英トラス首相、財務相を解任 法人税減税を撤回

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Liz Truss英首相は10月14日、Kwasi Kwarteng 財務相を解任し、後任にJeremy Hunt元外相が就任すると発表した。9月の政権発足直後に打ち出した経済対策を巡って混乱が広がった責任を明確化した。

Truss首相は、「経済の安定性が重要だ。我々は財政規律を保ち市場を安心させるために今すぐ行動する必要がある」と述べ、自身の辞任は否定した。

党首選の序盤で国民保険料の引き下げとともに訴えた目玉政策だった法人税については、「前政権が計画した増税の凍結」の撤回を表明した。

付記

英国のSuella Braverman内相は10月19日、職務上の技術的なミスを理由に辞任を表明した。首相への辞任の書簡では、「政府の仕事は間違いの責任を受け入れることで成り立っている」と記しており、経済失政で市場を混乱させたトラス首相にも退陣を促す辞任だとみられている。

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Truss 外相とSunak 前財務相の2人の争いとなった英国保守党の党首選は、およそ16万人の党員による投票が締め切られ、日本時間の9月5日午後8時半に結果が発表された。

Mary Elizabeth Truss(Liz Truss)候補が 81,326票 対 60,399票でRishi Sunak候補に勝利した。

2022/9/6 英国の新首相誕生 

Liz Truss保守党新党首は9月6日午後、スコットランドに滞在中のエリザベス女王を訪れ、新首相に任命された。(女王は翌々日9月8日夕に逝去)

新政権のKwasi Kwarteng 財務相は9月23日、1972年以来の大規模減税を柱とする「成長プラン」を発表した。

トラス政権の経済対策 5年間で1610億ポンド(約25兆5000億円)

1) エネルギー対策  10月から半年で600億ポンド(約9.3兆円)

家計向け:光熱費価格に上限、加えて、所帯ごとに半年で400ポンド割引

企業向け:電気・ガス卸売価格に上限、光熱費は想定水準の半分に

2) 大規模減税   5年間で450億ポンド(約7兆円)  *党首選での公約は総額300億ポンド

2023/4予定の法人税率引き上げ(19%→25%)を取り止め (G20で最低税率)〈今回 撤回〉

2022/4の国民保険料1.25%引上げの撤回

2023/4からの所得税基本税率1%引き下げ(20%→19%)
最高税率の引き下げ(45%→40%)〈10/3 撤回〉

住宅購入者の印紙税引き下げ

海外からの買い物客の消費税を免除するデジタルシステムの早期導入

3)バンカーの賞与制限は撤廃

この中には法人税増税の撤回や銀行員の賞与制限撤廃が含まれ、野党・労働党から富裕層優遇との批判を浴びた。与党・保守党の内部でも、元財務相の長老クラーク議員が、減税はポンド崩壊を招きかねないと警告、中南米諸国が試みて失敗してきた政策だと指摘した。

この経済対策は財源が明確でないことから、財政やインフレの悪化につながる懸念を生み、9月26日の外国為替市場で、英ポンドが一時、1.035ドルまで下落し、過去最安値を更新した。

2022/9/27 英ポンド暴落


英ポンドの下落に合わせ、英国債価格も急落(=国債利回りは急騰)した。30年物国債は3%台後半から一時5%強まで跳ね上がた。

これにより、低金利を前提にリスクが潜む運用に傾斜した年金が、国債価格の急落で資金難に陥る恐れが出た。

翌27日も長期国債を中心に利回りは上昇を続けた。

イングランド銀行(中央銀行)は9月28日、英国の長期国債を一時的に購入することを発表した。 この状況が継続すれば英国の金融の安定性にとって大きなリスクになるとして、今回の購入策に踏み切った。
この措置は10月14日に期限を迎えた。


イングランド銀行は9月22日に、政策金利を0.5%引上げ、年2.25%にするとともに、量的緩和策として過去に買い入れた国債の売却も決定していたが、
今回、この800億ポンドの保有国債の削減については変更しないものの、現在の市場環境に鑑み、10月3日から開始予定だった売却の開始を10月31日まで延期した。

2022/10/4 英中央銀行、長期国債の一時的購入を発表、国債売却は延期

この「成長プラン」は、IMFも「格差を広げる可能性が高い」と再考を促した。

Kwarteng 財務相は10月3日、高所得者向けの所得税の減税(年収15万ポンドを超える部分にかかる所得税率を45%から40%に引き下げ)を撤回すると表明した。

減税策全体の規模は年450億ポンドだが、撤回する高所得者向け減税の財政負担は数十億ポンドほどにすぎず、トラス政権の経済対策に対する市場の懸念が払拭されるかどうかは不透明とされた。

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今回、首相は財務相を更迭するとともに、前政権が計画した「法人税率引き上げ(19%→25%)」の取り止めを撤回した。
2023年4月に法人税率を19%から25%に引き上げる。180億ポンドの企業負担につながる。

党首選の序盤で国民保険料の引き下げとともに訴えた目玉政策だった。

首相は、エネルギー価格の急騰による家計負担の軽減策が必要との考えを改めて強調した。

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