・デルタ株)と同様に、 オミクロン株に対しても同等の抗ウイルス効果があることを確認したと発表した。但し、臨床試験の結果ではない。

今回の結果を受け、興和は新型コロナの治療薬としての承認申請を断念する。三輪芳弘社長は「全社挙げて治験に臨んできたが、この結果では承認申請を考えることはできない。結果を受け入れたい」と述べた。

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素人考えだが、軽傷感染者はほとんどが4日前後で症状が軽減する。イベルメクチンを処方した医師は、これをみてイベルメクチンが効いたと考えたのではないか。
WHOなどは二重盲検での結果ではないとして、これを否定した。それが正しかったことになる。

今回の二重盲検での結果、差が無かった。

但し、軽傷感染者でも重症化する可能性はある。イベルメクチンがそれを防げるかどうかが問題。今回は1030人のうち、 何故か、偽薬側にも重症化する人がほとんどいなかったと思われる。

「興和は引き続き、細部に渡り様々な角度から本試験結果のデータ解析を進め、本剤の可能性についてさらに確認してまいります」としており、それを待ちたい。

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